亜紀会議
一応もう一回、ネタ話を投下しますが実質今回で物語は終了です。
長らくのお付き合いありがとうございました。
(こ、この状況……どうしたらいいのかしら?)
私は混乱する頭を押さえながら、目の前の現実……というより夢と向き合った。
「え、ええとじゃあとりあえず一番年上の私をただの亜紀と呼んでもらうとして……あなたは亜紀①というところかしら?」
「うぅん……どうせ呼ばれるならベイビーのBが良いかなぁ……」
そう言ってかつて見慣れた顔に慈愛の笑みを浮かべ、自らの大きなお腹を撫でる亜紀B。
(あの子は直美かしら……それともゆきな……だ、だけど見た目からしてまだ中学生よね……それに髪も染めてないみたいだし……どうなってるのかしら?)
「あ~、じゃあ私はコスプレ大好きだから亜紀Cでいいや~」
次いで隣にいたレオタードと蝙蝠の羽飾りを付けている私が名乗りを上げる。
(うぅ……ああいう格好を見ると反社組織で働かされてた嫌な思い出がぁ……それにこの子は高校生ぐらいよね……この頃の私ってそういうオタク系って苦手だったはずなのになんでこんなにも堂々と自慢げに笑っているのかしら?)
「わ、私は……亜紀①でいいですから……」
そんな二人をどこか恥ずかしそうに見つめるこちらもまた、かつての私によく似ている。
(この子も高校生……だけど他の二人とも……私とも違って物凄くしっかりしてそうね……見た目も清楚でお淑やかだし……私も道を間違えなければこうなっていたのかしら?)
「それなら私は亜紀②になりますね……」
静かに呟いたこちらの亜紀②は、他の亜紀たちを見つめてどこか羨ましそうな……それでいてどこか心苦しそうな表情を浮かべていた。
(この子は社会人よね……真っ当に成長して働いている様子なのに、どうして私みたいに過去を悔やむような顔をしているのかしら?)
「じゃあ私は亜紀③かなぁ……なんか変な感じぃ……」
最後に残った亜紀③は妊娠している亜紀Bを中心に、周りを見回して首を捻っていた。
(この子も高校生ぐらいよね……亜紀①によく似てるわね……少なくとも私にはまるで似てないわ……はぁ……)
ようやく全員の名称分けが済んだところで、私は気苦労から内心ため息をついてしまう。
(ゆきなと守幸が来て、何かお話したところまでは覚えているのだけど……何がどうなっているのかしらねぇ……?)
尤もこれはただの夢なはずだ、頬を抓っても痛みがないのがその証拠だった。
だから余り気負う必要はないはずなのだが、やはり同じ顔が勢ぞろいしているのを見ると落ち着かないものだ。
特にまだ若い学生の自分には……何度も過去に戻ってやり直したいと願った身としては何か一言言ってやりたい気になってくる。
「ええとぉ、亜紀さんは……未来の私ってことでいいんですよねぇ?」
「えっ? あ……わ、私のことよね……そ、そうだと思うわ……多分……」
しかし先に亜紀①に話しかけられてしまい、私は慌てて頷いて見せた。
するとすぐ亜紀Cが目を輝かせてこちらに身を乗り出してくる。
「おぉっ!! 未来の私と会えるなんてぇっ!! ねぇねぇそっちは今幸せぇ~っ!?」
「いやこれ夢でしょぉ……そんなこと聞いてどうするのよあんた……」
「いやいや、こんな意味ありげな夢なんてそぉそぉないからぁっ!! きっとフラグが立ったんだってっ!!」
「ふ、フラ……あんた史郎か直美みたいなこと言うのねぇ……」
亜紀Cに向かい呆れた声を発する亜紀③だが、その言葉はこの場を乱すのに十分すぎる威力を持っていた。
(えっ!? い、今この子直美って……い、いやこの歳なら産んでてもおかしくないけど……っ!?)
