霧島と史郎⑬
「史郎おじちゃん、これみてっ!! らんどせるぅっ!!」
「おお、可愛いな直美ちゃん……とっても似合ってるよ」
「えへへ~、ママがかってくれたの~」
「そっかぁ……それは良かったねぇ」
「うんっ!! あ、あとねあとね……ちょっとまっててねっ!!」
史郎は居間の椅子に座りながら、ぱたぱたと小さい脚を懸命に動かして自分の部屋に向かっていった直美を優しく見守り続けた。
「……ちゃんと育ててるんだな」
「う、うん……当たり前だよ……私の大事な娘だもん」
「どうだか……信じられねぇよ……全くな……」
そうして直美の姿が見えなくなったことを確認して、改めて私と向き合う史郎の態度は厳しいものだった。
「し、史郎が信じられないのも無理ないけど……本当に私はあの子を大切に想ってるから」
「だといいけど……まあ今のところは大丈夫そうだが、お前はいつ堕落しても不思議じゃないからな……あの日も直美を置いて男漁りしてたみたいだし……」
そう言って心底見下したように冷たい視線を投げかけてくる史郎。
恐らくあの日とは、私の母が暴れた時のことだろう。
「ち、違っ!?」
「史郎おじちゃぁんっ!! これみ……?」
弁明しようとした私だが、その前に直美が戻ってきてしまい私たちの様子に戸惑ったような声を出した。
まさかここで声を荒げて余計な心配をかけるわけにはいかない。
史郎もそう思っているようで、直美に向かい一転して微笑みかけると優しく抱き上げ膝の上に座らせた。
「どれどれ、何を持ってきたのかなぁ?」
「う、うん……これね直美がかいたえなのっ!!」
「へぇ……これは俺かなぁ?」
「そーだよっ!! 史郎おじちゃんにママなのぉ~」
学校で大好きな人という題のもとに直美が書いたのは、私たち二人が一緒に並んでいる姿だった。
それを見ても史郎は直美の前では顔色一つ変えることなく、嬉しそうに頷いて見せた。
多分最初に会った時の態度に直美が物凄く不安そうにしていたから、それを気にしているのだろう。
「なるほどねぇ……うん、良く描けてるよ上手上手」
「そーでしょぉっ!! 直美がんばったもんっ!!」
「よしよし、直美ちゃんは良い子良い子」
「えへへ~、もっとナデナデしてぇ~」
史郎のお膝の上で優しく頭を撫でてもらい嬉しそうにしている直美。
それ自体は微笑ましいし、私の娘だというのに優しく接してくれていることはありがたい限りだ。
だけどやはり、私に対するきつい態度のことを思うと辛くて仕方がない。
(自業自得なのはわかってるけど……辛いよ史郎……何より誤解されてるのが凄く辛い……)
まだ私は史郎の中では男遊びする軽薄な女のままなのだろう。
軽蔑されるのも見下されるのも、憎まれることすら当然だし受け入れなければいけないと思っている。
だけどその認識だけは耐えられない……今更自分勝手な話だが愛する人にそんな風に見られるのは本当に辛いのだ。
(次いつ会えるかわからないんだ……せめてその誤解だけでも……ううん、今は変わったってことだけはわかってほしい……)
それでもせっかく楽しんでいる直美の邪魔が出来なくて、私は悶々としながら二人が戯れるのを見守った。
「ねぇ史郎おじちゃぁん……いつになったらおとなりにかえってくるのぉ?」
「んー? 多分近いうちに……今月中には戻ってくると思うよ」
「えっ!? ほ、本当っ!?」
しかし直美の無邪気な質問に、史郎は予想もしない返事をしたのを聞いて私は反射的に割って入ってしまう。
それを聞いた史郎は直美を優しく撫でる……ふりをして目を抑えると私を睨みつけながら口を動かした。
「ああ……こっちから通ったほうが近い職場に就職したからな……するしかなかったからな……」
「そ、それって……っ!?」
意味深な言葉に尋ね返そうとした私へ、史郎は左手の袖をそっとまくって見せた。
そこには、手首の上あたりから肘の手前ぐらいまではっきりと傷跡が残っていた。
「色々とリハビリに手間取ってな……そこに就活も重なったからなぁ……自業自得だけどな」
「し……史郎ぉ……」
そして初めて史郎は私に向かって笑顔を……とても痛々しい乾いた笑みを見せつけるのだった。
「まあそう言うわけだ……だからこれから直美ちゃんといっぱいお遊びできるからねぇ」
「わーいっ!! やったぁっ!! ママ、史郎おじちゃんおとなりにもどってくるってっ!!」
「……そっかぁ……余り迷惑をかけないようにしないとね…………」
「だいじょーぶぃだよっ!! 直美いいこだもんっ!!」
「そうだねぇ、直美ちゃんは良い子だねぇ……」
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