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霧島と史郎⑰

「ままぁ……だいじょうぶ?」

「大丈夫だからね、心配しないで……ほら史郎のところ遊び行っておいで」

「きょうはいいよぉ……ママといっしょにいるぅ……」

「もう大丈夫だって言ってるのに……直美は優しいなぁ……おいで、抱っこしてあげる」


 休日だというのに、遊びに行くことも無く私の傍から離れない直美をそっと抱き上げる。

 ここの所私が落ち込みっぱなしだから、気になっているのだろう。


(こんな小さいのに気遣ってくれて……私が同い年の頃とは全然違うなぁ……直美ぃ……)


 本当に私の子供とは思えないほど良い子に育ってくれた。

 そんな子が私の愚かな所業のせいで、余計な苦しみを背負わなければいけないなんてあんまりだと思う。


(史郎に言われるまで気づかなかったけど、確かに直美は他所の子と……ううん、それどころか史郎たちと私以外の人とろくに会話できてないみたい……)


 恐らく雨宮家が戻ってくるまでは私以外の人とろくに会話してなかったと思う。

 そんな状況になってしまったのはのは、まぎれもなく私の責任だった。

 何せ直美には家族すら……祖父はともかく、父親や祖母すらいないのだ。


 だからこそ直美は私と遊ぶことを何よりの楽しみにしてたし、新しく遊べる相手である史郎にも物凄く懐いているのだろう。


(やっぱり私どうしようもない馬鹿だ……真面目に働いて直美を養ってるからこれで良いって思い込んで他の事はまるで考えないで……史郎に褒めてもらいたいって事ばっかり考えて……母親失格だよ……)


 道理で史郎が冷たく当たるわけだ、そして私がちゃんと母親しているか気になって様子を見に来てたのも納得だ。


「ママぁ……ぎゅぅ~っ」

「直美ぃ……」


 思い詰めている私を慰めようとしているのか、或いは意識を引こうと思ったのか直美が力いっぱい抱きしめてくる。

 まだまだか弱い子供の、だけどはっきりと成長を感じる力強さに私は涙ぐみそうになる。

 こんな駄目なママなのに直美はこうも慕ってくれている、それが本当に嬉しくて……悲しかった。


(ごめんねぇ直美ぃ……私なんかの子供に産まれちゃったから……)


 私も直美の想いに答えたくてギュっと抱きしめるけれど、後から後から情けなさが込み上げてきて涙が溢れてきてしまう。


「ママぁ……よしよし、いいこいいこぉ~」

「ありがとう直美……ママちょっと元気出てきたよ……」

「ほんとぉ?」


 それでも直美が一生懸命私を癒そうと頭を撫でたりしてくれているのを見ると、このままではいけないという気持ちになってくる。

 涙を拭い去り、何とか直美に笑顔を向けてベッドから起き上がる。


(しっかりしろ私……いつまでも泣いてちゃ仕方ないでしょ……この子には私しかいないんだから……)


「本当だよ、ほらママ起きたよぉ……だから今度こそ直美は遊びに行っておいでぇ」

「……じゃあ、ママもいっしょに……行こ?」

「え?」


 そんな私をやはり不安そうに見つめたまま、直美は手を引いてくる。


「史郎おじちゃんのゲームね、さんにんとかよにんでできるのもあるの……だからいっしょにあそぼうよぉ」

「うぅ……で、でも私は……ママは家でやることあるから……史郎も、急に私が行ったら…………嫌がるから……」

「でもでもぉ、わたしがいついっても史郎おじちゃんえがおでむかえてくれるよぉ……それにしろうおじちゃんもママのことしんぱいしてたよ……」

「……そうなの?」


 私の疑問に、直美ははっきりと頷いて見せてた。


「うん、わたしがあそびにいくといっつもママのこときかれるもんっ!! だからきっとママがげんきなかおみせたら史郎おじちゃんもよろこんじゃうよっ!!」

「…………そう、かなぁ」


 正直信じがたい言葉だったが、それでも直美の目は嘘を言っているようには見えなかった。

 だから少しだけ悩んでみると、その間に直美は窓を開けて史郎の部屋に向かって大声を出していた。


「史郎おじちゃぁんっ!! ママもつれてそっちあそびいってい~いっ!?」

「な、直美ぃっ!?」

「やぁん、ママのエッチぃ~」

「ど、どこで覚えるのそんな言葉……じゃ、じゃなくて……な、直美ったらぁっ!?」


 慌てて口を押えようとした私だが、直美はじゃれてきたと勘違いしたのか笑顔でとんでもないことを口にして室内で鬼ごっこを始めてしまう。


「……楽しそうだな」


 そのうちに直美の声を聞きつけた史郎が顔を出してきて、追いかけっこしている私たちを呆れた風に見つめてきた。


「あっ!? ご、ごめん史郎……な、何でも無いから……」

「えぇ~、なんでもなくないでしょぉ~……史郎おじちゃん、ママげんきないからそっちに……んぅっ!?」

「な、直美ったらぁっ!! 何でも無いからねっ!! ご、ごめん史郎……じゃ、じゃあ……」

「はぁ……少しだけだぞ」

「えっ?」


 必死に何でもない風を装う私に向かって、思いっきりため息をして見せながらも史郎は……家に入ることを許可してくれた。


「……いいの、史郎?」

「夕方までならな……両親が帰ってきたら面倒だからな……」

「……ぷはぁっ!! じゃあはやくいかないとじかんがもったないよっ!! いこぉままっ!!」

「あ……わ、わかったから焦らないの……じゅ、準備とかもしなきゃだし……じゃ、じゃあ……お邪魔……するね?」

「……好きにしろ」


 そっけなく言う史郎だけど、その言葉に拒絶の意志は見られなかった。

 だから私は直美に手を引かれるまま、史郎の家に向かうことにしたのだった。


(こんなことしてる場合じゃないかもだけどせっかく史郎と直美が呼んでくれてるんだし……それにこの際だし……直美のこととか色々と相談しておきたい……もう私の事はどうでもいいけど直美にだけは……笑顔でいてほしいから……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 少し、良い方に進むか… 前回ので、さすがに史郎もちょっと追い詰めすぎたと思ったかな?
[良い点] 本編前半では直美は史郎を癒していたけど、こちらのルートでは亜紀を癒してくれている! 天使なんだなぁ…… 史郎と亜紀、二人の関係に進展がありそうですね。
[良い点] この行為を単なる無邪気と言い切るには直美が亜紀や史郎の機微を読み過ぎていて、逆に末恐ろしさすら感じますね 根底にあるのは優しさでしょうか 直美は一人でご飯を食べるより、誰かと一緒に食べる…
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