混乱する私の前で亜紀②もまた驚きを露わに、亜紀③へと視線を投げかけていた。
また亜紀Bも少しだけ驚いた様子を見せたが、残る亜紀Cと亜紀①は訳が分からないとばかりに首を捻っていた。
「そんなこと言われてもなぁ……というかぁ、直美って誰よぉ?」
「うん……聞いたことないよねぇ……」
「いや私は聞いたことあるけど……何、そっちじゃあ産んだ子供に直美ってつけたの?」
「ハァっ!? いやいやいやっ!! 何言ってんのあんたらっ!? 妹の直美だってばっ!!」
「「っ!?」」
再度叫んだ亜紀③の言葉に私たちは更なる混乱の渦へと落ちていく。
「わ、私には妹なんかいないけど……」
「同じくぅ……どうなってんのこれ?」
亜紀Cと亜紀①が呟く中、恐る恐る私と亜紀②が手を上げる。
「わ、私も妹は居ないけれど……娘の名前が直美ですけど……」
「私も直美は娘の名前だわ……母が付けてくれた名前なのよ……」
「あー、私もお母さんにこの子の名前候補として直美はどうって聞かれたなぁ……」
「えぇ……嘘でしょぉ……」
信じられない様子で呟く亜紀③を見るかぎり、どうやらこの子がでたらめを言っているわけではなさそうだ。
(いや、しょせん夢なんでしょうけど……この違いは何なのかしら? ひょっとして他の子達も少しずつ違うところがあるのかしら?)
皆私と同じことを考えたようで、互いに目配せし合うとすぐにこの場で一番見た目の違う亜紀Bへと視線が集中した。
「え、ええと……その……あ、亜紀Bさん……そ、そのお腹の子供は……」
「そんなの決まってるでしょ……史郎の子供……」
「「「えぇええっ!?」」」
「「あっちゃぁ……」」
愛おし気にお腹を撫でながら父親の名前を告げた亜紀Bだが、私はショックを隠し切れなかった。
(う、嘘……し、史郎の子供って……え、えぇっ!?)
「ああ、そっちは当たっちゃったんだぁ……ちゃんとゴムしなかったのぉ?」
「だってぇ……史郎と少しでも深くつながりたかったしぃ……それに史郎の赤ちゃん欲しかったんだもん」
「ありゃりゃぁ……まぁ気持ちはわかるけどねぇ……」
絶句する私と亜紀②と亜紀③に対して、亜紀Cと亜紀①はわかっていたかのような態度を示していた。
「し、史郎の……史郎と……」
「ど、どうやったのっ!? あ、あのヘタレで私と直美が二人掛かりで誘惑しても成人するまでって言ってファーストキスからも逃げまくってる史郎とどうやってそこまでの関係に行ったのっ!! 教えてください私ぃっ!!」
虚ろな目でぶつぶつと呟くことしかできない亜紀②と未だに何も言えないでいる私を差し置いて、一足先に正気に戻った亜紀③が土下座する勢いで亜紀Bへと教えを請い始めた。
「ど、どうやったって言われてもぉ……」
「自然にと言うか……流れというか……」
「本番こそ私を気遣ってくれてたからこっちから誘ったけど、それ以外の初めては大抵向こうがリードしてくれてたけどなぁ……普通にそれらしい誘いなかったぁ?」
「な、ないないなぁいっ!! ぜんっぜん無いからぁっ!!」
「そ、その前に聞きたいのだけど……あ、あなた達は史郎と……お、お付き合いしてるってことで良いのかしら?」
わちゃわちゃとやり取りしている学生時代の亜紀たちに、何とか正気を取り戻した私は恐る恐る訪ねてみた。
すると四人ともすぐに……本当に幸せそうな笑顔で頷いて見せるのだった。
その事実に私の胸は張り裂けそうなほどの痛みを感じてしまう。
(そ、そうなのね……あなた達は……間違えなかった私なのね……)
あり得た理想的な未来を改めて見せつけられたようで、目の前がくらくらしてくる。
それでも私がギリギリ意識を失わずにいられたのは……何だかんだで今の自分の状況もそこそこ気に入っているからだ。
(この子たちはきっとゆきなや守幸には会えないのよね……あんな可愛く優しい子に……だからきっとこれでよかったのよ私……)
「え、ええとぉ……ひょ、ひょっとして亜紀さんと亜紀②さんって……」
「い、いやけどさっき直美って娘がいるって……」
「えっ!? つ、つまり史郎と別れちゃったんですかっ!?」
