霧島と史郎⑱
「あぁ~っ!! それずるいぃ~っ!!」
「だからこーいうゲームなの……よし、ぎりぎり一位ぃ~」
「ぶぅっ!! まあ直美にばんだもんねぇっ!!」
「うーん、負けちゃったなぁ……」
史郎の部屋で久しぶりにゲームに興じるが、相変わらず私は全然勝てなかった。
それも仕方ない、やはり私はゲームがそこまで好きではないので身が入らないのだ。
尤もすぐ近くで楽しそうに遊んでいる直美と……史郎を見ていられるのは物凄く幸せだからこの時間を苦痛だとは思わなかった。
(だけど史郎……昔に比べてちょっと動きが鈍いような……手加減してるのかなぁ?)
私の知っている史郎はもっとゲームが上手かった印象があるが、今は小学生の直美と良い勝負を繰り広げている。
ひょっとして子供の直美が喜ぶから付き合っているだけで、本当は既にゲームから卒業していて腕が鈍っていたのかもしれない。
何せ史郎は社会人として私とは比べ物にならないぐらい立派に成長している……大人になっているのだから。
(ちゃんと学校通って真面目に勉強して成長したんだよね……怠けて楽な方に逃げ回ってた私とは偉い違いだよ……)
すぐ近くにいる実の娘がどんな状況に陥っているのかも考えが回らず、今必要なお金だけ稼いで時々余った額を貯金して満足していた私。
それに対して史郎は最近戻ってきたばかりなのに、もう直美の状況から私の甘い考えまで見通してしまっている。
どうしてこうできないのか、自分が情けなくて嫌になるが落ち込んでばかりいても仕方がない。
全然大人になり切れていない私だけど直美の母親なのは変えようのない事実なのだ。
どうしたってこの子には親である私の影が付いて回ることになる……そのせいで幸せに成れないなんて事態には絶対にさせたくない。
「……史郎おじちゃん、ちがうゲームやろぉ?」
「いいけど、じゃあ何にする?」
「それはビリだったママにえらんでもらおうよっ!! ほら、ママがかてるやつえらんでいいよっ!!」
「……直美」
私の手を引いてゲームを選ばせようとする直美。
多分私が落ち込んでいるのを見て気にしているのだろう。
(本当に直美は優しい良い子だよ……うん、この子だけは……どんなことしても立派に育て上げなくちゃっ!!)
友人から家族にまで見捨てられた私に、未だに笑顔を向けてくれるのはもうこの子だけだ。
そんな本当に愛おしい最愛の娘を不安にさせまいと、私はしっかりと笑顔を作ってみせてやる。
「ありがとう直美、だけどママちょっと疲れちゃったから休憩するよ……二人のやってるところ見てるからね」
「えーっ!! ずるいよママぁ……史郎おじちゃんがつよいからってにげちゃだめなのぉ~っ!! いっしょにやるのぉ~っ!!」
「……じゃあ逆に俺が抜けるから二人でやったらどうだ?」
そう言って史郎は子供向けのミニゲーム風のゲームを起動して、私にコントローラーを渡してきた。
「い、良いよ史郎……私二人が遊んでるのを見てるだけで楽しいから……」
「いやちょっと休憩したかったし……直美ちゃんのおやつも用意したいからさ……ちょっとの間二人で……親子で遊んどけって」
「えぇ~、ママとふたりっきりでしょうぶしたら直美のあっしょうだからなぁ~どーしよぉかなぁー?」
挑発するようなことを言って私をチラチラ見る直美、だけどその眼差しはどこか期待しているように見えた。
「……じゃぁ、ちょっとだけ……勝負しよっか直美?」
「もぉ、しかたないからむねをかしてあげちゃうんだからぁっ!!」
「……ふふ」
嬉しそうにゲームを開始する直美の姿に私は軽く微笑むと親子の団欒を楽しむことにした。
何だかんだで最近は余り直美と遊ぶ時間をとれていなかった。
だからだろうか、直美は本当に楽しそうな声を上げて何度も私のほうを見ては得意げな笑顔を浮かべてくるのだった。
