史郎お兄ちゃん⑪
「……ここも間違えてるね、途中で計算ミスしてるせいだね」
「あぁっ!? もぉ……ごめんね史郎……私全然ダメダメで……これじゃあやっぱり公立に受かるのは難しいかなぁ……」
「いやでも確実に成績は上がってきてるよ、まだ諦めるには早いって……それに万が一の時も約束しただろ? だから焦らず落ち着いてやればいいよ」
「そうだよぉ、亜紀お姉ちゃん平常心平常心っ!!」
史郎お兄ちゃんの部屋でお勉強を教わっている亜紀お姉ちゃんと私。
経済的に不安定な状況で進学できるよう、公立高校を目指して頑張っているのだ。
尤も私はまだまだ受験は先だけれど、頭の出来に自信がないからこうしてお姉ちゃんと一緒に勉強を教わっているのだ。
(まあ別に落ちても平気みたいだけどぉ……二人っきりで勉強なんかさせられないんだからぁっ!!)
流石に亜紀お姉ちゃんの人生が掛かっている勉強会を邪魔は出来ないが、かといって二人きりにして仲が進展されても困る。
そう言う意味もあって、私はどちらかと言えば二人の監視の意味を込めてこの場に座っているのだった。
「だ、だけどぉ……やっぱり史郎に迷惑かけたくないし……公立に落ちたら私……」
「言っただろ、俺は迷惑だなんて思わないって……好きな子を支えれるなら苦労しても嬉しいぐらいだよ……だから万が一の時は遠慮なく私立に通えって……俺も一緒にバイトして学費稼ぐからさ」
笑いながらあっさりと言う史郎お兄ちゃんだけど、本当に頼りになる人だと思う。
私たちの経済的な状況を知った史郎お兄ちゃんは、亜紀お姉ちゃんが公立に受かる様勉強を見てくれるようになった。
さらにもしも駄目だった場合でも自分が協力して学費を稼ぐと宣言していて、そのための計画も立ててくれたのだ。
おまけに私や史郎お兄ちゃんの親にもきちんと話して了解を得てくれて、亜紀お姉ちゃんが余計な心配に囚われず勉強に集中できる環境を整えてくれたのだった。
(本当に格好良かったなぁ史郎お兄ちゃん……直美惚れ直しちゃったもんねぇ……)
多分亜紀お姉ちゃんも同じ気持ちなようで、こうして史郎お兄ちゃんの部屋で勉強をする際には物凄く集中するようになりどんどん成績も上がって行っている。
それでも流石に時期が時期なだけに、受かるかどうか微妙なところのようだった。
「そおそぉっ!! もし亜紀お姉ちゃんが駄目でも直美も私立に行ってアルバイトしちゃうんだからぁっ!! 三人一緒ならぜったいだいじょーぶぃなのぉっ!!」
「うぅ……わ、私の勉強の出来に直美の進路まで関わってきてるぅ……ぷ、プレッシャーだよぉ……」
励ますつもりで告げた私の言葉に、亜紀お姉ちゃんは何故か涙目になってしまいより一層激しく鉛筆を動かし始めてしまう。
おまけに史郎お兄ちゃんまで、少し困ったように私のほうを見つめてくる。
「亜紀はともかく直美ちゃんは今から勉強すれば間違いなく公立に合格できるんだから無理してついてこなくても……」
「いやぁっ!! 直美も史郎お兄ちゃん達と一緒の学校通いたいのぉっ!!」
「だ、だけど直美ちゃんが入っても一年で卒業しちゃうから……将来の進路とか考えたら……」
「一年でも大好きな史郎お兄ちゃんと同じ学校に居たいのぉ……駄目ぇ?」
「だ、駄目なわけないじゃないかっ!! 物凄く嬉しいよっ!! 俺だって直美ちゃんと一緒に居たいんだからさっ!!」
例えどれだけ僅かな時間であっても、史郎お兄ちゃんと一緒に居たい私としては他の学校を受験するなど考えられない。
だからわざとらしく涙目を作り上目遣いで史郎お兄ちゃんを見つめてあげると、途端に慌てて否定してきた。
(うふふ、説得成功なんだからぁ……このまま攻めたらもっと良い言質引き出せないかなぁ……やってみよぉっ!!)
「うぅ……ほ、ほんとぉ?」
「ほ、本当だよっ!! 俺が直美ちゃんに嘘を言うわけないじゃないかっ!!」
「じゃぁ……もっとそばに来てぇ直美を抱きしめてぇ……信じさせてほしいのぉ~」
「あ、ああもちろ……」
「史郎っ!! ほらこの問題集終わったよっ!! 採点してっ!!」
こっちに近づこうとしてきた史郎お兄ちゃんを、亜紀お姉ちゃんが強引に引っ張って自分の所に連れ込んでしまう。
「あぁっ!? あ、亜紀お姉ちゃんっ!? 何史郎お兄ちゃんを独占してんのぉっ!?」
「ど、独占なんかしてないんだからっ!! あんたこそ人が勉強してるのを良い事に史郎に何をさせようとしてたのよぉっ!?」
「べ、別にただ抱きしめてもらおうと思っただけだもんっ!! そっちこそ邪魔しないでよぉっ!!」
「あ、亜紀っ!? それに直美ちゃんっ!? け、喧嘩しないのっ!! あ、後両側から引っ張らないでっ!? 腕が痛いってぇっ!!」
亜紀お姉ちゃんとにらみ合いながら史郎お兄ちゃんの両腕を引っ張り合う私たち。
頭の片隅で勉強の邪魔して悪いような気がしたけれど、やっぱり史郎お兄ちゃんを独占されるのは許せなかった。
何より……こうしてまた前みたいに史郎お兄ちゃんを取り合えるのがちょっとだけ楽しかった。
多分お姉ちゃんも同じ気持ちなのだろう、だから私たちはあえて意地を張り続けるのだった。
「もぉっ!! 史郎はどうしてそう優柔不断なのぉっ!! 直美に甘過ぎなんだからぁっ!!」
「むぅっ!! どぉして史郎お兄ちゃんは亜紀お姉ちゃんに甘々なのぉっ!!」
「い、いやだ、だって……ど、どっちも大好きな子だからその……」
「ああもぉっ!! こぉなったらきょぉというきょぉこそ一緒にお風呂入って直美の魅力でメロメロにしちゃうんだからぁっ!!」
「な、直美あんたなんてことっ!? そ、そんなこと許さないだからぁっ!! 私だって一緒にお風呂入っちゃうんだからねっ!!」
「ちょぉっ!? お、お風呂って……えぇええっ!?」
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