霧島と史郎⑭
「ああんっ!! 史郎おじちゃんずるいよぉっ!!」
「ずるいってこういうゲームなんだけどなぁ……」
「もぉ、もっと直美にてかげんしてよぉっ!! おとなでしょぉっ!!」
「全く直美ちゃんは我儘だなぁ……じゃあこっちのゲームに……」
「…………はぁ」
窓の向こうから楽しそうな直美と史郎の声が聞こえるたびに、私はため息をつきたくなってしまう。
ここの所休日はずっとこうだ、直美は史郎の部屋に遊びに行って一緒に仲良く遊んでいる。
それ自体は微笑ましいし直美が本当に楽しそうなのも嬉しいのだが、それでも思うところはある。
何せ史郎は、私に対してはずっと露骨に見下すような視線しか向けてくれないのだから。
(好きな人にあんな目で見られ続けるのってこんなに苦しかったんだ……ひょっとして史郎もこんな想いを味わったのかなぁ……)
こうして窓を開けて遊んでいるのも、かつて私がしたことの意趣返しなのではと思いたくなってしまう。
何せ私は雨宮家に出入り禁止なのだ……どれだけ二人が楽しそうに遊んでいても昔のように参加することは許されない。
(一応話しかければ史郎も返事はしてくれるけどさぁ……ううん、相手してくれるだけマシでしょ……おじさんとおばさんみたいに無視されてもおかしくないんだから……)
一緒に戻ってきた史郎の両親も直美には普通に接するが、私に対してだけははっきりと汚物を見るような目で睨みつけるだけで未だに一言も会話を交わしてくれない。
あれだけ迷惑をかければ当然の話だが、それでも辛く感じてしまうのは事実だ。
おかげでせっかく史郎が戻ってきてくれたにもかかわらず、私は心休まらない日々を送っていた。
(わかってる……全部自業自得だし、むしろ憎まれてないとおかしいぐらい迷惑もかけちゃったんだ……これぐらい我慢しないと……)
「ふっふぅんっ!! これでもくらえぇっ!!」
「うおっ!? いつの間にそれをっ!?」
「かくしもっておいたのだぁっ!! これでなおみのかちぃっ!! やったぁっ!!」
本当に嬉しそうな直美の笑い声が聞こえてくる……それだけがいまの私の支えだった。
史郎は本当の父親のように慕ってくる直美をとても可愛がっていて、こうして時間がある時は代わりに面倒まで見てくれている。
おかげで私が自由に動ける時間が増えて生活は少しだけ楽になったし、貯金も地味に増えつつある。
だから本当は今の現状を喜ばないといけないのだろう。
そう頭では理解しているけれど、どうしても私は心労が溜まってしまいため息が漏れるのを止められなかった。
「くぅぅっ!? な、直美ちゃんもう一戦しようっ!! なぁもう一回っ!!」
「おじちゃんくやしそぉ~っ!! また直美がかっちゃうけどそれでもよければやってあげるよぉ~」
「もう負けるもんかっ!! 本気で行くからなぁっ!! 直美ちゃんこそ負けて泣くんじゃないぞっ!!」
「直美なかないもんっ!! しょうぶしょうぶぅっ!!」
大人げなくムキになる史郎に同じくムキになって張り合う直美。
その姿は昔の私とは似ても似つかない。
(私みたいに嫌々付き合うんじゃなくて同じ趣味を楽しみ合って……あんな風に出来たら何か変わってたのかなぁ……はぁ……)
こうして窓越しに史郎がゲームをしている姿を見ていると、まるで昔に戻ったように錯覚してしまう。
だからこそなおの事、あの時のように接することができないことが一層虚しく感じてしまうのだった。
(あの頃みたいに混ぜてって乱入できたらなぁ……史郎の傍に行けたらいいのに……はぁ……)
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