史郎お兄ちゃん㉔
「ただいま直美……ちゃんとお勉強してたぁ?」
「お帰りお姉ちゃん……ちゃんとしてるに決まってるでしょぉ~、史郎お兄ちゃんもおかえりぃ~」
「ただいま直美ちゃん、調子はどうだい?」
アルバイトから帰ってきた亜紀お姉ちゃんを見るなり、反射的に窓を開け放つと予想通り史郎お兄ちゃんも顔を出してきた。
二人の今日のシフトは同じ時間帯だったから一緒に買ってくるに違いないと思っていたが、その通りだったようだ。
「えへへ、とぉってもいい感じだよぉ~……テストもせーせきも完璧だからぁひょっとしら推薦貰えちゃうかもぉ~」
「おお、それは凄いじゃないかっ!! 俺は元より、あの亮ですら生活態度が引っかかって推薦貰えなかったぐらいなんだから」
「あはは……まああれは仕方ないよぉ、あの子と関わる嵐野……じゃなくて亮君って友達の私たちの目からしても犯罪臭が凄かったし……」
「そ、そうだったんだぁ……な、直美何も考えないで嵐野……じゃなくて亮さんにあの子紹介しちゃったけどまずかったかなぁ……」
言いながら私はちらりと自分の携帯電話へ視線を投げかけた。
亜紀お姉ちゃんが初任給でついこの間買ってくれたものだが、既にかなりの容量が写真で埋まってしまっていた。
後輩ちゃんとアドレスを交換して以来毎日のようにメールが送られてきているからで、その中身は殆ど亮さんとのツーショット写真だった。
(どぉみてもデート中の写真だったり、どっちかの家にお泊りしてる写真だったり……しかも中には親か誰かに撮影させてるだろってのもあるしぃ……な、直美はとんでもないモンスターを生み出してしまう手助けをしてしまったのかも……うぅ、ちょっとだけ罪悪感……)
「いやぁ、そんなことないと思うぞ……亮の奴振り回されっぱなしだけど、あいつの話題もうあの子のことばっかりだからなぁ……」
「うん、大体死んだような目してるのにあの子こと話し出すとどんどん早口になるし……他の誰かが悪く言おうものならすぐに庇い始めるぐらいだから……おまけに将来を見据えて私たち以上に勉強とか資格取得とかガンバってるし……何だかんだでラブラブだよ」
「そ、そっかぁ……ならいーけどぉ……」
再度携帯に目を落として写真を広げてみると、確かにどの亮さんも乾いた笑みを浮かべているがその手はしっかりと後輩ちゃんと繋ぎ合っていた。
それこそ出会った当初は後輩のあの子が引っ張ってばかりだったのを見ると、やはり二人が言う通り両思いになれたと言うことなのだろう。
(……ちょっとだけ、羨ましいかなぁ)
あの子に比べて今だに進展らしい進展が見られない自分の状況に少しだけため息が出そうになる。
だけど亜紀お姉ちゃんの言う通り、またお母さんのことを思えば今は勉強を優先すべきだろう。
(亜紀お姉ちゃんなんかお部屋代わってくれたし、史郎お兄ちゃんの声を聞くために携帯電話買ってたけど自分だけじゃなくて私の分も買ってくれてるぐらいだし……ここまでしてくれてるんだから直美も今だけは頑張らなくちゃっ!!)
全ては高校に入学して、私もアルバイト程度ででも働けるようになってからだ。
だから私もここの所、史郎お兄ちゃんへの誘惑は……一日三十分以内に収めるようにしているのだった。
「まあそれはともかく、直美ちゃんお勉強の続きを……」
「えぇ~、直美学校から帰って今まで数時間ずぅっと頑張ってたんだよぉ……少しだけ休憩がてら史郎お兄ちゃんと……」
「全く直美はすぐそれなんだからぁ……けどまあ今日は史郎の家おじさんたち居ないんだよね? だったら久しぶりに家で一緒に食べない?」
「おお、それは物凄く助かるけど……直美ちゃんのお勉強の邪魔になったら悪いしなぁ……」
「だ、大丈夫だからっ!! ぜ、絶対一緒に食べるべきだよっ!! い、良いんだよねおねえちゃんっ!?」
亜紀お姉ちゃんから出たまさかの提案に私は目を輝かせた。
何せ勉強の妨げになると史郎お兄ちゃんと接触禁止令が出てから、窓越しに会話する以外本当に接触してこなかったのだから。
「ご飯食べる間だけね……それも直美がお母さん帰ってくるまでサボらないで勉強を頑張ってたらだけ……」
「わ、わかったからっ!! 直美はいますぐべんきょぉに戻りますっ!!」
急いで机に食いついて、新しい問題集を解き始める私。
(し、史郎お兄ちゃんとくっつけるこんなチャンス逃せないよぉっ!! うふふ、ひさしぶりにたぁくさんくっ付いてお兄ちゃん分をたっぷり摂取するんだからぁっ!!)
「あはは、物凄く効果てきめんだわこれ……そう言うわけだから史郎、うちのお母さん帰っていたら声かけるからそしたら一緒に食べよっか?」
「了解、じゃあ直美ちゃんソレまで頑張るんだよ」
「はぁいっ!! 直美頑張りまぁすっ!!」
「じゃあ私は家事を済ませちゃうから……史郎見張っててよぉ? 一緒に遊んでちゃ駄目だからね?」
私たちに釘を刺して部屋を出て行った亜紀お姉ちゃん。
いつもならここで休憩がてら史郎お兄ちゃんの誘惑タイムに入るが、今日は真面目に勉強し続けるのだった。
「……よぉしっ!! 史郎お兄ちゃんこれ採点しておいてっ!!」
「は、早いねぇ……ええとぉ……おお、しかもほとんど正解で……」
「ハイ終了っ!! 史郎お兄ちゃんこっちもよろしくねっ!! 直美は次の問題集にかかるからっ!!」
「うおっ!? な、何という速度だっ!? 直美ちゃん恐るべしっ!!」
「史郎お兄ちゃんのためなら直美は無敵なのだぁっ!! このちょぉしでガンガンやっちゃうんだからぁっ!!」
「な、直美……史郎ぉ……」
「あ、亜紀っ!? ど、どうしたそんな顔して……」
「お、お姉ちゃん何が……そ、そのお手紙はなぁに?」
「今郵便ポスト覗いたら入ってたの……こ、これどうしよう……お、お母さんに見せていいのかな……」
泣きそうな顔で入ってきた亜紀お姉ちゃんが持っていたのはお母さん宛ての大きな封筒で裏面には……私たちの父親の名前がはっきりと記されていたのだった。
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