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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん③

「はぁ……デスルーラしてぇ……」


 ふら付く足取りで最後の気力を振り絞って自宅へと向かう俺。

 今日もまた顧客の我儘に振り回されてしまい、心身共に疲れ切っている。

 おかげで某ゲーム動画みたいに、残機を一つ減らしてでも自宅へワープしたくなってしまう。


(これが最短ルートです……って現実でもやれたらなぁ……はぁ……人類にも自宅に繋がるポータルを作れる能力をくれよぉ……そしたら出退社RTA配信してやるよ……え、ここで残業発生? リセットして人生一からやり直しです、お疲れ様でした……なんてなぁ……まあそれなりに気に入ってるからリセットする気なんかないけどさぁ……)


 疲れからかそんな現実離れした妄想をしながら歩いていたところで、不意に携帯が鳴り始めてドキッとする。

 まさかまたトラブルではとガクガクブルブルしながら……と言うと大げさだが、少しげんなりしながら画面を見つめてそこに書いてあった名前に今度は違う意味でドキッとしてしまう。


『ボルト101から来た直美』


(無敵かな……いや無敵だったわ、直美ちゃん……じゃなくて、いつの間に俺の携帯弄られたんだ?)


 表示される名前が某ゲームの主人公風に直されていることに驚くが、考えてみれば携帯のロック番号は直美の誕生日だった。

 だから知らない間に解除されていても不思議ではない。


「……もしもし?」

『新鮮な肉だぁ~っ!!』

「間違えました、さようなら」


 何故か見知らぬ蛮族に繋がったので即座に電話を切り、そのまま電源を落としてやろうか少し悩む。

 しかしその前に再び同じ人物から連絡が掛かってきて、俺はため息をつきながら再度携帯を耳に当てた。


「直美ちゃんふざけすぎ……どうしたの?」

『だから新鮮なお肉ぅっ!! 買ってきてぇ~っ!!』

「指示が雑ぅ……俺の家の冷蔵庫に何か入ってるでしょ?」

「やぁん、きょぉは自炊したくない気分なのぉ~……おそーざいかぁ、ファーストフード店でハンバーガーと夜セット買ってきてぇ~……可愛い直美のお・ね・が・い」


 電話越しに甘えた声を出す直美だが、その後ろからはカチカチとコントローラーを激しく動かす音と銃撃戦の音が聞こえてくる。


(またやってるな直美ちゃん……はぁ……本気でゲームで食べていくつもりなのかなぁ……そりゃあ確かに俺なんか比べ物にならないぐらい上手いけどさぁ……)


 幼いころから俺たちに鍛えられてきた直美は色んなゲームで……それこそ対人においてもかなりの成果を出せる程度には成長した。

 しかしそのせいか将来の夢の第二希望にゲーム配信者だかプロゲーマーだとか書いて提出してしまうほど直美はゲームに入れ込んでしまっているのだ。

 尤も本人が楽しそうにしている以上は保護者を気取っているだけの第三者である俺が口出しすべきではないと思うのだが、幼いころから見守ってきた身としてはどうしても気になってしまう。


(将来の夢における第一希望であるお嫁さん、のお相手として指名されている身としては口出ししたくてたまらない……今のままじゃ家事も何もあったもんじゃないでしょうが……そんなんで専業主婦やって行けると思ってるのかなぁ……俺ぐらいだぞ、そんな我儘許してあげるのは……だから俺かぁ……抜け目ないなぁ直美ちゃんはぁ……はぁ……甘やかしすぎだな俺……こんなんじゃ亮に叱られちまうよなぁ……亮……)


 そこでかつて共に直美を育てていた親友のことを思い出してしまい、何やら気分が重くなりそうになった。

 だから慌てて首を振って思考を紛らわせると、俺は改めて電話に意識を集中させる。


「あのねぇ直美ちゃん……お外に出たくないのはわかるけど、せめてゲームだけじゃなくてちゃんと自炊とかお家の中のことはやれる範囲でやろうね?」

『はーいっ!! 直美、明日から史郎おじさんのゆーとーりにするぅっ!! だから今日だけダラダラさせてぇ~』

「前もそう言ったよね直美ちゃん……何度も言うけど買い物とかは俺がやってあげるからさ、せめてお家では頑張らないと……そんなだらけてるところ俺の両親に見られたらまた叱られちゃうよ?」

『だいじょーぶぃっ!! もう最近はあんまそーいうこと言われなくなってきたしぃ……むしろ史郎おじさんのことよろしく支えてやってくれって頼まれちゃってるもんねぇ~』

「ええっ!?」


 軽く脅してやるぐらいのつもりで自分の両親の話題を出したのだが、逆に直美の言葉でこっちが驚いてしまう。


(い、いつの間にっ!? 俺の仕事が安定したからって早めの隠居生活とかで実家に戻って全然こっちに顔出さなくなったのにどうしてっ!? ま、まさか小まめに連絡取り合ってるのかっ!? 俺にはろくに電話は愚かメッセージだって送ってこないくせにっ!?)


 何やら外堀が埋まってる感すらあって、俺は妙な敗北感を感じてしまうのだった。


『だからお願いねぇ~……そんで食べ終わったら一緒にお風呂入って直美の身体をきれぇ~にしてねぇ~、それでそれでぇ夜は腕枕さんして一緒に眠ってぇ~……朝はおはようのキスで完璧っ!! これで史郎おじさん攻略RTAは終了ですっ!! 攻略時間は十四年とぉ~……』

「うぅ……ま、まだ個別ルートにも入ってませぇん……」

『えぇ~、まだ続くのぉ~? だけど高感度はMAXのはずなんだけどなぁ……フラグ立て損ねたかなぁ……やっぱり史郎おじさんヘタレだし夜這いイベント起こさなきゃ駄目なのかなぁ?』

「俺は攻略不可能な脇役キャラですぅ……はぁ……後、発音が変だよ直美ちゃぁん……また勝手に人のPCゲームやったなぁ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 新鮮な肉なら、やっぱり血の滴る生肉。 ハンバーガーではないぞお。 外堀を埋められるとしたら、なんか外面はうまくつくろっているのかなあ/w
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