史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん⑨
「ただい……ん?」
家に帰ると珍しく直美の靴が脱ぎ散らかされてなくて逆に驚いてしまう。
(今日は来てないのか……何か寂し……じゃ、じゃなくていいことだ、うんっっ!!)
前から直美は俺にべったりと甘えいていたが、亮が居なくなってからというものその傾向が更に顕著になっている気がする。
個人的には嬉しかったりするが、直美の将来を思えばそろそろ保護者離れ……というか近所のおっさんとは距離を取って行ったほうが良いはずだ。
そう思うのに何やら直美の顔が見れないと寂しくて、ついつい俺は自分の部屋に直行して窓を開いた。
「直美ちゃ……寝てるのか?」
隣の家の明かりはすべて消えていて、特に窓を開けた正面にある部屋もまた真っ暗なままだった。
(……あの部屋が真っ暗なの久しぶりに見たような……なんか懐かしいような虚しいような……不思議な気持ちだ)
そこはかつて俺の幼馴染が済んでいた部屋で、今は直美が暮らしている部屋でもある。
当時から何か用事がある時は、こうして向き合う窓を通じて話しかけていたものだ。
そしてその頃は色々とだらしなかった霧島の面倒を見ていた俺も、そんな俺に甘えていた彼女も何かあった時のためにお互いいつだってここの窓は開けっぱなしにしていた。
(だけど霧島に彼氏ができてからは変な行為を見せつけるようにしてきて……だから締めっぱなしになって……そのうちにあいつはどこかへ失踪して……締め切られた窓の向こうはいつだって真っ暗で……胸に隙間が出来たような苦しみというか虚しさがあったんだよなぁ……)
何だかんだで俺は霧島のことを愛していた……幼馴染で一緒に育ってきて、幼いころには結婚の約束もしていたはずだ。
だから心のどこかで霧島とは付き合っていくのだと思っていて、実際にあいつに彼氏が出来るまでは朝は遅刻しないように起こして一緒に登校して……帰りも一緒で、寝る前には明日の課題や忘れ物が無いようにお話もしていた。
その程度のことでも俺は本当に幸せを感じられていた……だからこそ、あの部屋に再び直美が住み始めて窓越しに話したりするようになると何だかあの頃の幸せが戻ってきたような気がしていたのだ。
(多分俺は……どこかで直美と当時の霧島を……初恋の相手を重ねて見てるんだろうな……だから幼いころから育てていて、子供のように思ってるのに時々ドキッとしちゃうんだろうな……)
眼鏡の有無こそあれど、別れた霧島と同年代まで育ってきた直美は変貌する前の彼女にそっくりだった。
ある意味では生活態度のだらしなさも……尤も直美の場合は霧島が残した負の遺産に引っ張られている面も多いだろう。
(直美ちゃんには霧島みたいになってほしくない……真っ当に育ってほしい……だけどそれは俺のエゴなのかなぁ?)
直美がこのまま引きこもりになって俺にだけ依存し続ける状態は余り良くないと頭では理解している。
だけど霧島の裏切りに傷つけられた俺としては、どうしても内心で今のまま変わらずにずっと傍にいてほしいとも思ってしまう。
だから口では直美にお洒落を覚えろと言い、外に目を向けるよう仕向けながらも実際には変わらない直美を見てどこかほっとしてしまう自分もいる。
「はぁ……俺は情けないなぁ……」
「んにゃぁ……しろぉおじさんは情けなくなんかないよぉ~」
「えっ!? な、直美ちゃんっ!?」
窓の外を見つめながら呟いた俺の言葉に、何故か俺のベッドの中から舌足らずな口調の返事が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、毛布を捲り目をこすりながら相変わらず色気のないジャージ姿の直美が上体を持ち上げながら俺を見つめてきているのだった。
「ふぁぁ……むにゃ……おかえりぃ史郎おじさぁん……」
「な、直美ちゃん……靴がなかったのに何で……それにどうして俺のベッドの中で寝てるのかなぁ?」
「んぅ? それはしろぉおじさんを驚かせようと思ってぇお靴を隠してベッドに潜んでてぇ……だけどしろぉおじさんの匂いを嗅いでたらなんかこぉふんしちゃってぇ、それでオナ……ふぁぁ……」
「もういい……わかったから……はぁ……何考えてるのさぁもぉ……」
センチメンタルな気分に浸っていた俺を一瞬で打ち砕く直美の言葉に、俺は霧島が離れて行った頃とは違う意味での虚しさを覚えてしまうのだった。
(はぁぁ……こういうところは霧島とは全く違うよなぁ……あいつは俺にはエロいアピールとかしてこなくて……そう言う行為に興味ないって俺も思い込んでて必死に隠して……もっとお互いに曝け出すべきだったのかなぁ……)
「全くもぉ……こんな時間まで昼寝していたら夜眠れなくなっちゃうよ……また俺に添い寝しろとか言うんじゃないだろうね?」
「んんぅ……ダイジョォヴィ……きょぉはこぉにゅう済みの新作ゲームが零時ちょうどからプレーかのーになるから徹夜でやり込むのぉ~……目指せ最速攻略ナンバーわーぁんっ!!」
「あ、あのねぇ……そんなこと許すわけな……な、直美ちゃんっ!? し、下穿いてな……っ!?」
俺との話し合いで完全に目が覚めた様子の直美が毛布を避けると、お臍から下に掛けて何も身に着けていない直美の艶めかしい肢体が露わになり、俺は思わず顔を背けてしまうのだった。
「えへへ、そりゃぁ眠る前までしろぉおじさんを思ってモジモジくねくねとうんどぉしてたから……何ならそっちのぷれぇしちゃう? 1クレ対戦プレイで敗北宣言するまで連戦していいからさぁ~」
「い、良いから早く服を着てぇっ!! せめてパンツ穿いてよぉっ!!」
「えぇ~、直美のピチピチな身体にきょぉみないのぉ~? むぅ、女の子からこんなに攻められて手を出さないなんてちょぉ草食系なんだからぁ……」
「そ、そう言う問題じゃないでしょうがぁっ!! も、もう少し恥じらいを持ってよぉっ!!」
(い、幾ら何でもこれは曝け出しすぎでしょぉっ!! ああ、どうしてこう上手く行かな……ベッドがぐしゃぐしゃだぁあっ!? お、俺今日どこで眠ればいいんだこれぇっ!?)




