史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㉒
「……からぁ……なのぉっ!!」
「……ホホゥっ!? ウホホ……っ!!」
「ん?」
改めて部屋の前まで戻ったところで、ドアの向こうから微かに聞き覚えのある二人の声が聞こえて来た。
「あ……嵐野君、今日も来てくれてて……そ、それで……」
「ああ、そうか……今日も……」
「う、うん……じゃ、じゃあ私リビングに戻るから……せっかく楽しそうにしてるあの子の邪魔したくないし、嵐野君に合わせる顔も無いし……」
「えっ?」
後ろから着いて来ていた霧島もその声が聞こえたらしく、寂しそうにそれだけ言うとササっと廊下を戻って行ってしまう。
(直美ちゃんの邪魔したくないってのはわかるけど……亮に合わせる顔が無いってのはどういうことなんだ?)
少しだけ不思議に思うが、わざわざ後を追いかけてまで確認しようとは思わなかった。
どうせこの後も霧島家に寄ることになるだろうし、その際の移動中に話しかけるチャンスはあるはずだ。
何より早く直美の顔を見て安心したかった……だから俺はそのまま自室のドアに手をかけて、開いた。
「ウッホォオオオオオっ!?」
「ふっふぅんっ!! ざぁんねだったねぇ雷神とぉるっ!! ナァミから最後の切り札を奪えるわけないのだぁっ!!」
すると俺の部屋でヘッドセットを付けながらゲーム機のコントローラーを握り悔しそうな咆哮を上げているゴリラ……もとい、亮と窓の向こうで同じようにヘッドセットを付けてゲームを起動している直美の姿が飛び込んできた。
どうやらオンラインで某人気キャラクターが集まって乱闘するゲームをやっているようだが、相変わらず亮は直美に一方的なまでにボコられているようだ。
(うぅん、あのゴリラ亮が一方的にボコられてストックを削られてるなんて……それに対して直美ちゃんは魅せプレイとばかりに歌うを器用に使いこなしてるし……やっぱり俺達とはレベルが違……ん?)
そこでふと画面を見てみると他にも二人ほどが一緒にゲームをやっているようであり、そのうちのもう一人もまた亮を一方的に翻弄しているではないか。
(うわっ!? このミィルって子も直美ちゃんに負けず劣らず上手いな……しかもよりによって使用キャラがメタナ……も、もう一人のヨッカって子が操ってるお姫様はそこまでじゃないみたいだけど……)
だからというか亮の操るゴリラはお姫様ばかり狙いに行っているようだが……皮肉にも原作再現な構図になっているのは偶然だろうか。
「ふっふっふぅっ!! これで雷神トォルのストックは零っ!! さような……あぁあああっ!?」
「ウッホォオオオオっ!?」
しかし最後の最後で直美は油断したのか亮のゴリラに捕まれてしまい、しかもヤケクソとばかりに亮はそのまま直美のキャラを掴んだまま飛び降り自殺を敢行した。
もちろん亮は最後のストックだったのに対して直美はまだ余裕があるから復活できてしまうのだが、それでも亮はやり遂げた顔で窓の向こうに居る直美に微笑んで見せるのだった。
「な、な、なんてことするのぉっ!! ただでさえミィルとは接戦なのに……あっ!! しろ……レインフォースさんお帰りぃっ!! 今終わらせるからそしたら一緒に……ゲッ!? ちょ、ちょっと待ってミィルっ!? いつの間にモンボをっ!? お、お願いだからトサキ……あぁあああっ!?」
「ウホホホホォオオ……あ、お帰りし……レインフォース……早くお前も参加してくれぇ……」
「えぇ……こんな人外魔境に混ざりたくないんだけどぉ……しかもこれ配信してるでしょ?」
そこでようやく俺に気付いた二人がゲームに誘おうとするが、仕事帰りで疲れが残ってる現状でこんなハイレベルな試合に混ざったら一方的にやられるのが落ちだ。
しかも俺を名前で呼ばない辺りからしてもネットで配信しているはずだ……普通にプレイして負けるならともかく、疲労からくるコンボミスを公開したくはなかった。
(まあこんな身内配信、そんなに見てる人は居ないと思……ゲゲェっ!? し、視聴者四桁ってどうなってんのこれっ!?)
実際にスマホで検索して直美の配信動画を探してみると、思っていた以上の人数が視聴していて少しビビってしまう。
しかもいつの間にやらチャンネル登録者も物凄く増えていて、中にはお金を投げている人もチラホラ見受けられた。
『おおっ!! 隠しキャラのレインフォースさんっ!?』
『やられ方に定評のあるレインフォースさん来たーーっ!!』
『久しぶりにゴリラとレインフォースの敗北者プレイが見られるんですかっ!?』
『生で見るの初めてっ!! 実はナァミちゃん達と同じ学校に通う美少女説は本当なんですかぁっ!?』
『ナァミちゃんがゴリラは入国審査で引っかかって南国に送り返されてたって言ってるけど事実ですかっ!?』
(えぇ……何か隠しキャラ扱いされてるぅ……というかなんで美少女説まで出てるんだよ……俺はおっさんだってぇのぉ……)
ナァミの会話を聞いてか、既に視聴者は俺の参戦を心待ちにしているようだが……どうも色々と誤解されているらしい。
『あぁあああんっ!! もぉおおっ!! また死んだぁあああっ!! 二人とも強すぎぃいっ!!』
『まだまだだな……ふん、眠り暴れなどとはナァミにしてはセコイ真似を……』
「う、うっさいっ!! これはナァミが主役の配信なのぉっ!! だからみんなナァミの噛ませに……あっ!? あぁああああっ!?」
しかしそこでヨッカとミィルの聞き覚えのある音声が入ってきて……直美のお友達である二人だと分かったところで、ようやくここまで配信者が増えている理由に納得がいったような気がした。
(現役女子高生がワチャワチャ言いながら……しかもハイレベルなプレイしてるんだもんなぁ……そりゃあ視聴者も増えるわなぁ……そして過去の配信か何かで俺が音声無しで参加してた動画を見てた奴は、俺もまた女子高生の一人だと思って……残念ながらただのおっさんなんだよなぁ……)
これでは参加してもしなくても視聴者の期待を裏切ってしまいそうだ……まあ、そんなもの俺が気にしなくてもいい事なのだが。
「あぁあああっ!! もぉミィルの馬鹿ぁあっ!! 空気読んでよぉおおっ!!」
『勝負に空気も何もあるものか……これで五戦三勝……後一度勝てば私の優勝だな』
『うぅ……よ、ヨッカ一度もかてなぁい……違うゲームやろうよぉ……ぐすん……』
「ウホホホォ……はぁ……こんな可愛い女の子たちとゲームで切る俺勝ち組ウホォ……羨ましいか視聴者どもぉっ!!」
『低評価』『低評価』『もうゴリラはいらない』『レインフォースと交換して早く』『低評価』『低評価』
「あぁあああっ!! こ、今度は低評価のあらしぃいっ!! もぉ余計なことしないでよぉ雷神トォルぅっ!!」
勝負に一喜一憂して、また動画の評価を見て感情的になる直美……だけどその顔には笑顔が浮かんでいるのだった。
(やっぱりみんなと一緒に遊んでる間は大丈夫なんだな……このまま笑顔でいてほしいけどきっとゲームを止めて静かになったらまた……やっぱり傍に行ってあげた方がいいよなぁ?)




