史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん⑦
「大丈夫直美ちゃん?」
「うぅ……だ、大丈夫だけど……てぇ離さないでねぇ……」
俺の腕にギュっとしがみ付きながら、背中に隠れるようにして後を付いてくる直美。
お昼ご飯を食べるために、ジャージ姿になった直美と共に外へ出てきたのだ。
しかし直美の目は不安そうにあちこちを眺めては、俺の顔を見つめてまた周りを見渡すことを繰り返している。
(うぅん……やっぱりまた酷くなってる……友達が出来る前まで戻っちゃったみたいだ……)
「はぅぅ……あっ!?」
「……っ」
そこで近所に住んでいる人が前からやってきて、それに気づくなり直美はびくりと身体を震わせて顔を俯かせてしまう。
そんな俺たちに気付いた向こうも露骨に顔をしかめると、視界に収めないよう顔を背け距離を取ったまま早足ですれ違って行った。
(子供のころからずっと周りからあんな態度を取られて……そりゃあ直美ちゃんは傷付くし、人目が気になって怯えてもしかたないよなぁ……直美ちゃんは何も悪くないのに……)
直美の母親であり、俺の幼馴染であった霧島亜紀はまるで誰かに見せつけるかのように窓を開けて痴態を繰り広げていた。
また男遊びも激しくその行いは近所でも有名であり、挙句の果てに未成年でありながら父親が誰かもわからない直美を出産するに至ってしまった。
挙句の果てに霧島亜紀はそんな直美を残して男と共に姿をくらましてしまった。
変な男に騙されて売り飛ばされただとか薬に手を出して国外に逃亡したとかそんな噂ばかり聞こえてくる。
そのせいで近所では悪い意味で有名になってしまい、世間体を気にしていた霧島亜紀の両親であり直美の祖父母はそんなストレスからか壊れてしまった。
(親父さんも愛人と失踪……全てを押し付けられた亜紀の母親は追い詰められて自殺未遂を起こした結果、精神を病んで直美に行き過ぎた虐待めいた躾を始めて……咎めようとした相手はそれが公的機関から来た相手であってもその全てに刃物を突き付けて恫喝して回った果てに入院……霧島家はバラバラだ……)
そんな家の子供だからと直美は腫物扱いされて誰も近づこうとしない……それに関わっていた俺の家も似たような状態だった。
(それでも当時は俺の家で……俺や亮……それに俺の両親も可愛がってたから元気いっぱいに育ってた……んだけどなぁ……)
ある意味でそれがいけなかったのかもしれない。
俺達に愛情を注がれて育った直美は助けられた当時こそ俺にしか懐かなかったが、そのうちに人懐っこく育ち周りにも目を向ける余裕が出来た……出来てしまった。
そのせいで直美は自分に向けられる視線と、周りの人達に避けられてる事実に早い段階から気付いてしまったのだ。
(しかしまさか小学校にまで悪い噂が広まってたなんてなぁ……まあこの近所の人が通う学校だから仕方ないことだけど……)
おかげで直美は学校でもハブられてしまい、よく泣きべそをかいて帰ってきたのを覚えている。
そんな彼女を慰めようと俺も亮も出来る限り時間を割いて遊んであげて……そのうちに直美はゲームに没頭するようになり、周りへの興味を失って行った。
むしろ他の人達と居る時間を厭うようになって、段々と人前に出ることが減って行った。
そして中学校になって同年代の子達がお洒落し始めるとますます自分の世界に引きこもる様になって……俺達が気が付いた頃には周りの目に怯えるようになってしまっていたのだ。
(多分自分の見た目に自信がないところに、霧島家に向けられる好奇の視線が重なって……自分が嘲笑われているように感じちゃったんだろうなぁ……)
それでも皆川陽花と皆賀美瑠と言う二人の親友が出来てからは、時折休日に二人と遊びに出かけるほどに改善してきていた。
だから安心していたのだが、まさか再びここまで周りの目を意識するようになってしまっていたとは驚きだった。
(やっぱりこれも亮が居なくなった影響なんだろうな……せっかく元気になって、反抗期っぽい態度も取れるようになって……むしろ俺たちは成長を感じられて嬉しかったんだけどなぁ……)
「……ごめんね直美ちゃん……まさかここまで苦しんでたなんて思わなかったよ……帰ろうか?」
「あ……う、ううん……し、史郎おじさんが居てくれるから大丈夫……大丈夫だけど……う、うん……やっぱり帰りたい……」
「わかった、帰ろうね……」
俺の手をギュっとにぎりしめた直美は、顔色を悪くしながらも俺を見上げて無理やり笑顔を作ってくれる。
だけどそんな苦しそうな顔を見て居たくなくて、俺もまたその手を強く握り返しつつ家へと引き返すのだった。
(これでも甘やかしすぎかなぁ……だけど加減が分からないし、直美ちゃんには苦しい思いをしてほしくない……はぁ……どうしたらいいんだろうなぁ亮よぉ……)




