★霧島と史郎③
【注意】
多分、今までで一番重いです
「ふえぇぇっ!! ままぁああっ!!」
「ああもうっ!! こんなことで一々泣くんじゃないのっ!! 悪さしたのは誰なの直美っ!!」
「お、お母さんもうそれぐらいにして……直美が怖がって……」
「何よっ!? 私が悪いって言うのっ!?」
「ひぅっ!? そ、そんな怒鳴らないでよ……」
血相を変えて私を睨みつける母親、その顔には狂気すら感じられるほど恐ろしいものだった。
私ですら怯えてしまいそうなのだから、まだ三歳児である直美が泣き出すのも無理はない。
(ちょ、ちょっと食器をひっくり返しちゃっただけじゃん……それもあんたに怯えてて手が震えちゃってるんだから仕方ないじゃん……)
元々どこかヒステリックな面はあったが、最近の母親はもはや常軌を逸している。
よほど自分を取り巻く環境にストレスを感じているのだろう、その発散とばかりに母は教育と称して直美の細かいミスを執拗に攻めかかるのだ。
当然直美は祖母のそんな態度に恐縮して、何をするにしてもビクビク震えながら行動しては失敗してまた叱られることを繰り返していた。
「あんたが駄目だったからこうしてんのよっ!! あんたみたいにならないためにはこれぐらいしっかり躾なきゃ駄目なのよっ!! ほら直美、早く汚したところを綺麗にして食事を再開しなさいっ!!」
「あぁあああんっ!! ままぁああっ!! ままぁああああっ!!」
「ああもうっ!! どうして言うことを聞かないのよっ!!」
ベビーチェアーに座らされた直美は私に泣きつこうと必死に両手を伸ばすが、その様子を甘えと見たのか母はさらに怒り狂う。
(うぅ……直美可哀そう……だ、だけど今口出ししたらこっちに矛先が……そ、それにもっと怒ってとんでもないことになっちゃうし……)
前に直美をかばった際は二人掛かりで攻めるだとか、あなたのせいでとか言ってヒートアップして最終的に心中を口にして包丁まで取り出してきた。
だからどうしてもあの時の恐怖が思い出されて、間に入る勇気が湧いてこない。
そんなわたしに直美は涙目で助けを求めてきていて、その姿を見ているととても胸が痛んでしまう。
(そ、そんな目で見られても私には何も……私だって自分の身を守るのでせーいっぱいだよ……どーして私がこんな思いをしなきゃいけないんだろう……酷いよ……)
辛くて苦しくて、もう何もかも投げ出してしまいたかった。
「ままぁあああっ!! ままぁあああああっ!!」
「いい加減にしなさいっ!!」
「っ!?」
ついにいつまでも泣き止まない直美に切れたのか、母はその手を振りかぶった。
その後に起こることがすぐに分かってしまった私は……
→①見ていられなくて、つい目を逸らしてしまった。
②反射的に直美を抱き上げていた。
さっと目を逸らした私の耳に、パンッと何かがぶつかる乾いた音が聞こえてきた。
「ぁ……あぁああああんっ!!」
一瞬直美の声が止まった、かと思えばすぐに火が付いたように泣きさけび始めた。
「まだわからないのっ!!」
そして再度母の気が狂ったような声を上げて手を振りかぶる。
もうとてもその場にいるのが耐えきれなくて、私は席から離れて何もかも捨てて逃げ出した。
「どこへ行くの亜紀っ!?」
「ま、マァマああああぁつ!?」
娘と母親に呼び止められて、だけど二人がどんな目で私を見ているのかと思うと振り向くこともできなかった。
何も言わずに家を飛び出して、ひたすら行く当てもなく走り続けるのだった。
「……はぁ」
「ねえ君ぃ、そんな悲しそうな顔してどうしたのぉ? 話ぐらい聞くから近くで休憩していかない?」
「……いいよ……ちょーど何もかも忘れたいところだったし……ついでに泊まるところも無いからめんどーみてね?」
「おぉ、じゃあ泊りで……何もかも忘れるほど一晩中気持ちよくしてあげるよ」
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*****
「いい加減にしなさいっ!!」
「っ!?」
ついにいつまでも泣き止まない直美に切れたのか、母はその手を振りかぶった。
その後に起こることがすぐに分かってしまった私は……
①見ていられなくて、つい目を逸らしてしまった。
→②反射的に直美を抱き上げていた。
「だ、駄目ぇっ!!」
「っ!?」
直美が叩かれる、そう思ったら身体が自然に動いていた。
母との間に入り庇うように抱き上げる。
当然勢いがついていた母の手は私の背中に当たって乾いた音を立てた。
(い、痛ぁいっ!? こ、こんな強くたたく気だったのっ!? やっぱり絶対おかしいっ!!)
「ままぁ……ままぁ……」
「どうして邪魔するのよっ!? あなたはそうやっていつもいつも私の言うことに逆らってばっかりっ!! ああもう誰もかれも私を馬鹿にしてぇえええっ!!」
腕の中で私にしがみ付く愛しの娘を優しく抱きしめてあげながら母を睨みつけると、向こうは奇声を上げながら台所へと向かっていった。
そうして包丁を手に取ろうとする姿に、改めて母の異常さに驚愕する。
(このままここに居たらじゃ駄目だ……私も直美も殺されちゃうっ!!)
本能的に恐怖を覚えた私は、しっかりと直美を抱きかかえたまま家を飛び出した。
「待ちなさい亜紀ぃいいいっ!!」
「ままっ!! ままぁあああっ!!」
「大丈夫っ!! ママが付いてるからっ!! 大丈夫だからねっ!!」
母の叫び声に怯える直美を落ち着かせながら、私はひたすらに街中を逃げ惑った。
どれだけ走り続けただろうか、ようやく母の声も聞こえなくなったところで私は近くにあったベンチに腰を下ろした。
(……これからどーしよう?)
行く当てなど何もなく、なけなしのお金だって持たずに飛び出してしまった。
この後どうすればいいかなど、全く思いつきもしない。
しかしあそこに帰るわけにもいかない、考えれば考えるほど不安が込み上げてくる。
「うぅ……ままぁ……ままぁ……」
「よしよし、ごめんね怖かったよねぇ……大丈夫だからね直美ぃ……ママが付いてるからねぇ……」
「ふぇぇ……ママぁ……ひっく……ママぁ……」
それでも私は、私の胸に縋りついて泣き続ける直美を安心させたくて不安を押し殺して微笑み続けるのだった。
(どうにかしてお金と住むところを……今までみたいに身体を売れば……け、けど直美と一緒にそんなことするわけには……ど、どうしたらいいの……うぅ……だ、誰か助けてよぉ……)
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