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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㉓

「ウホォォ……ナァミちゃん、俺ちょい休憩するわ」

「えぇ~……もぉだらしないなぁ~……このてぇどでお休み入れるなんて、それでもゲーマーの端くれなのぉ?」

「あはは……もう俺ら歳だからなぁ……なぁレインフォースよぉ……」


 直美にそう語りかけながらも、俺の方に振り返った亮は真面目な顔をしていた。

 だから俺もまた頷きながら、窓越しに直美へと話しかけた。


「そうそう、それにこいつやることもあるし……ニートには遊んでる暇なんかないんだって」

「うぉおおいっ!? そ、それはトップシークレットですよレインさんっ!!」

『ご、ゴリラニートなん?』『勝ち組とか言ってる場合じゃないだろゴリラさんよぉ?』『雷神トール(ニート)』『草www』

『あー、じゃあ私のお兄ちゃんが働いてる職場しょーかいするぅ?』

『ふむ、ならば私が仕事をあっせんしてやっても良いぞ』


 俺の声がマイクに拾われたのか、途端に配信コメントが騒がしくなる。

 おまけに直美の友達である二人から……女子高生から仕事を紹介しようかと気遣われる始末だ。


「うぅ……だ、大丈夫だもん……何とかなるもん……」

「男がそんな語尾で話してもキモイだけなんだが……まあ、そう言うわけだから少しだけごめんね直美ちゃん」

「むぅ……じゃぁせめてレインさんだけでもこっち来ていっしょに遊ぼうよぉ~」


 それに対して事情を知っている直美だけは少しだけ笑顔を陰らせて寂しそうに俺へ呼びかけてきた。


「わかってるって、着替えとか済ませたらそっち行くから……だから少しだけ待っててね」

「早くしてよぉ……なお……ナァミ待ってるからね?」

「ああ……ちゃんとすぐ行くから、ね?」


 俺をじっと見つめて切なそうに呟いた直美にはっきりと頷きかけてから、一旦窓を閉めようとする。


「あっ!? ま、窓閉めなくてもいいじゃんっ!! そのままそのままっ!!」

「いや、ほらお着替えするからね……オジサン恥ずかしいよ……」

「な、何も恥ずかしいことないよぉっ!! む、むしろナァミに隅から隅まで見せていいんだよぉっ!! ぐふふ……っ」

『痴女乙』『レインフォース全裸配信来るっ!?』『俺はまだレインさん女性説を信じてるっ!! ナァミちゃん生着替えシーン配信してぇっ!!』

「……はーい、じゃあ失礼しまぁ~す」


 途端にふざけた様子を見せた直美と配信コメントに疲れを感じつつ、俺は改めて窓を閉めてカーテンを閉じた。

 その際にこちらを見る直美が残念そうで……やっぱり寂しさを滲ませているように見えたのは見間違いではないだろう。


(やっぱり俺たちの姿が見えなくなるのは寂しいんだろうな……早く会いに行ってあげたいけど……)


「済まん史郎……気を使わせて悪かった……」


 そこでゲームと配信を切った亮が話しかけてくるが、やはりその顔は真剣そのものだった。


「いや、いいよ……こっちこそ直美の相手してくれて助かってるし……忙しいだろうに済まん……」

「それこそ気にしないでくれ……仕事を辞めたのは自分の意志だし直美ちゃんにしても……むしろ今の直美ちゃんの状況は全部俺のせいみたいなもんだからな……本当に済まん……俺が先走ったせいで……」


 そう言って申し訳なさそうに亮は頭を下げてくる。


「急にどうしたよ亮?」

「今でこそ皆でゲームして笑ってるけど……俺がここに来るまで直美ちゃん、部屋の中で毛布被って蹲ってたみたいなんだよ……目も赤くて……多分泣いてたんだと思う……まさか俺の居ない間にあそこまで精神的に弱々しくなってるなんて思わなかったよ……」

「……」


 苦しそうに呟く亮に、だけど俺は何も言うことができなかった。

 直美があそこまで弱ったのは、ある意味では亮が自分で言っていたように先走ったせいでもあるのだ。


(直美ちゃんの言葉で衝撃を受けたのは仕方ないけど、何も言わないで行ったせいで直美ちゃんは自分を責めちゃったもんなぁ……おまけにそこへ霧島まで連れて帰ってきて……ダブルパンチを喰らった感じだったんだろうな……)


