史郎お兄ちゃん⑤
「ねぇ亜紀お姉ちゃん……史郎お兄ちゃんとはどー言う関係なのぉ?」
「急に何よ直美ぃ……史郎は史郎でしょぉ……」
「直美は真面目に聞いてるのぉ……亜紀お姉ちゃんは史郎お兄ちゃんのこと好き、なの?」
ストレスや緊張、そして興奮が入り混じった複雑な胸の痛みを抑えながら私は亜紀お姉ちゃんの部屋に乗り込んで聞いてみた。
少し前にした後輩とのやり取りで、私は自分が史郎お兄ちゃんに好意を抱いていることに気づいてしまったのだ。
その途端、私は今の妹的な立ち位置では物足りなくなってしまった……私は史郎お兄ちゃんの一番になりたいと思ってしまった。
だからこそ、今の時点で史郎お兄ちゃんと一番仲がいい女の子であろう亜紀お姉ちゃんの気持ちを確かめておきたかった。
(何だかんだで私は亜紀お姉ちゃんのことも好きだし……二人が両思いなら引くしかないけど……だけどもしも亜紀お姉ちゃんにそのつもりがないなら……)
「……何でそんなこと聞くのよぉ?」
「あのねぇ……実は直美ねぇ……史郎お兄ちゃんのこと好……好きみたいなのぉ……」
「えぇっ!? な、何でっ!?」
「何でって言われてもぉ……史郎お兄ちゃん直美といっぱい遊んでくれるし我儘言っても笑って許してくれるし……何より一緒に居てすっごく落ち着くの……うーん、言葉にすると変な感じぃ……とにかく大好きだから一番になりたいのっ!!」
思ったことをまっすぐぶつけると、亜紀お姉ちゃんは困惑した様子で私を見つめたかと思うとそっと視線をそらしてしまう。
「……直美ならもっといい男の子と付き合えると思うけどなぁ……ただ身近にいる異性だからって意識しちゃってるだけじゃないのかなぁ?」
「全然違うよぉっ!! だってクラスの男子とか嵐野さんとか見ても何とも思わないもんっ!!」
「い、いやクラスの子はまだ小学生だし……嵐野君は論が……ほら、史郎と同じタイプだから例外と言うかなんというか……と、とにかく直美にはまだ恋とか彼氏とか早すぎるってばっ!!」
「早いも何も……好きだって気が付いちゃったんだもん仕方ないじゃんっ!! それより亜紀お姉ちゃんこそ質問に答えてよっ!! 史郎お兄ちゃんのことどう思ってるのっ!?」
「うぅ……」
否定的な言葉を呟く亜紀お姉ちゃんに、再度私の気持ちをはっきりとぶつけると本格的に困ったように俯いて黙り込んでしまった。
「ねぇってばぁ……亜紀お姉ちゃんは史郎お兄ちゃんのこと……彼氏にしたいとか思わないの?」
「そ、そんなこと聞かれても……だ、だって史郎は昔から隣に居るし……幼馴染だし……そ、それに一緒に居てもドキドキとかしないから……」
「よくわからないけどじゃあ亜紀お姉ちゃんにとって史郎お兄ちゃんはただの幼馴染ってこと? じゃあ直美が……告白してもいいよね?」
「っ!?」
最終確認のつもりで尋ねると、亜紀お姉ちゃんはビクリと身体を震わせた。
そしてうつむいたまま、沈黙を保ち続けた。
「亜紀お姉ちゃん……何とか言ってよぉ……」
「……す、好きにすればいいじゃん……私なんかに構わないでさぁ……」
しかし私の問いかけに、ついに亜紀お姉ちゃんは力なく首を縦に振って見せるのだった。
「うん、わかったぁ……じゃあ早速ぅ……史郎お兄ちゃぁんっ!! ちょっといいぃっ!?」
ようやく亜紀お姉ちゃんの許可を得れた私は、すぐに窓越しに史郎お兄ちゃんへと話しかけた。
「な、直美っ!! や、やっぱり駄目ぇっ!!」
「ふぇぇっ!?」
その瞬間、弾かれたように亜紀お姉ちゃんが私へと飛び掛かり床へと押し倒してきた。
身体を打ち付けてしまいとても痛かったので文句を言いたいところだったけど、亜紀お姉ちゃんは涙目でこちらを切なそうに見つめていてとてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃなかった。
「あ、亜紀お姉ちゃんっ!? ど、どうしたの急にぃっ!?」
「うぅ……し、史郎は……史郎は私のなのぉっ!!」
「っ!?」
「あ……っ!?」
そして亜紀お姉ちゃんが叫んだのは、私と全く同じ言葉だった。
さらに自分の言葉に驚いた様子を見せるのもだ。
(あ、あはは……直美たちって……本当に血のつながった姉妹なんだなぁ……)
見た目だけではなく内面まで似ている所がある私たちが、同じ人を好きになるのは当たり前のことだったのかもしれない。
だけど史郎お兄ちゃんは一人しかいない……付き合えるのは私か亜紀お姉ちゃんのどちらか一人だけなのだ。
向こうもそれに気づいているようで、私の上から退いた亜紀お姉ちゃんは気まずそうに顔を反らした。
私も何を言っていいか分からなくて、二人してその場に無言で佇むのだった。
「ふぁぁ……お前ら何騒いでんだぁ?」
「し、史郎ぉっ!? な、何でもないっ!? というか今の聞こえてたっ!?」
「俺がどうとか言ってたのは聞こえてたけど……今朝買ってきた新作のゲームを徹夜でクリアしたら眠くてなぁ……ちょっと昼寝してたわ……何の話だったの?」
「な、何でもないんだからぁっ!? そ、それより史郎お兄ちゃんっ!! 後輩の女の子が嵐野さんを紹介してほしいって言ってるんだけど連絡してくれるぅっ!?」
「えぇっ!? あ、あいつを紹介してほしい女の子って……そいつは正気かぁっ!?」
「えぇっ!? 嵐野君を紹介してほしい女の子って……その子何考えてるのぉっ!?」
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