史郎お兄ちゃん⑮
「亮さぁあんっ!! おっかえりぃっ!!」
「うおっ!? ど、どうして君がここにいぃっ!?」
高校の敷地内から出てきた嵐野さんは、校門の裏に隠れていた私の後輩に飛びつかれて物凄く驚愕した様子を見せた。
「お迎えに来たのぉ~っ!! だって私亮さんの奥さんだもんっ!!」
「なぁっ!?」
ランドセルを背寄った少女の発言に近くを歩いていた学生たちもまた、驚きに顔を歪め嵐野さんを見つめながらひそひそと話し始めてしまう。
「うわぁ……ロリコンだぁ……」
「犯罪者……最低……」
「羨ま……いや妬ま……いやけしからんなぁ……誰か雨宮さんか霧島さんに……いやその前に警察に連絡を……」
「ち、違うからね皆さんっ!! 俺は無実……な、直美ちゃんいたのっ!? 見てないで何か言ってくれぇっ!!」
「うぷぷ、嵐野さんは大変だねぇ」
慌てたように周りを見回した嵐野さんは、そこでようやく近くで笑いをこらえていた私に気が付いたようだ。
「えへへ~、直美先輩道案内してくれてありがとうございましたぁ~」
「いやいや、直美も来てみたかったしいい口実になったよぉ~」
私に向かって頭を下げる後輩ちゃんに軽く首を横に振って見せた。
嵐野さんと少しでも長く居たいと望む彼女は、前々からこうして高校まで迎えに行こうと考えていたらしい。
しかし流石にそこそこ距離があるため、小学生という年齢もあり一人で行くのは両親に反対されていたのだ。
そこでこの子は保護者代わりと道案内人を頼み込んできて、私も史郎おにいちゃんと亜紀お姉ちゃんがどんなふうに下校しているのか確認したかったから了解したのだった。
「な、直美ちゃんっ!? き、君はどっちの味方なんだぁっ!?」
「直美はぁ二人の味方だよっ!! ラブラブカップルは応援しちゃうんだからぁっ!!」
「わぁいっ!! 直美先輩大好きぃっ!! えへへ、聞いた亮さんっ!! 私たちラブラブカップルに見えるってぇ~」
「わ、わぁいうれしーなぁ……あはは……あは……はぁ……うぅ……」
私の言葉を受けて激しく喜ぶ後輩ちゃんは年相応に微笑ましい仕草で、これを見た周囲の人たちは一層嵐野さんへ不審者を見る目を向けてくる。
そのせいか引きつった笑顔を見せながらも少しだけ涙ぐむ嵐野さんだが、何だかんだでだんだん美人に育ってきている後輩ちゃんにここまで慕われているのだから幸せだろう。
だから私は二人の関係には突っ込もうとはせず、自らの要件を尋ねるのだった。
「よかったねぇ二人ともぉ……ところで嵐野さん、史郎お兄ちゃんと亜紀お姉ちゃんはぁ?」
「うぅ……あいつらはぁ……多分もう少しすれば来ると思うぞ」
「そうなんだぁ……嵐野さんとは一緒に帰らないのぉ?」
「ああ……あいつらはどっちもモテるからなぁ……帰る前に呼び止められることが多いんだよ」
「ええっ!?」
嵐野さんの返事は予想外過ぎて私は思わず固まってしまう。
(も、モテるって何っ!? そりゃあ史郎お兄ちゃんは格好良いし亜紀お姉ちゃんも美人だけど……えぇっ!? は、初耳だよぉそんなのぉっ!!)
「そうなんだぁ……ええと直美先輩は二人が来るのを待つんですよね? じゃあそれまで私たちも一緒に居ましょうか?」
「え……あぁ……い、いやあんまり遅くなるとごりょーしんが心配するでしょ? 直美は一人でへーきだから先に帰って構わないよ」
後輩ちゃんの気遣うような声に何とか正気を取り戻した私は慌てて首を横に振って見せた。
何だかんだで二人は恋人同士といっていい関係だ、二人きりで帰りたい気持ちは強いはずだ。
また嵐野さんは意外と頼りになる人だし、この子の両親にも信頼されているから私の代わりに保護者役を任せても問題はないだろう。
「い、いやあいつらだってすぐに出てくるだろうし待ってから皆で一緒に帰……」
「わかりましたぁっ!! じゃあお言葉に甘えて失礼しますね先輩っ!! さぁ亮さん、私たちのお家に帰りましょぉっ!!」
「ちょぉっ!? ま、待って……というかその言い方だとまた俺のうちに来るつもりなのぉっ!?」
「だってぇ亮さん一人暮らしだから私がお世話しなきゃダメダメなんだもぉん……大丈夫、ちゃぁんと今日もお泊りするつもりで用意してきたからっ!!」
「「「お、お泊りぃっ!?」」」
後輩ちゃんのとんでもない発言に改めて周囲の人と、私まで嵐野さんを見つめてしまうが当の本人は違うとばかりに必死に首を横に振るばかりだった。
「ま、待ってくれっ!! 誤解なんだっ!! お、俺は……」
「亮さんっ!! もぉいいでしょっ!! ほら早く帰ろうってばぁっ!!」
「う、うおっ!? な、なんて馬力……ひ、引っ張らないでってばぁっ!?」
「はいはい、帰りますよぉ~……じゃあ失礼します先輩っ!!」
何か言いたげな嵐野さんを強引に引っ張って行ってしまった後輩ちゃん。
後に残された私と、周囲の人たちは少しの間その去っていく後姿を見つめることしかできないのだった。
(う、うぅん……まさか流石に一線は超えてないよねぇ……だけどなぁ……い、一応警察に相談しておいた方が……)
「あれ? 直美ちゃんかい?」
「ふぇ……あっ!! 史郎お兄ちゃぁんっ!!」
考え込んでいた私の耳に大好きな人の声が聞こえて、振り返ると予想通り史郎お兄ちゃんがすぐそばに立っていた。
私を見て驚きながらもどこか嬉しそうにほおを緩めている史郎お兄ちゃんを見たら、もう何もかもどうでも良くなってしまった。
だから後輩ちゃんがしてたみたいに駆け寄って、思いっきり正面から抱き着くのだった。
「おっかえりぃっ!! お迎えにきたんだぞぉ~っ!!」
「おおっとっ!! そっかぁ、わざわざ来てくれたんだね……ありがとう直美ちゃん」
そんな私を受け止めて抱き返してくれた史郎お兄ちゃんのお胸に顔をうずめながら、私もまたとても幸せを感じて笑顔になってしまうのだった。
「えへへ~、だって史郎お兄ちゃんと一緒に帰りたかったんだもぉん……亜紀お姉ちゃんはぁ?」
「ああ、亜紀ならもう少ししたら……うぉっ!?」
「史郎ぉっ!! 私以外の女の子と何して……って直美ぃっ!? あ、あんたどぉしてここにぃっ!?」
「へっへぇ~ん、史郎お兄ちゃんを独り占めなんかさせないんだからぁっ!!」
「ふ、二人ともっ!? 前後からそんな強く抱きしめられたら動けないんだけどぉっ!? そ、そして思いっきり見られてるからぁっ!!」
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