史郎お兄ちゃん⑧
「亜紀、ちょっといいかしら?」
「う、うんいいけど……急にどうしたのお母さん?」
「大事な話があるのよ……直美もこっちに来て座りなさい」
「えっ!? な、直美もなのぉっ!?」
真面目な顔をしたお母さんに呼び止められて、驚きながらも亜紀お姉ちゃんと並んで居間の椅子に腰を下ろす。
今までだらしない面があったお姉ちゃんが叱られているのは見たことがあったが、こうして私まで巻き込まれるのは初めてだった。
(な、何かしちゃったかなぁ? だけど最近は亜紀お姉ちゃんもしっかりして来てるし……ま、まさか史郎お兄ちゃんの家から苦情でも来ちゃったぁっ!?)
ここの所私たちは毎日のように史郎お兄ちゃんを誘惑すべくお部屋に通い詰めている。
ひょっとしてそれが雨宮家の人たちに迷惑に思われてしまったのではないかと不安になるが、母の口から飛び出した言葉はもっと衝撃的な内容だった。
「直美にも亜紀にも関係があることよ……実はね……生活費が苦しくてあなた達の進学費用を用意するのが難しいかもしれないのよ」
「えぇっ!?」
「ふぇぇっ!?」
完全に予想外だったために、私たち姉妹は驚きながら母に向かい身を乗り出してしまう。
「ど、どういうことなのお母さんっ!?」
「……あの人が……あなた達のお父さんが他所の女の所に入り浸って帰ってこないのは知ってるわよね?」
「えぇっ!? そ、そぉだったのぉっ!?」
「な、直美……あんた気付いてなかったの?」
父が浮気をしているなど全く気付いていなかった私は目を丸くしてしまうが、お姉ちゃんはわかっていたようで呆れたように首を振って見せていた。
母の方もこちらはどこか諦めの混じった様子で私に頷きかけている。
どうやら気づいていなかったのは私だけだったようだ。
「ぜ、全然知らなかったぁ……全く帰ってこないから変だなぁとは思ってたけどぉ……い、いつから?」
「さぁ、そこまではわからないけど……直美がまだ小さいころたまぁにお父……あの人が帰ってくると香水の匂いとかしてたからねぇ……」
「そうよねぇ、直美が小さいうちに帰ってこなくなったから気づかなくても仕方ないわね……それでも一応生活費だけは振り込まれていたんだけど最近はそれも……」
「えぇっ!? 何っ!? お父……あいつ直美たちを見捨てたのぉっ!?」
「し、信じられない……最低……」
思わず悪態をついてしまうが、そんなことをしても現状は変わらない。
母は申し訳なさそうに頭を軽く下げながら言葉を続ける。
「だからごめんなさい……私も頑張って働いてるけど家族三人を養うのは今でさえギリギリなのよ……もしこれでお金のかかる私立高校に通われたら……とても学費は……」
「うぅ……そ、そんなぁ……」
「本当にごめんなさい……だけど公立高校の方なら……それでも途中でアルバイトしてもらうことになるかもしれないけれど……それなら……」
「そ、そんなこと今更言われてもぉ……わ、私もう中学三年生なんだよっ!? 偏差値だって……今から勉強したって公立なんか……うぅ……」
深刻そうにつぶやいたお姉ちゃんは、確かに最近家事などには力を入れているが学業の方はそこまで身が入っていなかった。
だから行けるところなど限られていて、それでも史郎お兄ちゃんが付いて来てくれるというからそれでいいと思っていたようだ。
(な、直美は今から勉強すれば何とか……け、けど亜紀お姉ちゃんは……ど、どうしよぉっ!?)
同じ人を好きになって競い合っている相手だが、何だかんだで大好きな姉がこんな形でまともな青春を送れなくなる様は見て居たくなかった。
だから私はどうにかしようと必死に悩むけれど、とてもいい方法など思い浮かばなかった。
それは亜紀お姉ちゃんも、お母さんも同じなようで嫌な沈黙が霧島家の中を包み込むのだった。
「……お、お姉ちゃん」
「……直美ぃ、そんな不安そうな声出さないのぉ……とにかくあなたは今から勉強に励みなさい」
「け、けどぉ……お姉ちゃんは……」
「わからない……わからないけど、頑張るよ……うん……」
「本当にごめんなさい亜紀……せっかく真面目に生きるようになった貴方をこんな目にあわせて……ごめんなさい」
「謝らないでよお母さん……お母さんは何も悪くないんだから……」
「そぉだよっ!! 悪いのはあいつなんだからぁっ!! もぉっ!! 直美絶対許さないんだからねぇっ!!」
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