ある日
Bエンドフラグにチェック済
「ふぇぇ……ままぁ……」
「こ、困ったなぁ……よしよし、泣かないでぇ……」
ようやく片言で話せるようになった我が子を抱いて、桜舞い散る道をうろつく俺。
せっかくの春休みなのだからと近所にある有名な桜並木にお散歩にきたのだが、花見客が多すぎて亜紀と逸れてしまったのだ。
必死で子供をあやしながら亜紀を探して回るが、やはり俺では上手く行かないようでだんだん機嫌が悪くなってきた。
(どっちかと言えばママっ子だからなぁ……早く合流しないともっと愚図っちゃうぞぉ……)
「ままぁ……ままどこぉ……」
「よしよし、もう少しだけ我慢してねぇ……」
「ふぇぇ……」
俺に抱っこされている赤ちゃんもまた、本当に寂しそうにあちこち見回して亜紀のことを探している。
(本当に仲が良いもんなぁ……幾ら泣いてても亜紀が抱っこしたら一発で泣き止むし、亜紀もこの子が瞬きしただけで可愛すぎるだの天才だのと騒ぐぐらい親バカしてるし……まあ小さい時の亜紀にそっくりで本当に可愛いから仕方ないけど……)
本当に亜紀とこの子は親子だとはっきりわかるぐらい似ていると思う……これぐらいの亜紀が甘えん坊で臆病だったところもだ。
だからこそ早く亜紀を見つけて落ち着かせてあげたくて、一生懸命あちこちを探して回る。
「うぅ……あっ!! ままぁっ!!」
「おおお、いたかっ!?」
子供の指摘した方向へ顔を向けると、確かに亜紀と思わしき女性の後ろ姿が見えた。
何とかそっちのほうへ人をかき分けるように進んでいく。
(あれ? 誰かと話して……お、男ぉっ!?)
だんだん距離が近づいてくると、亜紀が何やら不真面目そうな怪しげな男と何やら話していることに気が付いた。
そしてその男が馴れ馴れしく亜紀の肩へと手を回そうとしていて、恐らくは変な軟派に引っかかっているのだとわかった。
何と言っても亜紀は経産婦とはいえ本来なら高校生をしているぐらいの年齢だからか、はっきり言ってその見た目は子持ちとは思えないほど非常に魅力的だった。
(俺だって今だにドキッとするぐらい美人に見える時があるしモテて当然だよなぁ……)
それでも自分の妻として変な男にちょっかいを出されるのを見ているつもりはなく、亜紀を守るためにも急いで傍に近づこうとする。
しかしそんな俺の前で軟派されている亜紀は少し困ったように首をすくめていたかと思うと、不意に何故か満面の笑みを浮かべて男のほうに近づいて行った。
(えっ? あ、亜紀……?)
亜紀の意図が掴めず呆然と見つめている俺の視線の先で亜紀は笑顔のまま男の懐に潜り込み……その股間に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。
「私の旦那様はねぇっ!! あんたなんか比べものにならないぐらい格好いい世界一素敵な旦那様なのぉっ!!」
そして思いっきり急所を潰され蹲った男に向かい、今度こそはっきりと怒りの形相となった亜紀が俺の元まで聞こえるほどの怒声を張り上げるのだった。
「わかったぁっ!? だから私はあんたなんかの相手してる暇ないのっ!! じゃあねっ!!」
もう何も言えないでいる男から亜紀はあっさりと視線を外すと、そのままこちらへと近づいてきて……呆然と立ちすく俺に気づいて嬉しそうに手を振って見せるのだった。
「史郎ぉ~、もぉ探したよぉっ!!」
「や、やあ亜紀……す、すごかったね……」
「あら見られちゃってたの……だってあいつ物凄くしつこい上に人妻だって言っても信じないどころか史郎を馬鹿にするようなこと言うんだもん……だからちょっと頭にきちゃったぁ」
「まま、すごかったよ!!」
「そんなに褒めないでよぉ……えへへ、けどあんなこと真似しちゃだめだからねぇ~」
*****
Cエンドフラグにチェック済
「亜紀、そろそろ帰ろ……何してるんだ?」
「なーんでもなぁい……じゃあさいならぁ」
授業も終わって亜紀と一緒に帰ろうと迎えに行ったところ、クラスメイトの女子たちと何やらしていたようだった。
それでも俺が声をかけるとあっさりと彼女たちと別れて俺の手を取ると、振り返ることも無く教室を後にしてしまった。
「あ、亜紀……良いのか?」
「んー? 何がぁ?」
「いやあの子達と何かしてたんじゃ……」
「ああ、すっごく下らないお話……あいつら本当にガキっていうか見る目がないって言うか……はぁ……」
