史郎お兄ちゃん㉑
「良い感じだよ直美ちゃん、勉強捗ってるみたいだね」
「えへへ~、まぁねぇ~……直美が本気になっちゃえばこれぐらいちょろいちょろいっ!!」
亜紀お姉ちゃんの部屋で見事に課題を突破した私は、窓越しに史郎お兄ちゃんへ成績を自慢して見せていた。
先日お母さんと話してから、私の中でスイッチが入ったようで物凄く勉強に集中できているのだ。
(直美が公立に受からないと家計が大変だもんね……お母さんやお姉ちゃんのためにも……何より私自身のために頑張らなくちゃっ!!)
「急にやる気出しちゃってぇ……何があったのよぉ?」
「ひぃみぃつぅ……それより史郎お兄ちゃぁん直美頑張ったからご褒美を……」
「だからそれは高校受かるまで我慢しなさい……私も我慢してるんだからぁ……」
「ぶぅ……だけど亜紀お姉ちゃんは史郎お兄ちゃんと同じ職場で働き出してるじゃぁん……お姉ちゃんばっかりずるいよぉ」
ジト目で亜紀お姉ちゃんを軽く睨みつける。
高校一年で学力を上げることに成功したお姉ちゃんは二年目になってバイトの許可が下りた。
そしてすぐに史郎お兄ちゃんの職場へ向かい、あっという間に採用されてしまったのだ。
(シフトだって可能な限り同じ時間帯に入れちゃってさぁ……朝から晩までずっと一緒で……お部屋だってある意味お隣だし……ずるいんだからぁ……)
「もぉ、それは言わない約束でしょぉ……」
「だってぇ……直美だって史郎お兄ちゃんと一緒に居たいのにお家でべんきょぉしてばっかりで全然顔合わせらんないんだもん……」
「まあまあ、亜紀も高校一年生の間は自分の部屋で勉強頑張ってたからさ……直美ちゃんも少しだけ我慢してよ」
「だけどさぁ……亜紀お姉ちゃんは寝る前とかも窓開ければ史郎お兄ちゃんとすぐ顔合わせられるじゃん……直美はそれできないもん……」
ついつい愚痴ってしまうが、実のところずっと前から羨ましかったのだ。
それでもこれまでは寂しくなれば直接史郎お兄ちゃんの部屋に向かって無理やりお泊りしたりしていたから耐えられていた。
だけど今は受験が終わるまで直接接触禁止となり、こうして亜紀お姉ちゃんの部屋に居るときだけ史郎お兄ちゃんとお話しできる状態が続いているうちについに我慢できなくなってしまったのだ。
「そっか……確かに亜紀とは夜も窓越しにお話したことあるけど直美ちゃんとは滅多になかったもんねぇ」
「べ、別に直美もお話したかったらいつでも私の部屋に来ればいいのに……」
「よく言うよぉ、亜紀お姉ちゃん夜とか……とゆーより史郎お兄ちゃんと何かした後とかよくお部屋に鍵かけて篭っちゃうじゃぁん……何してるのか知らないけどさぁ……」
「えっ!? そ、そうなのかっ!?」
「ちょぉっ!? な、何言ってるの直美ぃっ!?」
顔を真っ赤にして私の口をふさごうとする亜紀お姉ちゃん、そしてそれを見て同じく顔を真っ赤にする史郎お兄ちゃん。
「べぇつにぃ……ただ事実言ってるだけじゃぁん……史郎お兄ちゃんは窓越しに何か音とか聞こえてたりしないのぉ?」
「い、いやっ!? そもそも亜紀が窓とカーテンを閉めたら何も……ひょ、ひょっとしてたまにカーテン閉めてる時って……」
「し、知らない知らないっ!! 史郎の馬鹿っ!! エッチスケベっ!!」
「えぇ~? 亜紀お姉ちゃん、どぉしてそこでエッチとかスケベって単語が出るのかなぁ?」
「う、うるさいっ!! あんた後で覚えてなさいよぉっ!!」
調子に乗ってからかってみると、亜紀お姉ちゃんは流石に怒った様子で私を睨みつけてきた。
「もぉジョーダンなのにぃ……ともかくだから直美もやっぱり史郎お兄ちゃんと少しでも関わってそーいうやり取りしたいのぉ……お勉強しなきゃなのはわかるけどさぁ……」
「そ、そっかぁ……うーん……じゃあいっそ俺の家の空いている部屋にでも住んでみる?」
「えぇっ!? い、いいのっ!? わーいっ!! 住む住むぅっ!!」
「だ、駄目でしょ史郎っ!? それじゃあ接触禁止令の意味がないじゃんっ!! それにそれだと今度は私が羨ましくて仕方なくなっちゃうよそんなのぉっ!!」
史郎お兄ちゃんのまさかな提案に、私はすぐに有頂天になり一も二も無く頷いて見せたが亜紀お姉ちゃんがストップをかけた。
「けど確かにここの所直美ちゃんと顔を合わせる機会は減ってるし……俺としても亜紀と同じぐらい直美ちゃんにも構ってあげたいんだよ……」
「えへへ~、なぁんだ史郎お兄ちゃんも直美と同じ気持ちだったんだぁ……じゃあ両思いと言うことでこうなったら早速史郎お兄ちゃんのお家にお引越しを……」
「だから駄目って言ってるでしょぉっ!! もぉ……じゃ、じゃあ仕方ないから……受験が終わるまでお部屋交換してあげるからそれで我慢しなさい」
「ふぇぇっ!? い、いいの亜紀お姉ちゃんっ!?」
今度は亜紀お姉ちゃんからまさかの提案が出て、私は思わず尋ね返してしまう。
それに対して亜紀お姉ちゃんはちょっとだけ不満そうに頬を膨らませながらも、はっきりと頷いて見せてくれるのだった。
「ただし、ちゃんと勉強して成績上げることっ!! もしも逆に集中力が落ちたりしたらすぐ元通りにするんだからねっ!!」
「わ、わかってるよぉっ!! ありがとうお姉ちゃんっ!! これで毎晩史郎お兄ちゃんと……ぐふふ……わぁいっ!!」
「い、今の一瞬の怪しい笑いは何なの直美ちゃんっ!?」
「べぇつにぃ……にひひ……うひひ……よぉし……を頑張るぞぉっ!!」
「な、直美ぃ……うぅ……私早まっちゃったかもぉ……」
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