史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㉕
「はぁ~……まあまぁ楽しめたかなぁ~……」
『確かに白熱したバトルではあったな……』
『うぅ……ヨッカ、全然勝てなくてちっとも面白くなかったぁ……はぁ……』
「お、俺も全然……また直美ちゃん上手くなってぇ……はぁ……」
「う、ウッホォォ……はぁ……」
楽しそうな声を洩らす直美とそこそこ満足そうな美瑠。
逆にその二人に全く歯が立たなかった俺たちは恨みがましい声を上げつつも、ようやく終わった解放感に思わずため息をついてしまう。
「あははっ!! じゃぁ次はチーム戦でやるぅ? それとも違うジャンルのゲームでもいいけどぉ?」
『ふむ、その場合は私とナァミで別れたほうが良さそうだが……今日のところはこの辺りにしておこうではないか』
『そ、そうしてよぉ……ヨッカもう疲れちゃったしお腹ペコペコぉ……お兄ちゃんとお夕食食べるお時間だしぃ……』
「あー……まあ確かにナァミもお腹減ってるけど……うぅん、もうそんな時間かぁ……じゃぁ配信はこの辺にしておくね……じゃあみんな、また見てねぇ~っ!!」
時計を見上げて時間を確認した直美はあっさりと配信を終わらせたが、その声はどこか未練がましい様に聞こえた。
実際にその顔には寂し気な表情が浮かんでいて、まだまだ遊び足りないという気配が伝わってくる。
(純粋にもっと俺たちと遊びたいのか……それとも現実を思い出したくないのかな……)
俺個人としては直美にこんな顔をさせないためなら幾らでも付き合ってボコられ続けても平気……ではないが、まあ覚悟は出来ている。
しかし生活を考えればそんな俺や直美の我儘に他の人達を付き合わせるわけにはいかない。
「ナァミ……直美ちゃん、とりあえず先に夕食を食べちゃおうよ……その後だったら俺はまだ付き合えるからさ」
「……えへへ、ありがとう史郎おじさん……そうしよっかぁ?」
『こっちにも聞こえているからな直美……全く油断するとすぐにイチャつこうとする……兄さんが傍にいない私への当てつけか?』
『み、美瑠だって前は滅茶苦茶……いや、陽花は美瑠の恋愛観には突っ込まないって決めたんだった……はぁ……それより直美ちゃん、明日も迎え行くから一緒に学校行こうね?』
そこで美瑠の言葉を聞いて何やら疲れたようなため息を再度ついた陽花だが、すぐにちょっとだけ真剣な口調で直美に語りかけてくる。
『そうだぞ直美……幾ら出席日数を計算しているとはいえ、この先何があるかはわからないのだから今のうちに少しでも学校へ通ってだな……』
「そ、それは……うぅ……か、考えとくけどぉ……そ、それより私トイレ行きたいから一抜けるねっ!! じゃあまた明日っ!!」
お友達二人の誘いを受けても直美は即答することが出来ず、むしろ話をごまかすように捲し立てると、ヘッドセットを外すと逃げるように部屋を飛び出していった。
「直美ちゃん……はぁ……ごめんね二人とも……本当に沢山面倒かけちゃって悪いね……」
『いや、迷惑とも面倒だとも思ってはないとも……事情が事情だから仕方ないことではあるし、何より直美にはたくさん恩義がある……それ以前に直美は私にとって何より大切な友人だからな……私がその関係を守りたくて行動しているに過ぎないのだからね』
『そうそう、陽花も直美ちゃんのこと大好きだから放っておけないだけで、好きでやってるんだからこれぐらい何ともないけどぉ……おじさんさぁん、このままじゃ不味いよぉ~……』
直美が居なくなったことで代わりに謝罪する俺に対して、二人もまた直美の前では言えなかったであろうことを口にし始める。
