史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん⑤
「ふっふっふぅっ!! このフィールドを制するは直美っ!!」
「ちょっ!? しょ、初手から虚無まで繋げるのは反則だろっ!?」
「えーっ!? ヴェーラー握ってない史郎おじさんが悪いんでしょぉ~?」
「無茶言うなぁああっ!?」
直美の出したカードにより場を完全に制圧されて何も出来なくなった俺は、絶望の余り手札を投げ捨てて降参した。
(こんなのクソゲーだっ!! いやジャンケンゲーだっ!! 先行でこんなぶん回されたら何も出来ねぇよぉっ!!)
尤もこの前にも俺が先行で戦ったのだが、その際は直美が手札からでも使えるカードであっさりと俺のキーカードをピンポイントで打ち抜いて見事勝利している。
だからこんなことを口に出しても文字通り負け犬の遠吠えにしかならないため、ぐっとこらえるしかない俺。
「あははっ!! 史郎おじさん弱ぁ~いっ!! 直美これでも手加減してるんだけどなぁ~」
「くぅぅっ!! な、何でこのデッキで勝てないんだよぉっ!? 前回大会優勝者のデッキだぞこれっ!?」
「やれやれ……プレイングスキルの差ですなぁ~……さぁ、これでマッチ勝利かんりょぉっ!! 直美の言うこときーてもらうかんねぇ~っ!!」
「ぐぬぬぬぅっ!! おのれぇっ!!」
ニヤニヤ笑いながら俺たちのデッキを片付け始める直美。
三戦して先に二勝したほうの言うことを聞く約束だったが二回ともコテンパンにやられた俺には何も言い返すことができなかった。
(はぁ……マジで直美ちゃん強いわぁ……まさか運が絡むゲームですら完封されるなんて……何なら勝てるんだろう?)
そう思いながら直美の室内を見回すと、足の踏み場もないほど溢れている色んなゲームの数々が目に留まる。
各種テレビゲーム機はもちろんのこと、携帯ゲーム機からPCゲームのディスクの山に果てはTRPGを含めるボードゲームから自作と思わしきものまで揃っている。
しかしそのどれをやろうとも直美に勝てる自信は全くなかった。
(こんなにゲームばっかり集めちゃって……逆に衣服はクローゼットからタンスの中までガーラガラ……年頃の女の子なのに……うぅ……育て方間違えたかなぁ……)
「闇の扉が開かれる……罰ゲームの時間だZEっ!!」
「うぅ……お手柔らかにぃ……」
「ふふふ、安心してよ史郎おじさん……お手じゃないけどとぉっても柔らかいから……直美のく・ち・び・る・♪」
「な、何を言って……ちょぉっ!?」
ニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくる直美。
(め、珍しく休日なのに早く起きてゲームに誘ってきたから何ごとかと思ったらこんなことを企んでいたなんて……)
尤も直美にしては早いと言うだけで時刻は十時を過ぎて……ゲームでも少し時間がかかったから現在はもう十一時半と言うところだ。
「ちゅーっ!! ほらほら、罰ゲームのちゅぅっ!! 最近全然してくれないチュゥっ!!」
「止めなさいってのぉ……君が小さかった頃とはもう事情が違うの……それに当時だって勝手に人のベッドに潜り込んできておはようのキスがどうとか言って強引に……」
「あ、あの頃はまだ知識不足だったのぉっ!! うぅ……あんときの史郎おじさんはむぼーびだったのになぁ……せっかくのエロシーン回想埋めるチャンスだったのになぁ……」
「何言ってんだか……それに無防備って言っても大抵は亮の奴が手を貸……あっ!?」
「っ!?」
必死に迫りながらとんでもないことを口走る直美に、呆れながらぼやいた俺は……つい気を抜いて亮の名前を口にしてしまう。
慌てて口を閉じるが、既にそれを聞いてしまった直美は途端に泣きそうに顔をしかめたかと思うと、力なく項垂れてしまった。
(お、俺の馬鹿っ!! せっかく直美ちゃんは立ち直りかけてたのにっ!!)
