史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん①
賞を取れた喜びからもう少しだけ続けたくなってしまいました。
とりあえず二つほどのIFルートを考えておりますが、前の話を忘れていても読めるように書いていくつもりです。
どうかお付き合いいただけたら嬉しいです。
「私、好きな人ができたからもう近づかないでね」
高校に入学して一年が過ぎたころ、唐突に幼馴染である霧島亜紀は俺こと雨宮史郎に別れを告げた。
青天の霹靂とはこのことを言うのだろう。
ずっと共に過ごしてきた相手の唐突な別れに頭が付いてこない。
『史郎くんとけっこんするぅ~』
ただ不思議と幼いころに交わした他愛のない約束が思い出されて仕方がなかった。
「じゃあね……もうこの窓も開けないでね」
隣同士で並んだ住宅、向かい合った窓を開けばいつだって幼馴染の姿が見えていた。
寝坊するからとよく窓を開けて寝ていたことを思い出す。
何度も起こしてあげて、そのたびに彼女が口にしてた感謝の言葉は何だったのだろうか。
どうしても納得できなかった俺は、朝を待ってもう一度声をかけようと思った。
「おはよう霧島……」
「……」
彼女は返事をすることもなく、早足で俺の前から立ち去って行った。
「なあ、急にどうしたんだ?」
「……」
「話ぐらいしてもいいんじゃないか?」
「……っ」
後ろから追いかけて声をかけて、ようやく振り返った霧島。
その顔には嫌悪感しか浮かんでいなかった。
「話しかけないで……」
その言葉を最後に俺たちの関係は終わりを告げた。
幼馴染からただのお隣さんへ。
「大丈夫か史郎? 無理するなよ?」
想い人の急な心変わりで辛い日々を送っていた俺を、親友の嵐野亮は献身的に支えてくれた。
毎日のように家に顔を出して、学校でも話しかけてくれて……だけど俺は一人になりたくてそんな親友に辛く当たってしまった。
「よぉ史郎、今日も一緒に学食行こうぜ」
だけど亮は全く気にすることもなく、ずっと俺の傍に居続けてくれた。
おかげで少しずつ俺は笑えるようになって、高校二年生になる頃にはある程度幼馴染のことを吹っ切れるようになった。
「ちっ……あいつまた窓を開けて……文句言ってやるか?」
高校生活の終わりごろには、前のように俺の部屋で一緒に遊ぶようになっていた。
隣に住む霧島はそんな俺たちに見せつけるように窓を開けて、嫌がらせのように耳障りな声を響かせた。
もう俺の知っている幼馴染は、好きだった子はどこにも居なくなっていた。
だけど代わりに亮が隣に居てくれる……だからもう辛いとは思わなかった。
「おっしゃぁっ!! 俺も合格したぜっ!! 大学じゃぁパーッと遊ぼうぜっ!!」
同じ大学に通い始めた俺たちは、ゲームサークルに入って騒いで遊びまくった。
大会にも出場して優勝こそ逃したが、ゲーム雑誌付属のDVDにプレイ内容が乗る程度には活躍できた。
名前もそこそこ売れ始めて、そんな時期にネット関係も盛んになって行き自然と配信プレイというものも始めるようになった。
「うほほっ!? うっほーっ!!」
ゴリラになり切ってプレイする亮と一緒に様々なゲームを攻略する俺は色んな意味でそれなりに注目を集めるようになった。
収入も入るようになったが、あくまで副次的なものとして普通に就活も始めていたそんな時だった。
「……ごはん」
隣の家の前でがりがりにやせ細っている小さい女の子が倒れているのを見つけた。
もうとっくの昔に隣の霧島家とは家族ぐるみで縁を切っていたから詳しい事情は分からなかったけれど、どうも霧島亜紀の子供で家族から虐待を受けているようだ。
気が付けば俺はその女の子の……霧島直美の面倒を見るようになった。
「史郎おじさんっ!! 亮おじさんっ!! きょぉと言うきょぉこそは負けないんだからねぇっ!!」
二十歳も半ばを過ぎてきたころ、直美は当たり前のように俺の家を出入りするようになっていた。
育児放棄されていたこの子をずっと面倒を見てきたおかげで、結構懐かれてしまった。
見た目はかつての幼馴染にそっくりで……だけど中身はまるで違うこの子と一緒にいる時間はとても楽しかった。
「おじさぁん……また一人で練習してるのぉ?」
俺もついに三十台になった、直美は気が付けば自然と母親である派手な格好をした幼馴染と……全く違う地味な格好をした女の子になった。
声や身体つきはともかく格好は完全にインドア全開な見た目な直美は、俺たちの悪影響のせいか女の子なのにお洒落よりゲームに夢中だった。
しかし俺はそんな直美の姿を見ているとオタクにしてしまった罪悪感よりも、何やらプレッシャーを感じてしまうのだ。
「何なら私が相手してあげようか?」
「ま、待ってっ!! コントローラーだと勝手が違くてっ!! も、もう少しコンボ練習させてくださいっ!!」
「えーっ!? もう販売から半日も経ってるのに、まだ安定しないのぉ~?」
何故なら……彼女は俺よりゲームがとても上手い。
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