『陽花の言う通りだ……元々学校でも人目を気にして……特に男子の傍に近づくのを苦手としていたのに、ここのところは女子すら倦厭するようになって……もはや私たちの傍以外では一言も口を開かなくなってしまったぐらいだ……』
『しかも前は私達が傍に居ればある程度まともで一緒に笑い合えてたのに、最近は弱音を吐いたり謝ったりで……ずぅっと落ち込んでんだからねぇ……今みたいに私たち以外の人目がないところで遊んでようやく笑えるぐらいだし……このままじゃぁ引きこもりさん一直線だよぉ……』
「……そうなんだ……家でも甘え方が酷くなってたから気にしてたけど、やっぱり外でもそうなんだね……」
「……やっぱり俺のせいか……くそ、何で俺は考えも無しに霧島を連れて帰ったりしたんだ……っ」
配信は切ってもパーティチャットは解散していなかったがために、二人の会話を聞いていた亮もまた悔しそうな声を上げ始めた。
『その霧島さんってのが帰って来ちゃった直美ちゃんの母親なんでしょぉ? しかも、言いずらいけど変な噂の元になってた……』
『そんな奴が戻ってきたから直美は今まで以上に下劣な視線を向けられかねないと怯えているようだが……全く男というものはどいつもこいつも胸だとなんだのと……幾ら年頃とは言え直美が意識してしまうのも無理はない話だ……』
「……ああ、そういうのもあったのかぁ」
陽花の言うことはともかく、美瑠の言っていた内容はある意味で俺が想定していなかった内容であった。
(俺は直美ちゃんをそう言う目で見ないように自戒してるからともかく……考えてみたら直美ちゃんはあの年の女子とは思えないほどあちこち目立ってる身体をしてる……そこへ霧島の噂が絡んでくれば、否が応でもそう言う目で見られることは多くなる……それもあって余計に人目を気にしてたのか……)
改めて直美の置かれている環境の苦しさを思い知らされたような気がして、思わず部屋のドアを見つめてしまう。
『ほんとぉにねぇ……美瑠も美人さんだからそーいう視線には慣れてるようで、お胸さんだけはまったいらだからねぇ……どぉフォローしていいか分かんないし隣に立っても盾になってあげられないみたいだからねぇ……』
『……平らではない……ちゃんとB以上はある……直美が育ち過ぎなだけだ……私は平均……いやむしろそれ以上あるとも……』
普段はきはきしている美瑠が珍しく歯切れ悪くボソボソと呟き始める……どうやら胸の大きさにコンプレックスでもあるようだ。
少し微笑ましいような、それでいて娘のお友達からそんな話を聞いて気まずいような気持ちもある。
しかしそれ以上に俺は、やはり直美のことが気になって仕方がなかった。
「そうか……直美ちゃんはそんな思いも味わってて……はぁぁ……全く気付けなかった俺は本当に馬鹿だなぁ……」
「俺も同じだよ……しかしそうかぁ……そればっかりは俺達男にはどうしようもないしなぁ……」
亮も同じなようで直美のことを気に掛ける発言をするが、実際問題これをどうしたらいいか俺には全く分からなかった。
(だけど少しだけ分かった気がする……今の直美ちゃんが感じている苦しみの根源となっているのは二つ……自分を捨てた母親との関係の拗れ……そしてその母親が残した悪い噂と自らの身体が絡んで周囲がセクハラ的な視線を向けてくること……これらがいろんな問題とくっ付いて直美ちゃんの精神を追い詰めてるんだろうな……)
逆に言えばこの二つの問題さえ何とか出来れば直美の精神はかなり改善に近づくと思う。
しかし俺にはどうすればいいのか、今の時点では全く分からなかった。
(霧島と直美の関係については急いでどうにかなるもんじゃないから時間をかけてゆっくりと経過を見守るしかないと思ってたけど……変な目で見られることに関してはなぁ……この場所を離れてもあの身体じゃ嫌でも付いて来かねないし……どうすればいいんだろうなぁ?)