あいつのことを思い出すとどうしても落ち込んでしまうから、自然と俺たちの間では亮の名前を出すのは控えるようになっていた。
それでも俺にとって長年ずっと共に居たあいつは本当に大切な親友で生活にも欠かせないほど関わっていたから、何かにつけてあいつのことを思い出してしまうのだ。
「ご、ごめん直美ちゃん……」
「……ううん、いーよ別にぃ……はぁ…………」
謝罪する俺にうつむいたまま力なくフルフルと首を横に振る直美。
その痛ましい姿を見ていられなくて、俺は床に胡坐をかいたまま昔良くしてあげたみたいに直美を抱き寄せて足の上に乗せてあげた。
「よしよし……」
「……えへへ、懐かしいなぁ……昔っからおじさんたち直美が泣いたらすぐこぉして慰めてくれてたよねぇ……」
そのまま頭を撫でてあげると、直美はとても幸せそうに……だけどやっぱり儚さの残る笑顔をうかべて俺に体重を預けてくる。
「そうだね……直美ちゃんは俺達の可愛い娘みたいなものだったからねぇ……」
「……うぅん……直美からしたらとぉるおじさんは親戚のお兄さんって感じだったけどなぁ……会うたびにお小遣いとかゲームとか持ってきてくれて、史郎おじさんへの悪戯もノリノリで手伝ってくれて……いっつも笑顔で……なのに直美は何であんなこと……」
「直美ちゃんは悪くないよ……当時は反抗期だったし、それにしても可愛いものだったよ……俺も亮もむしろ微笑ましいぐらいの気持ちでいたから……全然気にしてないって……」
「け、けどぉ……」
少しだけ瞳に涙を湛えて呟いた直美を少し強く抱きしめてあげる。
(そうだよ、直美ちゃんが原因ってわけじゃない……そうだよな亮……)
思わず心中で問いかけてしまうが、その答えが返ってくることはなかった。
(はぁ……止めよう、俺まで落ち込みそうだ……話題を変えよう……)
直美も苦しんでいるが、俺もまた自分の一番辛い時期を支えてずっと傍にいてくれた親友が居なくなった衝撃から立ち直りきれてはいないのだ。
だからこのまま話を続けていては、俺まで落ち込んで余計に直美を苦しませてしまう。
「それよりさ……直美ちゃんは俺のことはどう思ってたの?」
「……っ……えへへ、それ聞きたぁい?」
その話題を聞いた直美はゴシゴシと自分の顔を拭うと、俺の腕の中で一回転してこちらに向き直ってきた。
そして甘えるような声を出しながら笑顔で俺を見つめてくる。
「聞きたいなぁ……やっぱり本当のお父さんみたいに思ってくれて……」
「はっずれぇっ!! 直美にとって史郎おじさんはねぇ……本当に一番辛いとき、苦しいときに手を差し伸べてくれた史郎おじさんはぁ……直美にとって王子様なのぉっ!! だからほら、呪いを解く目覚めの愛情を込めた個別ルート分岐条件のキスプリィイイズっ!!」
「ちょ、ちょっとぉっ!? 色々と混ざり過ぎだからぁっ!!」
訳の分からないことを叫びながら唇をタコのように伸ばして迫ってくる直美。
そんな彼女の顔を必死に両手で抑えながら……いつもの笑顔が戻って少しだけほっとしてしまう俺なのだった。
「む、むぅううっ!! 史郎おじさぁあああんっ!? どぉして抵抗するのぉっ!? こぉんなに可愛い直美っちがキスを求めてるんだよぉおおっ!! ちゃんとお世話しないとストレスが溜まって変な形態に進化しちゃうぞぉおっ!!」
「もう十分オタクに育っちゃってるでしょうがぁ……早く本来の女子高生にジョブチェンジしなさいよぉ……」
「やぁああっ!! その職業でとれるアビリティってお勉強とお洒落でしょぉっ!? そんなスキル直美の人生に合わないからいらないもぉんっ!!」
「じ、人生をプレイスタイルとか言わないのぉ……あぁ……マジで育成方針間違ったかなぁこれ……うぅ……」
「なぁんにも間違ってないからぁっ!! むしろ最短で史郎おじさんのお嫁さんと言う上位クラスへの転職を狙ってる直美の効率優先プレイにかんどぉしていいんだよっ!! その為にもこぉして『既成事実』実績の解除を狙って行動してるんだからぁっ!!」
「そ、その実績は仕様のため絶対解除することはできないようになっておりますぅ……」
「そ、そんなことないもんっ!! きっと小数点以下の可能性でワンチャン……」
「ないからぁ……諦めてよぉ……うぅ……」




