史郎お兄ちゃん⑬
「いらっしゃいませ……って直美ちゃんかぁ」
「えへへ~、また遊びにきちゃったのだぁっ!!」
「あんまり仕事の邪魔しないでね……前なんかおしゃべりしすぎだって怒られちゃったんだからね」
「はぁ~い」
駅前にあるレンタルビデオ屋で働いている史郎お兄ちゃんを揶揄いつつ、私は店内を軽く見て回る。
DVDやCDから本にゲームまで揃っているお店なだけに、それなりに欲しいと思える物はあった。
だけど私の本当の目的は史郎お兄ちゃんだったから、実際に何か買うつもりは全くなかった。
(史郎お兄ちゃんは本当に真面目と言うか……優しすぎるよぉ……)
亜紀お姉ちゃんが公立高校に受かったために当面私たちの生活費は何とかなりそうだった。
しかし隣で経済的に苦しんでいるのを見た史郎お兄ちゃんは、もしも自分が同じ状況になったらと考えるようになったらしい。
そしてそんないざというときに備えて今からお金を貯めておこうと思い、こうしてアルバイトを始めたのだという。
尤もそれはただの方便だと思う、貯蓄している本当の理由は多分私たちが困窮したときのためだろう。
「何か買いたい物でもあった? 社割はないけど少しぐらいなら俺が出しても……」
品物を手にとっては戻すのを繰り返していた私を見て、何か勘違いしたらしい史郎お兄ちゃんが気遣うように声をかけてくる。
「いいよぉ~、直美はちゃぁんとお小遣い貯めてるからへーきなのぉ」
「そっか、直美ちゃんはえらいなぁ……だけど困った時は遠慮なく言ってよ」
そう言って微笑む史郎お兄ちゃんの姿を見ていると、やっぱり私の推測が正しいような気になってくる。
(やっぱり私たちが経済的に困らないように気を使ってくれてるんだろうなぁ……だけど頑張り過ぎだよぉ……)
史郎お兄ちゃんだってまだ学生なのだから遊びたい盛りだろうに、学校から帰ると同時にここへ直行して毎日三時間も働いている。
しかも帰ってからは亜紀お姉ちゃんのお勉強を見たり、私と遊んでくれたりしていて自分の時間なんか全くないように見える。
一応土日こそは休みを取っているようだけど、それだって大抵私たちや亮さんとデートと称してお出かけして終わってしまう。
そんな頑張り屋さんの史郎お兄ちゃんだけど無理してないか心配で、私はこうして毎日のように仕事場に通ってしまうのだ。
(まあ史郎お兄ちゃんの顔見てお話しできるだけで直美は幸せだしぃ……だけど倒れないか心配だよぉ……)
「史郎お兄ちゃんこそ……あんまり無理しないでよ……何かあったら直美何でも相談に乗っちゃうんだからね?」
「ありがとう直美ちゃん、だけど俺は大丈夫だよ……」
「ならいーけどぉ……たまには我儘言ってもいいんだからね……」
「うーんじゃぁ……後十分ぐらいここに残っててもらおうかなぁ……そしたら仕事終わるから一緒に帰れるからね」
私の気遣う言葉に対して、史郎お兄ちゃんはむしろこっちの為になる返事をしてくれるのだった。
「えへへ、仕方ないなぁ……そんなに私と帰りたいのぉ?」
「当たり前だよ、だって直美ちゃんは俺の大切な……」
「史郎ぉ~、迎えに来たよぉ……ってな、直美ぃっ!? どぉしてあんたがここにいるのぉっ!?」
「……ちぇ、もぉお姉ちゃんはいつもいつも良い所でぇ~……こんなところ来てないでお家でお勉強してなよぉ~」
「そう言う直美こそちゃんと勉強しなさいよっ!! 来年の受験失敗しても知らないんだからねっ!!」
「あ、あの……あまりお店で騒がないで……ああ、また怒られるぅ……」
【読者の皆様にお願いがあります】
この作品を読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。
ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。
作者は単純なのでとても喜びます。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をチェックすればできます。
よろしくお願いいたします。




