★霧島と史郎①
【注意】
このルートは少し重めになる予定ですが、ハッピーエンドで終わらせます。
「おめでとう霧島亜紀さん、元気な女の子ですよ」
(だから何なのよ……どーでもいいからそんなの……)
何かおめでたい事のように告げてくる医者を冷めた目で見つめる私。
はっきり言って何の感動もない、ただ単にようやく終わったのかという徒労感があるだけだ。
尤もこれであの異物感とも、苦しい重さともお別れだ……それだけは嬉しいと思う。
(何で私がこんな目に……どいつもこいつも……)
好き放題遊んだのは相手の男だって同じなのに、どうして女の私だけこんな目にあわなければいけなかったのだろうか。
産みたくもない子供を痛みをこらえて抱え込んで、おまけに周囲からは蔑まれたり怒鳴られたりで良い事なんか何もなかった。
(あのババアがさっさと書類にサインしてればこんな面倒なことにならずに済んだのに……だけどようやく終わった、これでまた遊べる……)
はっきり言って産んだ赤ん坊になんか全く愛着がない。
誰の子供かもわからないし、作りたくて作ったわけでもない……むしろ勝手に出来て人の人生を邪魔して、腹立たしいぐらいだった。
だから術後に綺麗にされた赤ん坊を傍に連れてこられた際にはむしろ顔をしかめてしまった。
(なにこの猿みたいなの……全然私に似てないし……こんなの触りたくもない……)
「ほら、抱っこしてあげてください」
「……いや、結構です」
「えっ!?」
「あ、亜紀っ!? そんなこと言わないのっ!?」
だけど近くに居た母親が咎めてきて、咄嗟に反論しようと思ったけど何とか口を押えた。
今後こいつには私の代わりにこの子の面倒を押し付けようと思っている。
それなのに今から機嫌を損ねていては仕方がない。
(うぅ……嫌だけどちょっとだけ我慢して抱っこして……はぁ……どいつもこいつもどうして私を虐めるのかなぁ……)
本当に腹立たしいけれど、何とか感情を堪えながら私は仕方なく赤子を抱きかかえた。
思ったほど重くはなくて、だけど両手から確かに重量と熱が伝わってくる。
「うぅ……」
「っ!?」
私が抱きかかえた途端、何故かその子は突然声を洩らすと……私のほうに腕を伸ばしたように見えた。
そして私の服の一部に触れたかと思うと、小さい指を折り曲げて掴もうとしたように思われた。
その姿を見て……
→①どうしたらいいか分からず、私は母親へ赤ん坊を押し付けるのだった。
②何故か妙に胸が痛んだ。
「バ……お母さん、ちょっと代わって……」
「えっ? ど、どうしたのよ?」
「私凄く疲れてるの……ほら、抱っこしたいでしょ?」
「ふぇぇ……っ」
何かを要求しているように思われて、どうしていいか分からない私はさっさと面倒ごとを母親へと押し付けた。
すると赤ん坊は何か辛そうな声を洩らして……その後も私のほうに手を伸ばし続けた。
(いや……目も開いてないのに私がわかるわけないし……気のせい気のせい……)
内心で自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、私は今度こそ赤ん坊から……厄介ごとから目を逸らして眠りにつくのだった。
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私が抱きかかえた途端、何故かその子は突然声を洩らすと……私のほうに腕を伸ばしたように見えた。
そして私の服の一部に触れたかと思うと、小さい指を折り曲げて掴もうとしたように思われた。
その姿を見て……
①どうしたらいいか分からず、私は母親へ赤ん坊を押し付けるのだった。
→②何故か妙に胸が痛んだ。
健気に私に向かって手を伸ばす赤ん坊を見ていると、何故か妙に胸が騒めいた。
「ぅぅ……」
「……」
私の服に触れた赤ん坊は、何やら落ち着いたように静かに吐息を洩らし続けた。
「お母さんが近くにいるって分かって安心してるんですねぇ」
「……まだ目が開いてないのにわかるんですか?」
「それがわかるみたいなんですよ……赤ん坊って不思議ですよねぇ」
「ふぅん……」
腕の中で穏やかに呼吸を繰り返す赤ん坊を私は少しの間観察することにした。
(赤ん坊って言うだけあって真っ赤な肌してるし……けどよく見ると……私に似てる……のかなぁ?)
まだ小さいけれど耳の形や顔つきなどに、見覚えがあるような気がしてくる。
しかしどこもかしこもとても小さい……それこそ差し出されている手も、まるで作り物のような指がくっついているだけだった。
(変なの……こんなのが人間みたいに育つのかなぁ……)
不思議で仕方なくて、実際に触れてみたくなってきた。
私は片手で抱きかかえなおして、もう片方の手をそっと赤ん坊に近づけてみた。
「……あっ」
「ぁぅ……ぅ……」
手のひらに触れた私の指を、赤ん坊は小さい手で一生懸命……弱々しい力で握りしめてきた。
そして赤ちゃんは……少しだけ笑顔になったような気がした。
(あ、あれ……こ、この子……ちょっとだけ……か、可愛い……かも……)
その健気な姿にほんの僅かに胸を打たれた私は、もう少し飽きるまでこのまま様子を観察し続けようかなぁと思うのだった。
「……ほっぺもぷにぷにぃ……ふふ……」
「亜紀さぁん、そろそろ休ませてあげてくださいねぇ」
「そうよ亜紀……あなたもそろそろ休まないと大変よ……」
「いやそんな大げさな……ってもうこんな時間っ!? 嘘でしょっ!?」
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