 尤も亮の行動が直美を想っての行動であることはわかりきっている。

 だから俺もそんな亮を責めるに責められず……かといって亮のせいではないとは言えず、結果として黙るしかなかったのだ。


「俺は本当に馬鹿野郎だ……直美ちゃんの父親を叩きのめした時から何も学んでない……勝手に動いて事態を悪化させて……それでお前にまで迷惑をかけて……本当に済まない……」

「頭を上げてくれよ亮……お前は善意で……いつだって誰かのことを想って動いてくれてるだけじゃないか……そんなお前は馬鹿なんかじゃないって……」


 はっきりと亮に告げながら、俺は脳裏でかつて霧島に振られた直後のことを思い出していた。

 突然に初恋の女性に振られた上に目の前で見せつけるように他の男とイチャつかれて苦しんでいた俺は、一人に成りたくて亮にも酷いことを言った覚えがあった。

 それでも亮は絶対に俺の傍を離れずに支え続けてくれていた……自分の意志でそう判断して動いて、おかげで俺は早い段階で立ち直ることが出来たのだ。


(あの時の俺は間違いなく亮が自分で言うところの勝手に動いた結果に救われたんだ……幾ら直美ちゃんが大切だからって、たまたま裏目っただけのことを責める気にはなれないよなぁ……)


「だけどなぁ……もう少し俺が冷静だったら……せめてもっと霧島の性格を確認する余裕があれば……本当に済まない、まさかあそこまで愚かだとは思わなかったんだよ……素直に謝ってちゃんと親をやるって言ったから信じて連れて来たのに……あの馬鹿は……っ」

「亮……?」


 しかしそこで亮は珍しく顔を憎らしげに歪めて、声も荒くドアの外を睨みつけた。


「連れてくる前に霧島に直美ちゃんの状態を話して……その上でちゃんと最初に謝罪した上で親をやるって約束したんだ……史郎にも迷惑をかけないよう頑張るって……なのにまさかあんな態度を取るなんて……挙句に今も史郎の家に寄生して……」

「お、落ち着け亮……霧島がこの家に住んでるのは俺達も同意の上だか……」

「そんなの関係無いだろっ!! 俺が連れて来ておいて言って良い台詞じゃないけど、あいつが居るせいで直美ちゃんは苦しんでる節もあるんだっ!! 本気で直美ちゃんを親として想ってるなら別の場所に移り住むぐらいして当たり前だろうがっ!!」

「亮、声がでかいって……直美ちゃんに聞こえたらどうするんだ……」

「あっ……す、すまん……つい……」


 感情を高ぶらせて叫ぶ亮だが、俺に諫められると途端に申し訳なさそうに頭を下げて恐る恐るカーテンの隙間を開いて窓の外を確認し始めた。

 俺もまたそっと覗き込むが、ヘッドセットを付けてゲームに熱中している様子の直美が見えて少しだけ安堵する。


「ふぅ……大丈夫そうだな……」

「わ、悪い史郎……はぁ……俺はどうも駄目だなぁ……どうしても霧島が絡むと冷静でいられない……」

「確かにお前にしては珍しく激高してたもんなぁ……そんなに連れて来たこと、後悔してるのか?」


 そう訊ねながらも、俺は頭の中で先ほどの霧島との会話とその態度を思い回して妙に納得してしまっていた。


(なるほどなぁ……連れて帰ってきた亮に……反社組織から助け出してくれた亮にこうもきつく当たられたら霧島じゃなくても色々と反省というか思うところも出てくるよなぁ……だから早くお金を貯めてこの家を出ようって発想に行きついたのかな?)