「う、嘘でしょぉっ!? だ、だって私が史郎抜きで生きていけるわけないじゃんっ!?」
若い私の純粋な眼差しがザクザクと心に突き刺さる。
どうやらこの歳でようやく気付いたことを、この子たちはとっくに知っているようだ
(し、しかも別れたって聞き方してるし……そもそも私が史郎と付き合ってないとは欠片も思ってないのね……どうせ私は駄目なクソ女でしたよぉ……うぅ……)
何やら涙が滲んできそうになり、慌てて手の甲で拭う私。
そこで顔を上げて見れば、亜紀②さんもまた苦しそうに顔面蒼白になりながらも気丈に口を動かし始めていた。
「そ、その通りよ……史郎が居なきゃ私は何もできないのに……あんなにも頼れる人だったのに私は……今だって血の繋がりのない直美の父親として一緒に暮らしてくれて……」
「「「「はぁっ!? ち、血が繋がらないってどういうことぉっ!?」」」」
恐らくこの子たちは史郎以外の人と愛し合うなど欠片も頭をよぎったことがないのだろう。
だから他人とそう言う行為をしたと示唆しただけで、まるで糾弾するかのような声を上げた。
もちろんその言葉は、私と亜紀②には致命傷だ……吐き気がしてきた。
「うぅ……それはともかくとしてぇ……あ、亜紀②さんは史郎さんと一緒に暮らしているのかしら?」
「え、ええ……多分直美のためでしょうけど……私馬鹿だから直美を一人で育てようとしては失敗を繰り返してて……そんな駄目な私を史郎はいつだって助けてくれて……」
「……げぼぉ」
「えっ!? あ、亜紀さぁんっ!?」
ついに耐えきれなくなった私は嗚咽を洩らしながら地面にぶっ倒れた。
(あ、亜紀②さんは私と同じ境遇の同士だと思ったけど直美のことは見捨てずにちゃんと育ててたのね……うふふ、私だけが本当の愚か者だったってことぇ……産まれてきてごめんなさぁい……)
何だか物凄く申し訳なくて顔を上げる気にならなかった……そして同時に今の状況に何かとてつもなく強い既視感を覚えていた。
(なんかつい最近、こんな風にシャレにならない現実を突きつけられてぶっ倒れたような……あぁっ!?)
そこでようやく私は、この夢を見る原因となった直前の出来事を思い出した。
『お祖母ちゃんっ!! お父さんたちには内緒だけど私たち愛し合ってるのっ!!』
『だからゆきなとどれぐらいの血縁があるか知りたいんだっ!! 頼む教えてくれっ!! 祖母ちゃんだけが頼りなんだっ!! 』
(あぁ……夢も現実も私を攻めるのねぇ……うぅ……全部自業自得だけどさぁ……)
「し、しっかりしてよ亜紀…………ぁんっ!!」
「起きてよぉ亜紀…………ぁんっ!!」
耳元で聞き覚えのある声がする、これは過去の私か或いは孫たちか。
どちらにしても私の罪の象徴でしかない以上、顔を上げたところで余計な苦しみが待つだけだ。
(だけど…………ちゃんと向き合わないと、ね)
馬鹿で愚かな行為をし続けたこんな私に、何だかんだで史郎も直美も最後には手を差し伸べてくれた。
二人とも私を家族として扱ってくれて、ゆきなと守幸は祖母として慕ってくれているではないか。
確かに私の人生は後悔ばかりで、やり直したいと思うことだって一度や二度じゃない。
それでも……やっぱり私は今の自分を捨て去ろうとは思わなかった。
(だって……史郎さんも直美も、ゆきなも守幸も……私に微笑みかけてくれるのだから……)
そう思い、私は覚悟を決めて……ゆっくりと顔を上げ目を開くのだった。
「大丈夫ですか亜紀さんっ!?」
「大丈夫なのお母さんっ!?」
「だ、大丈夫亜紀お祖母ちゃんっ!?」
「だ、大丈夫か亜紀祖母ちゃんっ!?」
「……ふふ、ごめんなさい皆……心配をかけてしまって……そしてゆきな、守幸それに直美も史郎さんも……あなた達には謝らないといけないことが……」
亮会議
亮「肉食女に鞭で躾けられてます」
亮①「肉食ロリに尻に敷かれてます」
亮②「肉食女に胸を押し付けられてます」
亮③「肉食ロリに手錠と鎖と首輪とGPSと身体とで懐柔されてます」
「「「「だけど物凄く幸せです」」」」
亮●「史郎と駆け落ちに成功しました」