何やら本当にどうでも良さそうに言い切ったかと思うと、突然盛大にため息をついた亜紀。
「……様子が変だけど、何かあったのか?」
「いやまあ大したことじゃないんだけどぉ……やっぱり受験失敗したのは痛かったかなぁって……」
「それはもう言わない約束だろ……そんな気にしても仕方ないって……」
「うん、わかってるんだけどぉ……史郎と嵐野君のお陰でようやく吹っ切れてたんだけどねぇ……」
亜紀は何やら疲れたように首を振って見せた。
「あいつらさぁ……さっき史郎と嵐野君の陰口叩いててさぁ……本当に疲れちゃう……」
「そ、そうなのか……ごめんな亜紀……肩身の狭い思いをさせちゃったか?」
「ううん、そんなことないって……単純にあいつらはそーいうことに楽しみを感じる卑しい奴らだってだけだし、そんな奴らにどー思われてもいいんだけどぉ……あの学校そーいう女子ばっかりなの……」
本当に困ったように笑いながら、亜紀は少しだけ強く俺の手を握り締めてきた。
「まあお陰で史郎を取られる心配がなくていいんだけどぉ……だけどやっぱり史郎の……彼氏を悪く言われるのはすっごいムカつくんだぁ」
「ありがとう亜紀……そしてごめん、俺がもっと格好良かったらそんなこと言わせなかったのに……」
「十分格好良いってばぁ……それにあいつら表面ばっかりしか見てないから変な先輩に食い物にされてることにも気付いてないみたいだし……ゲーム好きってだけで史郎と嵐野君を見下してそのスペックの高さに気づけないんだもん……むしろこっちが同情しちゃうよ」
亜紀は心の底から憐れむような口調で呟いた後、俺の顔を見つめてニコリと笑顔になるとそっと寄り添ってきた。
そんな可愛い恋人を俺は何かから守る様に優しく抱きしめるのだった。
「こぉんなに素敵な彼氏、他に居ないのにねぇ~」
「俺だって同じだよ……こんな素敵な彼女他に居ないよ」
「えへへ、そうだよぉ……だから史郎は私から離れちゃだめなんだからねぇ……離す気なんかないんだから……」
「俺だって離さないよ……愛してるよ亜紀」
*****
フラグ無しエンド後
「あ、亜紀……どうしたんだ?」
「べぇつにぃ……何でもないよぉ」
いつも以上に俺の腕へとしがみ付いて学校への通学路を歩く亜紀。
その視線はどこか鋭く周りの女子を睨みつける勢いだ。
「何でもないことはないだろ……ちゃんと話してくれよ」
「うぅ……し、史郎は格好良すぎるのが悪いのっ!!」
「えぇ……それどういうこと?」
「ふっふっふ、ご説明いたしましょう」
「うおっ!?」
不意に後ろから声が掛けられて、振り返ると亜紀の一番の親友である眼鏡っ子が意地悪な笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「よ、余計なこと言わなくていいからねっ!!」
「いやいやぁ、大事な彼氏の雨宮さんが困惑してるじゃないですかぁ……大体ちゃんと話し合うのが恋愛のコツだって私たちに散々自慢気に言ってたのは誰でしょうねぇ?」
「うぐぅっ!? そ、それはぁ……うぅ……」
「……よくわからないけど、そんな言いずらい事なの?」
「いいえ、全然……ただ単に亜紀ちゃんの独占欲が強すぎるってだけのお話ですから」
さらっと言い切った友人の言葉に、亜紀は恥ずかしそうに顔を赤くしながらもより一層俺の腕を強く抱え込んだ。
「し、仕方ないでしょ…………大好きなんだもん」
「亜紀……俺も亜紀を愛してるよ、世界で一番ね」
「し、史郎……私も愛してる……大好き…………」
「亜紀…………」
「はいはい、無言で見つめ合うのはいいですけどキスは止めておきましょうねぇ……他の人たちも物欲しそうにこっちを見つめないで下さぁい」
空気に酔ってそっと顔を寄せようとした俺たちだが、その言葉で正気を取り戻すことに成功した。
慌てて顔をそらしつつ、この微妙な空気をごまかそうと口を動かした。
「あ、あはは……そ、それより結局最初の話だけど今日に限ってどうしてこんなにくっついてるんだ?」
「うぅ……あ、あのね……実はさ……昨日私お友達と遊んだでしょ? それでその……」
「その時にうちの学校にいる男の人の話題になって、そしたら自然と格好良い人は誰彼だって流れになって……そこで雨宮さん物凄く高評価だったから亜紀ちゃん流石に危機感を覚えちゃったんですよ」
「そ、そうなのか亜紀?」
(お、俺が高評価って……ひょっとして前の文化祭での仮装がいまだに響いてるのか?)
