亜紀お姉ちゃん
次かその次でラストです。
「直美ぃ……いい加減お部屋返してくれないかなぁ?」
「……やぁ、私このお部屋が良いのぉ」
毛布を頭からかぶり、拒絶を露わにする直美。
無事に高校へ入学できたのだからそろそろお部屋を戻してほしいのだけど、話をするたびにこうしてはぐらかそうとする。
「あのねぇ、私だって史郎と窓越しにおしゃべりできるこの部屋が良いの……いつまでも我儘言わないの」
「わ、我儘じゃないもぉん……私史郎お兄……史郎さんの彼女なんだから顔が見れる場所に居たいんだもぉん……」
「私だって史郎の恋人なんだけどぉ……」
毛布を捲ってやると、直美はベッドに顔を伏せてた状態で嫌々とばかりに首を横に振る。
(全くもぅ……少しは成長したかと思ったのにまだ全然お子様なんだからぁ……)
史郎が私たちを受け入れてくれた日から……いやその少し前から直美は自分のことを名前で呼ばなくなり史郎のこともお兄ちゃんとは言わなくなった。
恐らくは史郎に釣り合えるよう大人っぽくなるために背伸びしているのだろうけど、こうして我儘を言う姿はやっぱりまだまだ幼さが残っている証拠だ。
尤も……それがまた可愛く見えるのだから直美はズルい。
(史郎だって絶対に直美のこと意識してるよね……私がこの部屋にいる時は殆どカーテンなんか締めなかったのに……)
窓から隣の部屋を眺めるとせっかくの休日だというのにカーテンが半分ほど閉じられていた。
私が居るときは開きっぱなしだったから邪魔なカーテンは常に縛られていたはずだ。
それが態々解かれていると言うことは……そう言うことなのだろう。
「うぅ……け、けど亜紀お姉ちゃんはずっと何十年もこのお部屋で史郎お兄……さんとお話してたんでしょぉ……そっちの方がふこーへーだよぉ……」
「何十年って……私たちまだ十数年しか生きてないでしょうが……それに私が史郎とお話してるって言っても、男の子として意識してからは全然なんだからね」
実際に幼馴染として小さいころから窓越しだけでなく、お外でも交流を続けてきた私だが史郎を男の人として意識し始めたのは中学生になってからだ。
しかしその時はすぐに我が家の経済状況問題でお勉強に掛かりきりになっていて、高校に入学してからも一年間はやっぱり勉強漬けの日々だった。
そしてようやく多少余裕が出来てきたかと思ったところで、直美がお勉強に集中できるようお部屋を交換することになってしまった。
だからはっきり言って、私はお隣の部屋というアドバンテージを生かせるような真似は余り出来ていない。
(それに対して直美は誘惑しまくりみたいだもんねぇ……本人は学校が別だから一緒に居られない時間を埋め合わせたいって言うけどさぁ……)
学校でも、また同じ職場で働いている私は全然史郎相手にそう言うアピールは出来ていない。
人目があるところでイチャつくのが恥ずかしい……というより、史郎に拒絶されたらと思うとどうしても自分から動けなかったのだ。
(直美と一緒なら競うみたいに勢いでできちゃうんだけどなぁ……私って本当に駄目駄目だよぉ……よくこれで史郎に愛想つかされなかったなぁ……)
最近、直美や亮君の恋人である後輩の子を見ていると私には積極性が全然足りないと思えてしまう。
史郎のことが大好きなのに、どうしても自分からどう関わって行っていいのかわからず受け身になってしまうのだ。
「むぅ……そんなのかんけぇないじゃん……大事なのは史郎お兄ちゃんと積み重ねる思い出でしょぉ……亜紀お姉ちゃんは幼稚園からずっと同じところに通ってんだからもう十分あるでしょぉ……」
「……全然足りないもん……私だってもっと史郎と沢山思い出作りたいもん……」
「な、何それぇ……亜紀お姉ちゃん欲張りだよぉ……」
「欲張りなんかじゃないもん……だって私まだキスもしてないし……ハグだってもっといっぱいしたいし……」
(え、え、エッチなことも……とは流石に直美には言えないけど……はぁ……)
もう一度窓を見て、締まりかけのカーテンを確認する私。
多分アレを閉めていると言うことは、私たちに知られたくない何かをしていると言うことだ。
そしてそれは直美がこの部屋に越してきてから回数が増えている……つまりそう言うことなのだろう。
「わ、私だってしたいんだからぁっ!! キスもハグもナデナデもペロペロもギュッギュもクチュクチュも……」
「な、何言ってるの直美ぃっ!?」
直美の過激な声に思わずストップをかけた私。
「だってぇほんとぉにしたいんだもん……亜紀お姉ちゃんだって史郎お……さんとしたいんじゃないのぉ?」
「そ、それは……うぅ……」
直美の率直な言葉に、私は何も言い返せなかった。
こういう正直な本音を出せるこの子は本当に凄いと思うし、羨ましい。
(私がお姉ちゃんなのになぁ……史郎とだってその分長く居たのに……この子は本当に凄いなぁ……)
だけど妬ましいとかそう言う考えは殆どなかった。
何せこの子が居なければ、私は史郎への恋心すら自覚できずに終わっていただろうから。
むしろ私の妹として産まれてきてくれてありがとうと思ってしまう。
(だ、だけどやっぱり史郎を独占はさせないだからねっ!! 二人でわけっこするんだからっ!! 絶対に先は越させないぞぉっ!!)
「やっぱりそうじゃんっ!! ぜ、絶対に亜紀お姉ちゃんに先は越させないんだからねっ!!」
「も、もぉ何言ってるのぉっ!? そ、それにそれはこっちのセリフぅっ!! 抜け駆けなんか絶対にさせないんだからぁっ!!」
そう言ってにらみ合いながらも、私はどこかこういうやり取りができるのが楽しくてついつい微笑んでしまうのだった。
(他所から見たらこんな関係絶対文句言われちゃうだろうけど……やっぱり私、史郎だけじゃなくて直美も居てくれるこの状態が一番幸せだなぁ……)
「むぅ……じゃ、じゃあいっその事……一緒に攻めちゃう?」
「えっ!? ど、どういうことよ?」
「ほ、ほら今日ってうちのお母さん遅くなるみたいだし史郎お兄ちゃんの両親もお出かけ中……チャンスだよねぇ」
「……っ」
悪戯っ子のように笑う直美、いつもなら諫めるところだ。
(だけど……絶対楽しいよね、直美と史郎と一緒なら何しても……よぉしっ!!)
私は直美に向かい、多分同じ様な笑みを浮かべながらゆっくりと頷いて見せるのだった。
「にっひっひぃ……ついに亜紀お姉ちゃんも乗り気になってくれたんだぁ……じゃぁ早速けーかく考えよっかぁ~……とりあえず後輩ちゃんがしてるみたいに料理を……」
「…………聞こえてるからな二人とも」
「「っ!?」」
【読者の皆様にお願いがあります】
この作品を読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。
ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。
作者は単純なのでとても喜びます。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をチェックすればできます。
よろしくお願いいたします。




