休日④
「……」
休日だというのに朝から何をする気も起きない。
過ぎていく時間が勿体ないのに、どうしても何かをしようと思えないのだ。
(ああ、仕事が近づいてくる……嫌だ……時間が過ぎていく……嫌だ……)
最近は休日も仕事のことばかり脳裏にちらついて全く休まらない。
ただ布団の中で仕事に行く時間が近づいていくことだけに怯えていた。
「おーじさんっ!!」
「うわぁっ!?」
急に廊下から足音が聞こえたかと思うと、部屋に入ってきた直美が俺の布団を跳ね除けた。
布団の中に籠っていた温もりが飛んで、全身を冷たい風が襲う。
おかげで意識が僅かにだがシャキッとする。
「じゃっじゃーんっ!! これなーんだぁっ!!」
「え……あ、ヘッドセット……買っちゃったの?」
「これがないとゲーム中声が届かないじゃーん、ほらぁ一緒にやろうよぉ」
わざわざ見せびらかしに来たらしい。
早速使いたくてたまらないようで、俺を強引に起こしてテレビの前に連れていく。
「ちょっと待って……ええと、どこに置いたかなぁ……あった、マイクとヘッドホン」
「さっすがぁ準備良い……でも何で持ってたの?」
「何でって……そんな心の底から不思議そうに聞かないでよ……」
「だってぇ、一緒にゲームやる友達いるように見えないんだもん……いるの?」
「うぅ……時々きついこというねぇ……正しいけどさぁ……うぅ……」
正確には昔は居たが、既に疎遠になっている。
「ほらやっぱりぃ……ひょっとして直美とやりたくて言い出せなかったとかぁ?」
「あのねぇ……ゲーム音を正確に聞き取るのに便利だったのと…………」
「のと?」
「…………一時期、その……実況配信やろうとして……」
恥ずかしい記憶を掘り起こされてしまった。
ゲーム好きだったから実況動画を上げて、誰も見てくれなかった痛い思い出があるのだ。
「えぇ~何それおもしろそーっ!! やってみておじさ~んっ!!」
「勘弁してぇ……ほら、一緒にゲームやるんでしょ?」
「いいじゃん、配信してみよぉよぉ」
やる気満々だ、もうこうなったら俺では止められない。
「はぁ……じゃあちょっとだけね……ええと、アカウント何だったっけなぁ……」
久しぶりにパソコンを起動し、動画サイトへ接続する。
同時にゲームを起動してシェア機能で連動させた。
「ゲームは前のFPSでいいよね……動画タイトルは……」
「冴えないおっさんと美少女がこのゲームで天下を取るぅっ!!」
「……まあいいか」
言われるままにタイトルを設定して、早速ライブ配信を始めた。
「これでできてるよ、ほら喋ってみて」
『これでできてるよ、ほら喋ってみて』
「おおぉっ!! 映ってる映ってるぅ……ほらほら私のカーソルが動いてるよっ!?」
『おおぉっ!! 映ってる映ってるぅ……ほらほら私のカーソルが動いてるよっ!?』
音声もしっかり入力できているようで、少し遅れてパソコンに表示されている動画から俺たちの声が聞こえてきた。
「すっごーいっ!! これ今何人ぐらい見てるのぉっ!?」
「……」
無言で0人と表示されている閲覧数を指さした。
俺みたいな無名な配信者が事前告知もなく始めたところでこんなもんだ。
「おじさぁーん、どっかからいっぱい人呼んできてよぉ」
「それが出来たらみんなやってるよ……そうだ、一応は配信だから名前は気を付けようね……」
身バレは恐ろしい、特に俺なんかこんなことしてると会社にバレたら……まあいいか別に。
あれだけ恐怖を感じていた会社が、直美と居るとどうでもよく思えるから不思議だ。
「だいじょーぶ、おじさんのことはおじさんとしか言わないからぁ……」
「まあそれもそうだね……問題は君だよ……ゲームのアカウント名何だったっけ?」
「ナァミだよぉ……おじさんが実名止めろーっていうから」
「……違う名前で呼ぼうか?」
「べぇつにいいよぉ、知られて困る相手いないしぃ……おお、こんにちわーっ!!」
言ってる間に美少女というタイトルに引かれたのか閲覧者が少し増えてきた。
「……とりあえずゲーム始めようか?」
「いえーいっ!! なぉ……ナァミの腕を魅せちゃうんだからねぇっ!!」
今一瞬実名を言いかけた直美、中々スリルがある。
早速ゲームが始まり、素人の直美は結構な地雷プレイをしている。
「ナァミちゃん、前出すぎ……そこ下がって……ああっ!?」
「おじさんうるさいぃいいっ!! いいのこれでいいのっ!!」
『トロール乙』
辛辣なコメントが早速流れてきた。
「ナァミはまだこのゲーム買ったばかりなので、優しく見守ってくださいねぇ」
「あぁもう、また死んだぁっ!! なにこのクソゲーぇっ!!」
「はぁい、落ち着いて落ち着いてぇ……」
とりあえずわちゃわちゃしながらプレイを続ける俺たちだった。
「ああもうっ!! こんなクソゲーやってらんなぃいいいっ!! 私帰るぅっ!!」
「コントローラーを乱暴に扱わないの……うそ、最高閲覧数が三桁行ってる……あんなプレイで……最高二桁だった俺って一体……」




