霧島と史郎⑧
「お、おばさん……ありがとうございます……」
「…………何度も言うけど用事がないときは絶対にこの部屋から出るんじゃないよ」
「は、はい……わかりました……」
「全くあの子は……はぁ……」
史郎の母親は物置部屋に私たちを案内すると、目を合わすことも無くため息だけついて去って行ってしまった。
その態度はかつて史郎と付き合いがあった時に見ていた姿からはまるでかけ離れている。
しかしそれも当然だ、私もその母親もすぐ隣の家であれだけ痴態を繰り広げていたのだから普通なら追い出されているところだ。
だから最悪は直美だけ保護してもらって私は一人で何とかしようと思っていただけに、こんな形であれ一時的に住まわせてもらえたのだから感謝しかなかった。
(本当にありがとう史郎……いつか絶対お礼するから……後今までのお詫びもしなきゃ……)
帰ってきて私を見るなり物凄く嫌そうな顔をした自分の両親を説得してくれた史郎にはもう頭が上がらない。
この恩はいつか必ず返さなければいけないだろう……それでも今は先に考えることがある。
「ままぁ……なおみもうあそこかえらなくていいのぉ?」
「そうだよ、だからお気に入りのお洋服や玩具とか取ってこれないけど……後でママが頑張って新しいの買ってあげるからちょっと我慢してね」
「なおみへーきだもんっ!! だってやさしいままがいるもんっ!!」
「直美……よしよし、いい子いい子……」
笑顔で私の脚に抱き着く直美、本当に嬉しそうな姿に愛おしさが込み上げて反射的に抱きかかえていた。
「えへへ……それになおみね……ほんとぉはおばあちゃんのこととってもこわかったの……だからかえりたくなかったの……」
「そっかぁ……今まで怖い思いさせてごめんね直美……これからはもう大丈夫だよ、ママが頑張って守ってあげるからね」
「うんっ!! ままだいすきっ!!」
無邪気に私への愛情を露わにする直美は本当に可愛らしい。
こんな子が酷い目にあっていたというのに自分可愛さで今まで半ば放置していた自分が情けない。
(絶対にこの子を守り抜くんだ……そのためにも何とかして私との親子関係を証明できる何かを用意しないと……)
今は何よりこの子のことを考えなければいけない、私の事も史郎へのお礼も後回しだ。
私の母親の奇行は周知されているから、後は親子関係さえ証明できればこちらの発言を元に公的機関が動いてくれると思う。
少なくとも私たちが安全に暮らせる場所ぐらいは提供してもらえるはずだ。
(いつまでも史郎に……雨宮家に迷惑かけるわけにはいかないもんね……頑張らないとっ!!)
「ままぁ~、なおみおひまだからおあそびしたい~」
そんな私を直美は遊ぼうと話しかけてくる。
どうやら私の母親から離れたことで精神的な余裕が戻ってきているようだ。
実家ではひたすら叱られないよう小さくなっていたことを思えば、喜ばしい変化だった。
「う~ん、お遊びねぇ……直美はどんなお遊びがしたいの?」
「なんでもいーよぉっ!! ままとあそびたいのぉっ!!」
「……もう、直美ったらぁ」
笑顔で嬉しいことばかり言ってくれる我が娘の愛おしさに、どうしても逆らうことができなかった。
本当は今後のことを考えなければいけないのに、私はついつい直美に構って遊んでしまうのだった。
「じゃぁ……くすぐりっこだぁっ!!」
「やぁんっ!! ままぁだめぇっ!? うぷぷ……そこだめなのぉ~」
「ええい、じゃあこっちはどーだぁっ!! うりうりぃ~」
「史郎……本当に大丈夫なのか?」
『大丈夫、すまん親父お袋迷惑かける』
「私たちのことは気にしなくていいから自分のことを考えなさい……今更あんな女を庇うなんてお人好しにもほどがあるわよ……」
『あんな小さいのに直美ちゃんが可哀そうだから放っておけなかったんだよ』
「……じゃあやっぱり亜紀ちゃ……あの女だけでも追い出すかい?」
「………………い……や…………い……い…………よ……」
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