全く自覚がなくて、ついつい亜紀に聞きなおしてしまう。
すると顔を真っ赤にしながらも、亜紀は小さくこくりと頷いて見せるのだった。
「だ、だってぇ……史郎は私の彼氏なんだもん……他の女の人に渡したくないもん……」
もじもじしながら呟く亜紀、そんな仕草の一つ一つが本当に愛おしくてたまらない。
だから俺は自然と笑顔になりながら、絶対に亜紀を幸せにしようと心の底から誓うのだった。
「そっか……大丈夫だよ亜紀、俺は亜紀だけのものだから……ね?」
「う、うん……本当はわかってるんだよ……頭では理解してるの……だけどぉ……」
「じゃあ……証拠見せようか?」
「……えへへ、そうだね証拠見せつけちゃおっか…………んっ」
「やれやれ……こんなバカップルの間に入る馬鹿なんかいるわけ無……」
「し、史郎ぉっ!! 霧島さぁんっ!! た、助けてくれぇっ!!」
「とーるさんにげちゃだめなのぉっ!! ちゃんとあさのちゅぅするのぉっ!!」
「…………嵐野さんはさぁ……はぁ…………ふふふ、もう毎日騒がしくて……楽しいなぁ……」
*****
亜紀好感度0以下
(もうこんな時間だ……霧島はまだ帰ってないのか?)
遊び終えた亮が帰ったことで一息ついた俺は、そのまま窓の外を眺めたが霧島の部屋に明かりはついていなかった。
既に外は暗くなりかけているというのに、一体どこで遊んでいるのだろうか。
(さいきん本当に帰りが遅いよなぁ……明日も学校だってのに……そんなんだから寝坊するんだぞ……困った奴だ……)
もう高校二年生にもなるのだからそろそろ少しは成長してほしいと思う。
尤も厳しく当たることができず甘やかしている俺にも責任はあるのだろうが、どうしても霧島の笑顔を思うと放っておけないのだ。
何だかんだで俺は霧島のことが……大好きなのだから。
(明日の支度は出来てるのかなぁ……また忘れ物したら大変だぞ……全く心配させないでくれよ……)
余計なお節介かもしれないが、どうしても気になって俺は霧島に電話してみることにした。
しかし二度三度とコール音が鳴ったかと思うと、不意に通話は切られてしまう。
どうやら何かしていたようだ、その証拠とばかりに次からは電源が落とされてしまったのかコール音すら鳴らなくなってしまう。
(何をしてるんだか……どうせなら幼馴染の俺に相談……ってのも変なのかな?)
霧島とは幼稚園の頃から一緒に居て、今でも一番仲の良い女性だ。
だから何も言わなくてもわかり合えていて、気持ちも通じ合っているはずだ。
おかげで告白もしていないのにお互い、恋人のような振る舞いをしている気がする。
(きっと俺たち将来は……結婚するんだろうなぁ……)
『私……史郎くんとけっこんするぅ~』
大昔に霧島とした約束を俺はあの時見た笑顔と……気持ちと共にまだ覚えているのだ。
(本当に手のかかるやつだけど……やっぱり俺は霧島の笑顔を見てる時が一番幸せなんだ……)
霧島の方も俺と居るときはどことなく穏やかというか、安堵しているように見える。
それだけ気持ちを許し合っているというか……多分これが愛し合っていると言うことなのだろう。
(……会いたいな)
毎朝毎晩、眠る前と起こす時にはいつだって顔を合わせている。
それなのに俺は妙に霧島の……大好きな幼馴染の顔が見たくなってしまった。
(外も暗いし……ちょっと探しに行ってみるか)
どこにいるかわからない以上、会えるとは限らないがそれでも俺は霧島を求めて家を飛び出すのだった。
(さて、霧島はどこに……おっ!?)
「き、霧島……お、おかえ……」
「私、好きな人ができたからもう近づかないでね」
「っ!?」
次話【プロローグ】
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