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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㉔

「お邪魔しまぁ……うぉっ!?」

「史郎おじさん、いらっしゃぁあああいっ!!」


 亮との話し合いを終えて霧島家へと移動した俺だが、家の中に入るなり直美が飛びついてきた。

 そして俺の身体に抱き着いたまま背中に回り、そのまま奥へと押し込もうとしてくる。


「直美ハウスへようこそぉ~っ!! さあさぁ入って入ってぇ~っ!!」

「わ、わかったから押さないでっ!! というかゲームはどうしたのっ!?」

「えへへ~……しろぉおじさんに会いたくなっちゃったから一時ちゅぅだんしてここで待ち構えていたのだぁ~っ!!」

「……っ」


 俺の背中に顔を摺り寄せながら嬉しそうに呟いた直美だが、その内容を聞いて内心ショックを受けてしまう。


(な、直美ちゃんがゲームを中断するなんて……一度始めたら食事すら面倒くさがってぶっ続けでやってたあの直美ちゃんが……ましてお友達と一緒にやってる配信なのに……)


 今までそんなことは一度もなかった。

 分かっていたことだが、どうやら直美は予想以上に弱っているようだ。


(そんなに霧島との再会が堪えてたのか……道理で霧島が傍にいる状況をあの亮が嫌がるわけだ……)


「ほらほらぁ~、早く直美のお部屋に行って皆でゲームやろうよぉ~」


 そんな自分の状態に気づいていないのか、直美は無邪気な笑顔を浮かべて子供が甘えるように俺にくっついて離れようとしない。


(この笑顔の裏で直美ちゃんはどんな感情を抱いてるんだろう……それとも俺が傍にいるからこそ一時的にでも不安を忘れて安心して笑えてるのかな……)


 もしそうならば、俺は幾らでも……それこそ仕事を休んででも傍にいてあげたいと思ってしまう。

 直美の笑顔のためなら……この子が幸せになるためなら俺は何を犠牲にしても良いと本気で思えるのだ。


「……そうだね、亮も直美ちゃんのお友達も待ってるだろうし……よぉしっ!! 久しぶりに本気出しちゃうぞぉっ!!」

「やったぁ~っ!! 良い鴨……遊び相手が増えたぁ~っ!! これで直美の魅せプレイが映えてしちょーしゃばいぞーのチャンスゾーンとつにゅーかくてぇ~っ!!」

「ちょっ!? 今鴨って言わなかったぁっ!?」

「いいからいいからぁ~っ!! ほらほら、早く早くぅ~っ!!」


 何やら不穏な言葉が聞こえたが、とにかく俺は直美に手を引かれるまま彼女の部屋へと移動した。

 相変わらず様々なゲームで足場のないほど埋もれている中、腰を下ろそうとして……そこでふと殆ど使われてなかったはずのゴミ箱に見慣れない塊が入っていることに気が付いた。


(なんだあれ? 背表紙からして本かアルバムっぽいけど何か見覚えが……あっ!? そ、卒業アルバムかっ!?)


 それは間違いなく俺や霧島が共に通っていた中学校の卒業アルバムだった。

 恐らくは霧島家のどこかに仕舞われていたであろう霧島が貰った物なのだろう。

 

(それが何でこんなところに……いや、考えるまでも無いか……)


 霧島家へと足を運ぶ可能性があるのは実際に住んでいる直美と、俺や亮ぐらいなものだ。

 しかし俺は当然として亮もあの調子では、霧島に関わりのある卒業アルバムをわざわざ探し出した上に直美の前へと曝け出すとは思えない。

 つまりこれは直美が自分の意志で家を探して見つけ出して……ゴミ箱に突っ込んだことになる。


(もしくは予め……それこそ母親が居なくて苦しんでた小さい頃にその姿を求めて探し出して……だけど俺たちに心配を掛けないように隠れて見てて……そして実際の母親に会った失望でゴミに捨てた……というのは考え過ぎかな?)


 尤も卒業アルバムはバラバラにされたりすることなく原型を保ったままで嵩張っており、だからこそゴミ箱からはみ出て見えて気づくことができたのだ。

 その辺りからも直美の母親へ対する複雑な心境が見て取れて、俺は少しだけ胸が痛んでしまう。


「……史郎おじさぁん……早くゲームやろうよぉ?」

「あ……ああ、そうだね……」


 俺の視線に気づいているはずの直美だが少しだけ声を強張らせながらも、あえてそのことには触れずに俺をゲーム機の前へと誘導して座らせてきた。

 そして俺の前に回ると足の上に座り込んで動けなくしてから、コントローラーとヘッドセットを手に取って配信を再開させる準備を始めてしまう。

 そんな直美に俺は何をいって良いのかもわからず……ただ後ろからそっと抱きしめてあげることしかできないのだった。


(何をどうするのが正しいんだろうなぁ……こうして甘やかすというか言いなりになってるのもどうなのか……だけど……)


「……えへへ」


 それでも俺の腕の中で嬉しそうに頬を緩ませている直美を見たら、もう何もかもどうでも良くなってしまう。


(……この笑顔だけは守り抜かないとな……その為なら俺は何だってしてあげよう……例え周りから後ろ指を指されることになっても……)


「ねぇ、史郎おじさぁん……せっかく本気で相手してくれるって言うんだから罰則つけなぁい?」

「やれやれ、またそう言って変な事させる気でしょぉ?」

「変な事じゃないもんっ!! ただ史郎おじさんとエッチなかんけぇになってぇ、それで責任取ってもらってぇ直美はせんぎょ―主婦になるのだぁっ!!」

「あ、あのねぇ……出来るわけないでしょうがぁ……」


(前言撤回……やっぱり何でも言うこと聞くのは良くないな……うん……)

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― 新着の感想 ―
[一言] そう劇的に状況を改善する薬っていうるのはないよねえ… このお話って、日常を繰り返しながら、少しずつ進んでいくもののように思うけれど、環境が重いとその日常もなかなかのーてんきに笑い飛ばせなく…
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