 もしそうだとすると俺と亮では霧島に対する判断が真逆になっていることになるが、果たして亮ははっきりと首を縦に振って見せた。


「ああ……元々、俺はお前をあんな振り方した霧島を良く思ってなかったからな……それでも直美ちゃんにとっては唯一無二の母親だし……父親であろう男たちに比べればずっとマシだったから……いや、あの男たちは酷すぎたからある意味では霧島もその点は被害者といえたぐらいだから……尤もだからってお前にした仕打ちは忘れられないけどな……」

「あのなぁ亮……前にも言ったと思うけど俺はお前のおかげで当時のことはそこまで引きずってないんだって……逆にお前がそんな風になってるところを見るほうが辛いぞ……」

「……直美ちゃんにも似たようなこと言われたよ……霧島とか何だとかよりも俺が居なくなった方がずっと辛かったって……傍で史郎と一緒に笑って甘やかしてくれていればそれでよかったって……」

「いや、まあ甘やかすのはどうかと思うけど……直美ちゃん甘えすぎだし……特に最近はなぁ……」


 尤も亮が居なくなる前までは、お洒落や趣味を除けばかなりまともな年頃の女の子をしていた。

 それこそ反抗期も迎えていたぐらいで、あのまま行けばきっと親が居なくてもそれなりに真っ当な大人に離れていたはずなのだ。


(そう言う意味じゃある意味で俺達の存在も直美には悪影響与えてるのかもなぁ……甘やかしまくってるし……これも優しい虐待って奴なのかもなぁ……)


 果たして何が正しくて何が間違っているのか、俺には本当の答えはわからない。

 それでも直美のためなら……直美が幸せになって笑顔でいてくれるためなら俺は何でもしてあげたいと思う。

 その気持ちだけは間違えようがない。


「それも俺のせいだよなぁ……はぁ……なぁんで俺は霧島なんかを連れ戻そうとしてしまったんだか……おかげで仕事は失うし、直美ちゃんは傷つけるし……散々だよ……そしてそのツケを全部お前に押し付けてしまって……本当に済まない史郎……許してくれ……」

「だから許すも何も無いっての……俺がお前に抱いてる気持ちは感謝だけだ……恨みも何もありはしないんだって……霧島を連れてきてくれたことも含めてな……」

「……っ」


 改めて頭を下げる亮に、俺は意識せず自然にその言葉が口から洩れていた。

 それを聞いて驚いたように俺を見つめる亮に微笑みかけながら、俺自身もまた内心で少しだけ自分の言葉に驚いていた。


(霧島を連れてきてくれて感謝してるってか……俺が……はは、あんな態度取っておいて全く説得力ないよなぁ……だけど今、凄く自然に口から洩れてたし……何でかな、訂正しようって気にもならないな……)


 この気持ちが今の霧島のしおらしい態度を見て影響されたものなのか……あるいは自分でも気づかない心の底で、まだ霧島に対する期待が残っていたのかはわからない。

 だけどこの間の直美の寝言の件もあって、俺はもう少しだけ霧島と直美の関係を見守りたいと思えるのだった。


「……はは……そっか……史郎にそう言われると救われた気持ちになるな……じゃあ俺のしたことは無駄じゃなかったんだな……」

「そうだって……お前がニートになってまで行動したことは決して無駄じゃなかったってことだ……ちなみに毎日俺の家に来てるけど、ちゃんと就活してるのか?」

「うぐっ!? そ、それはまあ……まだ貯金もあるし……」

「お前なぁ……しっかりしないと下手したら霧島が先に仕事決めちまうぞ……もしよければ俺の会社にでも来るか?」

「うぅん……それなぁ……悪くはないんだけど……あの子にも誘われてるし……だけどもう少し直美ちゃんが立ち直るのを見てから……」

「あのなぁ、霧島にも言ったけど他人のこと気にする前にまず自分の面倒を見れるようになってから……ってかあの子って誰だよ?」

「あれ? 聞いてないのか? この間お前が連れて来た会社の後輩の子だよ……いやぁ、あの子は何と言うか押しが強い子だなぁ……俺、女性から電話番号聞かれたの初めてだよ……せっかく出会えた縁ですからって……女が苦手な史郎をして家まで連れてくるわけだよなぁ……」


(……あの子が、男に電話番号を教える? 男とお付き合いした経験がなさ過ぎて色々警戒してるあの子が? 俺だって仕事で使うって言っても家電の番号しか教わってないのに? んん? どうなってんだこれ?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 今一つかみ合わなくて、みんな余計な苦しみを味わっている感じだなあ。 きっちり動いているのは、後輩女子だけ/w どう絡まっているものを解きほぐしていくのかなあ。
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