霧島と史郎㉕
「直美ぃ、どーして史郎のお部屋に居たのかなぁ? ママとぉっても知りたいなぁ?」
「えへへ、よなかにおトイレさんいったらおへやまちがえちゃったみたいなのぉ……だけど直美きづかないでそのままおねんねしちゃったのぉ」
「あはは……目が覚めたら身体の上に直美ちゃんが乗っててびっくりしたよ……」
朝食を並べながら直美を問い詰めようとするが、当の本人は気にした様子もなく史郎の膝の上でくつろいでいる。
ついに引っ越しを済ませた私たちは三人で暮らし始めたが、どうもこの状況を一番喜んでいるのは直美のようだ。
ずっと暇さえあれば史郎の後をついて回って、物凄くいい笑顔を浮かべている。
(まあそれ自体は良い事だし、引っ越してよかったとも思うけどさぁ……流石に引っ付き過ぎじゃないかなぁ?)
史郎に懐いてくれているのは嬉しい限りだが、幾ら何でもプライベートな時間と空間にまでお邪魔するのはいただけない。
一緒に暮らしてくれてこそいるが、厳密には私たちは家族ではなく同居者なのだから。
ちゃんとお互いの生活を気遣って生きていかなければまたしても史郎に迷惑をかけてしまうことになる。
「ごめんね史郎……直美、あんまり迷惑ばっかりかけてたら嫌われちゃうぞ?」
「ふぇぇっ!? ほ、ほんとぉ史郎おじちゃんっ!?」
「い、いやそんなことないぞっ!! 俺は直美ちゃんが大好きだぞぉっ!!」
軽く脅しつけようとするが、涙目になって縋りつく直美を見た史郎が慌てて訂正してしまう。
(史郎はさぁ、直美に甘すぎだよぉ……どう見ても嘘泣きでしょそれぇ……)
「わーいっ!! 直美も史郎おじちゃんだいすきぃっ!!」
私の思った通り、史郎の言葉を聞いた途端に直美は涙を引っ込めて笑顔になりまた史郎の胸に顔をうずめてしまう。
「し、史郎ぉ……ちょっと甘やかしすぎじゃないい?」
「そ、そんなことは……ないぞ……多分……きっと……」
「そぉだよぉっ!! これぐらいぜんぜんふつぅだよぉっ!!」
「調子に乗らないの直美……ほら、こっちに座ってご飯食べちゃいなさい」
「あぁんっ!? ママのいじわるぅっ!?」
いつまでも史郎にくっついて離れない直美を無理やり引き離し、自分の席へと座らせる。
そして改めて食事を皆の前に運ぶと、三人顔を合わせて朝食を食べ始める。
「いただきます……うん、美味いぞ亜紀……まさかお前がこんな料理を作れるようになるなんてなぁ……」
「む、昔とは違うのっ!! 私だってお母さんしてるんだからご飯ぐらい作れますぅっ!!」
「むぐむぐ……うん、直美もママのりょうりだいすきだよっ!! おいしいよねぇ史郎おじちゃんっ!!」
「ああ、確かになぁ……やればできるのに何で学生時代はあんなんだったんだか……」
「……うぅ……怠けててすみませぇん」
学生時代という単語に私は思うところがある……多分史郎も同じなはずだ。
だけど今史郎が呆れたようにつぶやいた声に、嫌味な感じは全くしなかった。
きっともう史郎の中では当時のことにケリがついているのだろう……私と違って。
(はぁ……史郎と直美が傍にいて笑ってくれてて……凄い幸せなのに……もう少し先の関係を望んじゃう私って……恥知らずだなぁ……)
つくづく高校時代の自分の愚かさが憎らしく感じてしまう。
尤もソレのお陰で世界一愛おしい直美が産まれてたのだから後悔するのも変な話だ。
「史郎おじちゃぁん、ママをいじめちゃだめなのぉ~」
「虐めてるわけじゃないんだけどなぁ……ご馳走様」
「ハイお粗末様……ああ、食器は私が運ぶから史郎は支度しちゃって……直美も学校行く準備しなさいよ」
「はぁいっ!! ごちそうさまぁっ!! 史郎おじちゃんおきがえてつだってぇっ!!」
「一人でやるのっ!! 史郎も手を貸そうとしないのっ!! ほら行った行ったっ!!」
無理やり居間から追い出して、私は食事の後片付けを始める。
史郎と直美はちょうど家を出る時間が一緒で、私は少しだけ遅いから自然とこういう役割分担になったのだ。
(毎朝好きな人におはようって言えて……手料理を食べてもらえて行ってらっしゃいって送り出せて……十分すぎるほど幸せだよね私……これ以上を望んだら罰が当たるよね……)
自分に言い聞かせながら家事を済ませると、私は史郎たちを見送るために玄関へと向かうのだった。
「……………………お、遅い」
「はぁはぁ……あ、亜紀……じゃ、じゃあ行ってくるぞ……」
「えへへ~、いってくるねぇママぁ……かえったらつづきしようね史郎おじちゃぁん」
「うぅ……な、直美ちゃん勘弁してよぉ……」
「な、何してたのよあんたたちぃ……ま、まあいいや気を付けて……行ってらっしゃい」
「「行って来ますっ!!」」
笑顔で送り出した私に、二人もまた笑顔で手を振り返してくれるのだった。
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