(可愛いなぁ……私にずっとゲームの腕を自慢したかったんだろうなぁ……考えてみれば私、こういう玩具全然買ってあげてないや……)
直美は余りおねだりをしない子で、誕生日とかクリスマスはケーキこそ要求するけれど私と一緒にトランプとかして遊ぶだけで満足そうにしていた。
だけどこうしてゲームを楽しそうにプレイしているところを見ると、私を気遣って色々と我慢しているのかもしれない。
(ごめんね直美、全然駄目なお母さんで……だけど分かったから……もっともっと頑張るから……)
「ふっふっふっ!! これでどぉだぁっ!!」
「うわぁっ!? また負けちゃったよ……直美は上手だねぇ、天才かな?」
「えへへっ!! だって史郎おじちゃんとなんかいもやってるもんっ!!」
「ふふ、凄い凄い……ママちょっとトイレ行ってくるから少し一人で遊んでてね」
「えぇ~、もうママったらすぐにげちゃうんだからぁ……史郎おじちゃんももどってこないしぃ……ぶぅ」
頬を膨らせて不満そうにする直美、本当はもう少し付き合ってあげたいが時間が無い。
「ごめんねぇ、今度もっとゆっくり遊んであげるから……そうだ、お家用に同じゲーム買っちゃおうか?」
「えっ!? いいのママっ!?」
「もちろんだよ、それぐらいママだって買えるからね……だから今だけちょっと我慢してね」
「はぁいっ!!」
嬉しそうに笑う直美、やはり私を気遣って欲しい物を言えないでいたのだろう。
(やっぱり……このままじゃ駄目だ……私一人じゃまた直美に負担をかけちゃう……)
はっきりと理解した私はゲームの一人プレイに興じ始めた直美を置いて部屋を後にすると、史郎が居るであろう居間へと向かった。
「……どうした?」
「話があるの……ちょっとだけいい?」
果たして居間にある食卓で一息ついていた史郎を見つけた私は、向かい側の席に座るとまっすぐその顔を見つめた。
そんな私を史郎は複雑そうな顔で……だけど目をそらすことなく見返してくれるのだった。
「……何だ?」
「直美のこと……私あの子だけは幸せにしてあげたいの……どんなことをしても……だから史郎お願い、協力して……あの子の為に……」
「…………」
「私の事が憎いなら罵倒してくれてもいい……殴りたかったら殴っても構わないし……見下してもいい……だけどあの子の為に……直接何かしなくても良いから……私がどうしたらいいかだけ……間違っていたり見落としてることがあったりしたら……するべきこととかわかってたら……何でもいいから教えてください……」
「…………」
頭を下げる私を史郎は無言で、だけどやっぱり目をそらすことなく見つめ続けた。
「お願い……自分勝手で恥知らずなこと言ってるのは分かってる……だけど私には今はもう……ううん昔から……史郎しか頼れる人いないの……だから……手を貸して……あの子が成長するまででいいから……お願い……します……」
「………はぁ……どうしてお前は……いつもいつもそう勝手な事ばっかり……」
「うん……最低だよね……私どうしようもない屑だよね……分かってる……だけど直美だけは……そんな私なんかの子供に産まれちゃったけどあの子は違うの……だから……」
「わかってるよ……そんなこと……お前が馬鹿なことも考えが足りないことも……直美ちゃんに何の責任もないことも……全部わかってんだよ…………でなきゃ……戻ってくるかよこんなところ……」
「え……? し、史郎?」
「……はぁ……本当にお前は……厄介な幼馴染だよ、全く」
呆れたように呟きながらも、史郎は私を見つめたまま苦笑いを浮かべてきた。
だけどどうしてか……私はその顔に昔よく見ていた優しい笑顔が重なって見えるのだった。
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