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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん⑳

(や、やっぱりきつい……だけど残業するわけには……頑張れ俺ぇ……)


 会社で昼食を食べる時間も惜しんで全力で仕事を処理していく俺。

 一日とは言え、先日休んでしまったばっかりにかなりきつい状況になっている。

 納期がもう少しあるとはいえ、今から多少無理して進めていかないと残業せざるを得なくなるだろう。


(直美ちゃんと霧島を二人っきりにするわけにはいかないからなぁ……まあ多分今日も亮が来るだろうから、あいつに任せておけば大丈夫なんだろうけど……)


 尤もあいつも新しく仕事を始めるために色々と忙しいようだから、余り遅くまで付き合わせるわけにはいかない……そう思うと、やはり直美と霧島の関係が落ち着くまでは出来る限り早く帰る必要があるのだ。


(だけど、それっていつになるんだ……あの二人がどういう形で収まるのか、全く想像もできないしなぁ……)


 霧島が働き出して独立すれば話は早いが、あの調子ではまだまだ先になるだろうし、せっかく実家が丸ごと残っているのに出費が増える別の場所へ引っ越すような真似をするとは思えなかった。

 ならばいっそ直美ちゃんを卒業すると同時に別の場所で暮らさせてあげるというのもありだが……あんなに弱り切っていて人の目を気にし俺に依存している直美があの家を出られるとも思えない。

 だからと言って、あの二人が和解するのも不可能……という程ではないかもしれないが、今のところは無理そうに思われた。


(霧島は内心がどうであれ一応は自らの行いを顧みて反省する態度は見せている……そして直美ちゃんも表面上は嫌悪感を露わにしているし関わろうともしないけど……逆に本気で嫌ってたら無視するか、追い出そうとしてもおかしくないのに、あの日以来そう言う素振りは全然見せないもんなぁ……)


 もしも霧島の反省が本物であるのならば、俺は二人の間に入って関係を取り持つことも考えようとは思っている。

 色々と霧島には問題があり過ぎるが、それでも直美とは血の分け合った実の親子なのだから……仲良くできるならそうしたほうがいいに決まっている。

 しかし理屈ではそうわかっていても、俺はどうしても霧島を信じる気にはなれなかった。


『話しかけないで……』


 幼馴染としてずっと傍にいて親しく付き合っていた俺にあいつは急に態度を変えて冷たく接して来たかと思うと、俺を見下して馬鹿にするような発言や行動を繰り返した。

 あの突然の変化……いや裏切りは忘れようにも忘れられない。

 

(改心したように見えて、また同じような裏切りを直美ちゃんにされたらたまったもんじゃないからな……俺があの時の事を引きずってるわけじゃない……と思う……)


 はっきりとは断言できないのが情けないが、とにかくまだまだ俺は霧島の反省を認めることはできそうにない。

 ちゃんと仕事を見つけて稼ぐようになって、直美も養えるようになった上で直美への愛情を確認して……またそこに至る素行もしっかり確認してようやくという所だろう。


(だけど、それは一体いつになることやら……はぁ……その間も直美ちゃんは甘えまくるだろうし、霧島もあんな態度で尽くそうとしてくるだろうし……俺の身体持つかなぁ……)


 何だかんだで霧島は……初恋の相手は未だに美貌を保っていて、そんな状態で俺にオドオドしながら尽くそうとしてくる。

 また同じく当時の霧島によく似ている直美も、格好こそ野暮ったいが豊満な身体を押し付けたり見せつけたりして誘惑してきている。 


(霧島は裏切られた相手……直美ちゃんは娘みたいなもの……だけどたまに……ドキッとしてしまう自分がいる……まあ親しく付き合ってる女性なんか殆どいなかったから免疫なさ過ぎるから仕方ないんだろうけど……)


 そう思いながら俺は数少ない親しいと言える女性であり、最近は特に関わりが強くなっている後輩の女の子へと視線を投げかけた。


「あっ……な、何か御用ですか雨宮課長?」


 すると向こうもこちらへチラチラと視線を投げかけていたようで丁度目が合ってしまい、用事だと思ったのかすぐに駆けつけてきた。


「ああ……いや、何でもないんだ……それより先日はあんなことに巻き込んで悪かったね、改めて謝罪させてもらうよ」

「い、いえ良いんですよ……亮さ……嵐野さんから当たり障りのない範囲で事情は聞きてますから……」


 俺の謝罪を聞いて慌てた様子で手を振って、気にしてないと全身でアピールする彼女。

 しかし彼女の言い方に、俺は少しだけ違和感を覚えてしまう。


(そう言えばこの子はあの日、亮に送ってもらってた……その時に俺の事情を聞いたのか? でも聞いた、じゃなくて聞いているって現在進行形のような……それに今、この子亮のこと名前で呼ばなかったか?)


 この子は俺と同じで異性との交際経験がないらしく、そのために距離の詰め方が良く分からないとかで同性以外が相手なら基本的に名字で呼んでいたはずだ。

 それこそそれなりに親しく接している俺ですら苗字と役職で呼ばれているぐらいなのだから。


「そ、そうか……だけどやっぱり謝らせてもらうよ……あの日、ああして家まで送ってくれたのに何もお詫びできなくて申し訳なく思ってたんだ……何かで埋め合わせが出来たらいいんだけど……」

「い、いえっ!! ほ、本当に気になさらないでくださいっ!! それより雨宮課長は霧島さん達をしっかり支えてあげてくださいっ!! そ、それにとお……あ、嵐野さんのことも……彼は自分がやったことが正しかったのか凄く気にしているみたいですし……」

「……あいつ、君にそこまで話して……いや、でも?」


 この子の言う通り、確かに亮は直美のあの態度を見て霧島を連れて来て正しかったのか悩み始めていた。

 しかしそれはこの子を送り返した後の話のはずだ。


(いや、ひょっとして連れて帰る前から亮は自分の行動が正しいのか疑問に思ってたのか? だとしたらわかるけど……いや、だとしてもあの時点で初対面のこの子にそんな心情を暴露するかなぁ?)


「と、とにかく私のことは気にしないでくださいっ!! じゃ、じゃあ仕事に戻りますっ!!」

「あ、ああ……」


 やっぱり違和感を覚える俺を見て、彼女は慌てた様子でそう言い切ると、ササっと自分の机へと戻って行くのだった。


(や、やっぱりなんか怪しいような……何で亮のことそんなに……ゲームとかなら露骨な一目惚れとかで新ルート開拓してるところだろうけど……俺や亮にそんな恋愛イベントが起こるはずないもんなぁ……うぅん、一体何が……?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回は後輩女子であるところのあの子が、一番立ち位置を変化させているなあ。 今回彼女にロックオンさせたのは、完全に史郎の責任だなあ/w
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