史郎お兄ちゃん⑯
「むぅ……」
私は柱の陰に隠れながら、レジカウンターの内側で作業をしている史郎お兄ちゃんをじっと睨みつけていた。
「この間雨宮さんがお勧めしてくれた映画観たんですけどぉ……何なんですかあのサメ映画?」
「あはは、あれ見たんだぁ……楽しかったでしょ?」
「まあ違う意味で楽しかったですけどぉ……もぉ、意地悪なんですからぁ~」
(もぉっ!! 史郎お兄ちゃんてば直美が居ながらあんな年上の女とイチャイチャしてぇっ!!)
同じ従業員の大学生ぐらいの年齢の女性と仲睦まじくお話している史郎お兄ちゃん。
いつも通り学校帰りにお店へ覗きにきたらこれだ、全く持って油断ならない。
(まさかほんとぉに史郎お兄ちゃんモテモテだったなんて……うぅ……これは直美最大のピンチかもぉっ!!)
てっきり高校で同じ学生の子にだけ慕われているのかと思ったら、まさかお外でもこうだとは思わなかった。
高校生のお姉さんたちはまだ私とそう変わらないように見えたけれど、今お話ししている女性はかなり大人びて見えてしまう。
そんな大人の魅力に史郎お兄ちゃんが引っかかってしまわないか不安で、危機感が募ってしまう。
(うぅ……邪魔してやりたい……けどお仕事中だからなぁ……)
レジの外で別のお仕事をしているときにさり気なく接触するだけならばともかく、まさかカウンターを占拠して話しかけるような真似は出来ない。
幾ら私でもそれぐらいの分別はつく、だからこそ早く外に出て来いとこの場所から念を送っているのだ。
(史郎おにいちゃんが直美に気づいてくれればなぁ……早くこっち見ろぉ~っ!!)
「ごめんごめん、じゃあ次は真面目なサメ映画と言うことでディープ……んっ?」
「……にひひ」
「だからどぉしてサメ映画なんですかぁ~、もっとこう恋愛ものとか……どうかしました?」
「ああ、ちょっとね……少しレジお願いね」
「あ、雨宮さぁんっ!?」
作業に一段落ついたのか顔を上げた史郎お兄ちゃんと私はばっちり目が合ってしまう。
思わずほくそ笑んでしまった私に史郎お兄ちゃんは優しく微笑み返すと、目論見通りこっちに向かってきてくれた。
「いらっしゃい直美ちゃん、来てたんだね?」
「えへへ~、だってぇ史郎お兄ちゃんに少しでも早く会いたかったんだもぉ~ん」
「ふふ、ありがとう直美ちゃん嬉しいよ」
近づいてきた史郎お兄ちゃんに飛びついた私は、レジの奥にいる女性へチラリと視線を投げかけた。
こちらを見て少しだけ悔しそうにしている様子からして、やはり彼女は史郎お兄ちゃんに思うところがあるようだ。
(危ない危ない……こぉなったら早いうちに史郎お兄ちゃんは直美のものだって周知させなきゃっ!!)
亜紀お姉ちゃんならともかく、他の女性に史郎お兄ちゃんを取られるのは我慢できない。
だから私は史郎お兄ちゃんが他所へ行かないよう、しっかりと既成事実を作らなければと思うのだった。
「ほんとぉに~? 実は邪魔だとか思ってなぁい?」
「そんなこと思うわけないでしょ……俺にとって直美ちゃん達は世界で一番大切な女の子なんだからさ」
「えへへ~……達ってのが気になるけどぉ史郎お兄ちゃんだもんねぇ……まあそこは許しましょー……キスしてくれればねぇ~」
「えぇっ!? ほ、本気で言ってるのっ!?」
「直美はいつだって本気なのぉっ!! 帰り道でもお家に戻ってからでもいいからぁ……直美とぉファーストキスしちゃうのだぁっ!!」
(さ、流石に身体は早いかもだけどキスだけなら……うふふ、図書館でお勉強中の亜紀お姉ちゃんには悪いけど史郎お兄ちゃんの初めては直美が貰っちゃうのだぁ~っ!!)
「そ、それは……その……ええと……」
「……史郎お兄ちゃん、直美とキスするの……嫌?」
「そ、そんなことないっ!! む、むしろ嬉し……あ、亜紀ぃっ!?」
「ひぃっ!? あ、亜紀お姉ちゃんっ!? い、いつから柱の陰で見てたのぉっ!?」
「ひぃみぃつぅ、それよりぃなおみぃ……何抜け駆けしようとしてるのぉっ!!」
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