平日の夜⑨
「……何で俺が……クソ」
ついつい独り言をつぶやいてしまう。
上司の仕事を全て押し付けられたのだ。
(何がやったことないからわからないだ……お前がずっと担当だったんだろうが……)
辞めた前任者も恐らくは同じように押し付けられていたのだろう。
しかも精神を病んで引継ぎもなく辞めていったのだから大変だ。
四苦八苦しながらなんとか話を進めているが、俺もそろそろ限界だ。
(もうやってられない……俺も辞めてしまおうか……)
電車を降りてふらふらと帰路を歩くが限界が近い。
何もやる気がしない、したいことも思い浮かばない。
食欲もわかない、ただ疲労だけが溜まっている。
(帰って……寝よう……)
ただベッドに横になるためだけに俺は歩き続ける。
「おーじさーんっ!!」
「うぉっ!? 直美ちゃん、どうしたんだい?」
「そろそろ帰ってくるかなぁ~って思ってね……買い物いこぉおじさぁ~ん」
途中で直美に見つかり飛びつかれてしまった。
「な、何を買うつもりなのっ!? おじさんそんなに持ち合わせないよっ!?」
「何って……牛肉ぅ、玉ねぎぃ、人参にジャガイモぉ、あとカレー粉……さて何が目的でしょぉ?」
「……カレー作るんだね?」
「すっごーいっ!! よくわかったねおじさんっ!! いい子いい子~」
当たり前のことを指摘しただけで頭を撫でられてしまった。
完全に子ども扱いされている。
しかし不思議と嫌ではなく、むしろ嬉しいと思ってしまうあたり我ながら駄目な大人だ。
「じゃぁ早速行っこーっ!!」
腕を取られて引っ張られる。
俺はこれに逆らう術を持たない。
そのまま近くの業務用スーパーへと連れ込まれた。
「え~とぉ、これとこれと……これもいいなぁ……」
「直美ちゃん……お菓子ばっかり……お野菜はどうしたの?」
「だってぇ、おいしそーなんだもん……あ、これもいいなぁ」
野菜のコーナーを素通りしてお菓子とかばっかり籠に詰め込んでいく直美。
もう当初の目的はどこかに行ってしまっている。
「あぁ、おじさん総菜が安いねぇ……お米炊けてたっけ?」
「確かまだ残りがあったような……カレー作るんじゃないの?」
「もーめんどーい、また今度作ってあ・げ・る」
(俺の為に作ってくれるつもりだったのか……)
本当に直美の心遣いには癒されてばかりだ。
そして今も……多分俺の身体を気遣って食事を買うつもりなのだろう。
そんな直美だからこそ、俺はいくら我儘を言われても逆らえないのだった。
「一応食材も買って冷蔵庫入れておくから……」
「お肉沢山買ってぇ~、あとそうだお酒も買っておいてぇ~」
「お、お金がぁ……うぅ……」
(お、俺のこと気遣ってくれてるんだよね……多分きっと恐らく……)




