史郎お兄ちゃん㉗
「あ、あんた何しに来たのよっ!?」
「親に向かってなんだその口の利き方は……まあいい、それよりあいつはどこだ?」
「ちょ、ちょっと勝手に入らないでよっ!!」
久しぶりに顔を出したかと思えば、私たちとろくに話をしようともせず家に上がり込もうとする父。
(ああもぉ、どぉして確認しないでドア開けちゃったんだろう……私の馬鹿っ!!)
とにかく下手に中に入られたら何をされるかわかったもんじゃない。
だから私とお姉ちゃんは父の前に回って立ちはだかった。
「勝手も何もあるか、ここは俺の家だ……ほら邪魔だからさっさと退け」
「ど、どかないもんっ!! あんたが何て言おうとここはもう私たちのお家なのぉっ!!」
「そうだよっ!! 違う女と浮気して出て行ったあんたの居場所なんかもうないんだからっ!!」
「あぁっ!? なんだお前らっ!! 親の俺に逆らう気かっ!?」
強引に中へ入ろうとする父に食い下がっていると、向こうは腹が立ったのか急に声を荒げてきた。
成人男性に正面から怒りを向けられるのは初めてで、私はかなり恐怖を感じてしまう。
それでもこんな男に情けないところを見せたくなくて、何とか睨み返してやった。
「あ、当たり前だよっ!! ろ、ろくに私たちの面倒も見ないでいて今更父親面しないでよぉっ!!」
「今まで全く家庭を顧みず遊び歩いて……挙句の果てに金銭面の責任すら放棄してお母さんに全部押し付けちゃってさぁっ!! そんなあんたを親だなんて思えるわけないじゃんっ!!」
「ガキのくせに生意気な口を利くなっ!! 良いからさっさとあいつを出せっ!! じゃなきゃ中に入れろっ!!」
「あ、あんな手紙送ってきておいて今更お母さんに何の用があるのよぉっ!?」
「何の返事もないからこうしてきたんだろうがっ!! たく、あいつは相変わらず愚図だなっ!! こっちにも予定があるんだよっ!! これ以上邪魔するなら容赦しねぇぞっ!!」
自分勝手なことを喚きながら私たちを睨みつけてくる父は、まるで見せつけるかのように自分の右手を持ち上げ始めた。
(ま、まさか暴力でも振るう気ぃっ!? うぅ……ま、負けてたまるかぁっ!!)
やっぱり怖いし恐ろしいけれど、それでも私たちはこの場に立ちはだかり続けた。
お母さんとお姉ちゃんと三人で暮らしてきて、史郎お兄ちゃん達と思い出をたくさん作ってきた家をこんな奴に汚されたくなかったのだ。
「な、殴ったって無駄だよっ!! ぜ、絶対にどかないんだからぁっ!!」
「う、うんっ!! な、何があってもここは通さないからっ!!」
「このクソガキ共がっ!!これ以上俺に逆らうなら母親と一緒に一刻の猶予も与えずにこの家から追い出すぞっ!!」
そんな私たちを見て顔を真っ赤にして怒り狂う父はとんでもないことを口走った。
「なぁっ!? 何言ってんのあんたっ!?」
「俺は本気だっ!! 大体この家は俺の物なんだからどうしようが俺の勝手だろうがっ!! ああ決めたっ!! 本当は身の回りの物をまとめるぐらいの時間はやろうと思ってたがもう許さんっ!! 今すぐ手続きを済ませてお前らを追い出……」
「騒がしいですよ……何をしてるんですか?」
「お、おばさん……」
玄関先で怒鳴り合っていた私たちの声がうるさかったのか、そこで史郎お兄ちゃんのお母さんが顔を出してきた。
「あ……ああ、久しぶりです雨宮さん……す、すみません、うちの娘たちが騒がしくして……」
途端に威勢を失い頭を下げ始める父。
事なかれ主義なのか、弱い立場の奴にしか強気に出れないのかは知らないがその姿は余りにも情けなかった。
(さ、最っ低っ!! なんなのこいつぅっ!?)
「いや、私は今更戻ってきて恥知らずな事を喚き散らしているあなたに言ってるんですよ……みっともない」
「なっ!?」
「亜紀ちゃんも直美ちゃんもこんな人の相手をしなきゃいけないなんて大変ねぇ……何なら次からはすぐ私を呼びなさいね」
「あ、あなたは部外者でしょうがっ!? 人の家のことに首を突っ込まないでいただきたいっ!!」
「部外者じゃないわよ、むしろ関係者だから……何せその子たちは私にとっても娘みたいなものだもの……そうよねぇ亜紀ちゃん直美ちゃん」
そう言っておばさんは私たちに微笑みかけると、盾になる様に父との間に入り込んでくれた。
「お、おばさぁん」
「うふふ、どうせならお義母さんって呼んでほしいわぁ……まあどっちを選ぶのかはあのバカ息子次第だけど……」
「な、何を馬鹿なことを……」
「私は本気よぉ……もっと言えばうちのバカ息子はそれ以上に大真面目よ……だからこの子達を不幸にするような真似は絶対に許さないわ」
「くぅっ!? も、もういいっ!! どうせこんな家もう処分しようと思ってたところだっ!! それまで精々勝手にしてろっ!!」
史郎のお母さんに睨みつけられた父だが、流石に他所の人へ暴力を振るうつもりはないようで悔しそうにしながらも引き下がって行った。
「ふぅ……あ、ありがとうお……お義母さん……」
「あら、本当に呼んでくれるなんて……うふふ、すごく嬉しいわぁ~」
「あ、あはは……け、けどこれでよかったのかなぁ……あいつ凄く怒って帰って行ったけどこれでお母さん不利になったりしないかなぁ……」
「うぅ……そうだよねぇ……お家だってあいつの名義なのは事実だし……も、もしも勝手に売っちゃったら直美たちどうすれば……」
ようやく父が去って気持ちが落ち着いてくると、今度はあいつの捨て台詞が気になって仕方が無くなってくる。
「大丈夫よ、うちのバカ息子が頑張ってるみたいだし……もしも万が一のときは私の家で一緒に暮らせばいいだけよ」
「ふぇぇっ!? そ、それ本当ぉっ!?」
だけどそこで予想もしなかった提案がお義母さんの口から飛び出して、私も亜紀お姉ちゃんも驚いて顔を見合わせてしまうのだった。
「ええ、もちろんよ……二人とも実の娘みたいなものですし霧島さんとも仲良くやっているから困ってるのを放っておけないもの……それともあなた達だけ史郎と別の場所で同居したかったりする?」
「えぇっ!?」
「そ、それはぁっ!?」
「ふふふ、冗談よぉ……流石にあなた達が高校卒業する前に子供が出来たら大変だものねぇ……まあうちの史郎も亜紀ちゃんも真面目だから何があってもそんな真似するとは思えないけどねぇ……周りから見える窓越しにキスをねだる直美ちゃんは……気を付けて頂戴ね」
「は、はぁい……うぅ、直美だけ何という言われよう……ただ史郎お兄ちゃんを愛してるだけなのにぃ……」
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