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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん⑧

「ほぇ? おはへひぃ史郎ほひはぁ~んっ!!」

「……お菓子を咥えながらしゃべらないの……はしたないなぁ……」


 自分の家に帰ってきたところで、お菓子の袋を両手に抱えた上でその中の一つを口に咥えている直美が出迎えてくれた。

 その姿は俺のダボダボシャツを着こんでいるだけで、襟や裾から本来なら隠れていなければならない下着と共に流線形の肌色がチラチラと覗いてしまっている。


(な、直美ちゃんさぁ……そんだけ立派な体してるんだからもう少し体の線を隠せる服を着てよぉ……うぅ……しかも何か胸のところちょっと出っ張ってる上に震えてるような……見ない見ない気にしない……)


「んふぅ~っ!! 史郎おひはんはらどほみへるのぉ……えっひなんらはらぁ~っ!!」

「何言ってるのかわからないよ……全くもぉ……」


 悪戯っ子のように微笑みながら何か言おうとする直美だけれど、全く理解できない。

 仕方なく俺はため息をつきながら直美に近づき、そのお口に咥えたお菓子を食べる手助けをしてあげた。


「んぅ……むぐむぐ……えへへ、史郎おじさんたらぁ……どぉせなら口移しで食べてもよかったの……あうんっ!?」

「馬鹿なこと言ってないの……それよりそんなにお菓子を抱えて何をするつもりだったの直美ちゃん?」


 へんなことを言おうとする直美にデコピンしつつ、改めて何をしようとしてるのか問いただそうとする。

 しかし直美はむぅっと頬を膨らませながら、俺を睨みつけてくるばかりだった。


「むぅっ!! どぉしてデコピンするのぉっ!? この直美の愛らしくも可愛らしいお顔に傷がついたらどぉすんのさぁっ!?」

「自分でそう言うこと言わないのぉ……それにそんなお洒落っ気のない姿で言われても説得力ないからね……」

「そ、そんなことないもぉんっ!! じっきょー配信したらみんな褒めてくれるもんっ!! だから……」

「……ちょっと待って直美ちゃん……まさかその恰好で顔出し配信とかしてるの?」


 流石に聞き捨てならず、思わず真剣な口調で直美の両肩を掴んでじっと見つめながら尋ねてしまう。 

 そんな俺の態度に直美ははっと目を見開いたかと思うと無言で見つめ返してきて……にへぇっと緩み切った笑みを浮かべた。


「……えへへへぇ~……もぉ、そんな真剣な様子で直美を見つめちゃってぇ……そんなに心配しないでよぉ~……直美が史郎おじさん意外にこんな姿見せるわけないでしょぉ~……配信するときはちゃぁんと上下ジャージ着てぇマスクも付けてるから大丈夫だってばぁ~」

「……それならいいけど」

「えへへ~、史郎おじさんたらぁ……意外と嫉妬深いんだからぁ……えへへ、直美ったら愛されちゃってますねぇ~……これはもう両想い確定、卒業と同時に結婚イベント待ったなしですなぁ~」


 ふざけたように言いながらも直美は本当に嬉しそうに微笑み……甘えるように俺の身体にすり寄ってくる。


(嫉妬とかじゃない……と思うけど……)


 咄嗟に否定しようかとも思ったが、直美のその幸せそうな姿を見ていたら何も言えなくなってしまう。

 何だかんだで直美とはとても長い付き合いで、それこそ幼いころからずっと面倒を見続けてきた。

 そして女性に縁がなく恐らくは結婚など不可能であろう俺にとっては、こうして懐いてくれる直美は本当の子供のように愛おしく思えて仕方がない。


 だからこそ直美が笑っていてくれるのならば俺は何もかもどうでも良くなってしまうし……直美の笑顔を守るためなら何でもしてあげたくなってしまうのだ。


(その結果甘やかしてばっかりだから問題なんだけど……本当に可愛いんだもんなぁ直美ちゃん……ただ、こうして無邪気に飛びつくのはそろそろ勘弁してほしい……)


 年相応以上に育ってきた直美の身体からは女性特有の良い香りが伝わってくるし、触れた部分も小さいころとは違う柔らかさの中に心地の良い弾力を感じてしまう。

 何より色々と余りにも無防備過ぎて、その上で誘惑染みた行為をしてくるからたまにドキッとしてしまうのだ。


(こんなお洒落っ気のないボサボサ頭に牛乳瓶のそこみたいな分厚いレンズのついた眼鏡までしてて全く色気を感じないはずなのに不思議だなぁ……)


