霧島と史郎⑥
「くぅ……まぁ……すぅ……」
「……ふふ、お休み直美」
よほど疲れていたのだろう、直美はお風呂で身体が温まるとすぐに眠りについてしまった。
ぶかぶかとは言え史郎が貸してくれた洋服に着替えさせたし、とりあえずこのまま寝かせておいて問題はないだろう。
私は居間に敷いてもらった布団に直美をそっと横たえて、寝冷えしないようしっかりと毛布を掛けてあげた。
「…………」
「あ……史郎……あ、ありがとう」
『今日はそこで寝ろ、そしてどうするか考えろ』
無言で食卓に座ったまま、史郎は私を見ることも無くメモだけを投げてよこした。
そっけない仕草だけれども、こうして実際に救いの手を差し伸べてもらえたのだ。
今の私には十分すぎる温情に感じられた。
「う、うん……本当にありがとう……あのままじゃ直美凍えちゃうから……」
「…………」
何度もお礼を口にして頭を下げるけど、やっぱり史郎が言葉を返すことはなかった。
私から事情を聞いている間も、そして母親に警戒しながら自分の家に避難させてからもずっとだ。
(本当に声出せないんだ……史郎にも色々あったのかなぁ?)
ほんの数年前まではお互いに何でも知っているぐらいの関係だった。
何せずっと一緒に居たのだ……だからこそ多少落ち着いてくると史郎の状態が気になってくる。
だけど今更私なんかが首を突っ込んでいい問題だとは思えなかった。
もうとっくに縁は切ったのだ、それも私のほうから一方的にだ。
(今更幼馴染面していい関係じゃないもんね……今だって匿うどころか追い払われても……ううん、むしろ敵に回られたって不思議じゃないぐらいなんだから……)
本当に昔から変わらない史郎の優しさには感謝しかない。
そしてそんな相手を勝手に憎んで攻撃し続けた自分は何と愚かだったのか、はっきりと自覚させられてしまう。
(私どうして史郎をあんなにも憎んでたんだろう……別に何かされたわけでもなかったのに……どうして……?)
『ちゃんと考えろよ、明日には両親も帰ってくるからもう泊めれないぞ』
「あ……う、うん……そうだよね……このままここにいるわけにはいかないもんね……」
『当たり前だ、今日だってあんなところで俺の名前を呼んでたから放置できなかっただけだ……大体すぐ隣なんだからここで匿ったところですぐ見つかる』
「……そうだよね……うん、わかってる」
史郎が投げてきたメモで私は現実に立ち返ると、一旦思考を打ち切り改めて今後のことを考え始めた。
(だけど……どうしたらいいのかなぁ?)
結局のところ私の状況は何も変わっていない。
お金も無く行く当てもないのだ。
「……し、史郎……ごめん、私馬鹿だから何も思いつかないの……助けて……何て言えないけどせめて一緒に考えてほし……ください」
「…………」
「お金も無くて父親も音信不通だし、母親は……だから帰る家もない……こんな状態で私どうしたらいいのかなぁ?」
『俺じゃなくて公的機関にでも相談しろ』
頭を下げた私の前で、史郎は携帯電話で何か調べたかと思うとメモ帳にいくつかの連絡先を書いて寄こしてきた。
「こ、ここに相談すれば何とかなるの?」
『そのための場所だ、少なくとも実際に困ってる親子が直接来たら追い返したりはしないはずだ』
「ほ、本当? あいつ……お母さんからも守ってくれるの?」
『流石に祖母より母親の言うことの方が優先されるだろ、その辺りの証明だってどこぞから書類を取り寄せれば一発だろうからな』
私がいくら迷っても出せなかった答えをあっさりと出してしまう史郎。
同い年とは思えないぐらいしっかりしている元幼馴染の姿に、私はどうしようもなく劣等感を感じてしまう。
(史郎は凄いなぁ……それに対して私は……遊んでばっかりでそう言う役に立つ知識も学んでないで……情けないし恥ずかしい……)
しかしとにかくこれで先行きの目途は立った。
相談してどうなるかは分からないが、少なくとも行く当てもなくさまよい続けるよりはずっとましだ。
私はようやくほっと一息つくことができて、直美の寝顔を笑顔で見つめる余裕まで産まれてきた。
(安心してね直美、これからも私がママとして守るか……ママとして……っ!?)
だけどそこであることに気づいた私は、血相を変えて史郎へと詰め寄るのだった。
「し、史郎……そ、そこって書類で親子を確認して……母親の意見を優先するところなのっ!?」
『俺も直接かかわったことはないからわからないけど、基本的に親の意見が優先されるはずだから心配するな』
「ち、違うのっ!! それじゃあ不味いのっ!! だって直美の書類上の母親はあいつなんだもんっ!!」
「っ!?」
「世間体が悪いとか何とかで……私もその時は面倒だからって同意しちゃって……こ、これ不味いのかなぁ……し、史郎ぉ……」
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