「えへへ……ねぇ、史郎おじさぁん……せっかくこんなにお菓子があるんだから今日のお遊びはポッキーゲームしようよぉ~?」

「うぅん……今日のお遊びって何さぁ……確かに毎日遊んでるけどさぁ……」


 そう言いながらも上目づかいで俺の顔を覗き込んでくる直美の発言に、ちょっとだけまたドキッとしてしまう。


「いいじゃぁん……史郎おじさんだってまだ良い歳なんだからエッチな遊びしたいでしょぉ?」

「ちょっ!? な、直美ちゃん、何を言ってるのっ!?」


 更なるとんでもない直美の言葉に戸惑う俺に、直美は甘えたような声で誘惑するように話しかけ続けてくる。


「だってぇ……直美も史郎おじさんとエッチな遊びしてみたいんだもぉん……こぉみえても直美だってお年頃だからエッチなことにきょぉみ津々なのぉ……だからぁ……」

「うぅ……だ、だとしてもこんなおじさんを誘惑しないのっ!! 直美ちゃんは若いんだからちょっとお洒落すれば幾らでも…………」


 娘のように感じているはずの直美の言葉にさらに胸が高鳴りそうになった俺は、慌てて自分の感情をごまかすように口を動かした。

 しかしそんな自分の言葉で直美が垢抜けた姿になる所を想像して……自然と幼馴染である霧島の変わり果てた様子が連想されてしまう。


(な、直美ちゃんまであんな風になったら嫌だ……じゃ、じゃなくて駄目だっ!!)


 もしも直美があの頃の幼馴染のように変貌して俺を避けるような態度を取ったらと思うと、それだけで何故か当時以上に胸が痛むような気がした。

 だから必死に首を横に振る俺を見て、直美は何を思ったのか今度はそっちが真剣な眼差しで俺を見つめ返してきた。


「ううん、直美はお洒落とか苦手だから……それに周りの人は変な目で見てくるから苦手だしぃ……そぉいう他所の人とは関わるのも怖いから今更新しくそう言う男の子と仲良くなるなんて出来ないし、したくもないの……」

「な、直美ちゃん……」

「逆に史郎おじさんはさぁ、気心も知れてるし優しいし……何かあっても絶対責任取ってくれるだろうし……おまけに収入もあんてーしてるからねぇ……だから直美、愛情も打算も何もかも込みで史郎おじさんとエッチなことしたいのぉ……してみたいのぉ……駄目ぇ?」


 少しだけ瞳を潤ませながらもまっすぐ俺を見つめて呟いた直美。

 その顔はほんの少し火照っていて恥ずかしそうでありながらも、ふざけている様子はまるでなかった。

 おかげで俺は何も言い返せなくて……直美がそっと顔を近づけて来ても固まったまま動けないでいた。


「だから史郎おじさぁん……直美とエッチな遊びしようよ……それでもう絶対離れないって証拠を刻……っ!?」

「な、直美ちゃ……っ!?」

「おっそぉおおおおいっ!! いつまで何してるの直美ちゃぁ……あれっ!?」

「たかがお菓子を探すのにどれだけ時間がかかって……んむ?」


 そこへ二階からドタドタとした足音と共に聞き覚えのある声が聞こえて来て、俺たちは慌てて身体を離しそちらへと視線を向けた。

 すると不機嫌そうな顔をした直美のお友達二人が降りて来て、俺に気付くなり少し驚いたような顔で頭を下げてくるのだった。


「あらら、おじさんさん帰って来てたんだぁ~……こんばんわぁ」

「ふむ、久しぶりだなおじさま……元気そうで何よりだ」

「や、やぁ久しぶりだね二人とも……というか何で俺の家に?」

「あ、あはは……ちょ、ちょっとねぇ~……ほ、ほら史郎おじさんも帰ってきたからきょぉは解散と言うことでぇ……」


 しまったとばかりに顔をしかめた直美は、何やら早口で二人を追い出そうとする。

 そんな直美に友人二人はかるくため息をついたかと思うと、目を吊り上げて迫るのであった。


「はぁ……あのねぇ直美ちゃんっ!! 直美ちゃんがここじゃなきゃやる気にならないっていうから陽花達はわざわざこっちのお家でお勉強教えてるんだよぉっ!!」

「ふぅ……直美よ、何度も言うがただでさえ教師からの印象もよろしくないのだ……今回の課題だけは終わらせなければ流石に不味いからこそこうして私たちが押しかけて来たのだろうが」

「えっ……な、直美ちゃんそれ本当なのぉっ!?」

「え、えへへ……い、いやぁ……その……あはは……」


 笑ってごまかそうとする直美だが、その態度からして二人の言うことに間違いはないのだろう。


「もぉおっ!! 何かしらですぐ口実作ってサボろうとするんだからぁっ!!」

「こうなっては仕方がない……今日は泊まり込みで教え込むとするか……」

「ふぇぇっ!? そ、そんなぁっ!! な、直美そんな遅くまでおべんきょぉしてたくなぁいっ!! 史郎おじさん何とか言ってやってぇ~っ!!」

「……どうかよろしくお願いします……俺は隣の霧島家で寝るからこの家の物は自由に使ってくださいませ」

「あぁああっ!? し、史郎おじさんの裏切り者ぉっ!!」

「良いから行くぞ直美っ!!」

「さっさと終わらせたらゲーム配信とかじっきょぉとか付き合ってあげるからっ!! ほら急ぐのぉっ!!」

「やぁあああんっ!! しろぉおじさん助けてぇえええええっ!!」


 ずるずると部屋に引きずられていく直美を俺はため息をつきながら見送ることしかできないのであった。


(うん……やっぱり俺甘やかしすぎだわこれ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがに卒業はおろか進級も危うそうだよねえ。 しっかり監督してもらわないと。
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