★史郎と亜紀のその後⑦
Cエンドフラグにチェック済
「うわぁ……凄いことになっちゃってるねぇ」
「ま、まさかここまでなるとは俺たちも予想外だぞ……」
「いや本当に……こりゃあむしろ霧島さんには悪いことしたかなぁ」
亮が作ったサイトの問い合わせ欄を眺めながら、嬉しい悲鳴を上げる俺たち。
これまではここに亜紀への衣装作りのリクエストが来ていた。
しかし今はその依頼のコメントが埋まってしまいそうな勢いで、俺たちが作ったゲームへの評価やら再販希望がひっきりなしに飛び込んできている。
(マジで完売した時点でびっくりしたけど……こんなことならもっと作っておけば良かったかなぁ……)
届いている感想などを見るとやりこみ要素からキャラクターのデザインや動きについてまでどれも好評のようだ。
特に女性キャラの仕草や服装などに対する意見が多いが、これは亜紀のお手柄だ。
何せ実際に亜紀が作った衣装を選び、本人に着せて良さそうなモーションを採用したのだから。
「ううん、むしろお陰で私への衣装の依頼も増えて万々歳だよぉ……あの日の売り子で顔も売れたから個人的にモデルになってくれって相談もあるぐらいだしねぇ……まあやる気ないけどぉ」
「そんな亜紀が売り子してくれたからこそ完売できたんだろうなぁ……ありがとうな亜紀」
無名のしかも初出店の俺たちは当然ながら最初は誰からも目を付けられていなかった。
それこそコスプレした亜紀が接客したからこそ人が集まってきて、そしてPV画面を見て買う人が増えて行ったのだ。
(亜紀が居なかったら一個も売れなかった可能性すらあるからなぁ……本当に頭上がらないよ……)
「えへへ、私超頑張ったもんねぇ……けど売った後もこうして褒められてるのはやっぱり二人が作ったゲームが良かったからだよ」
「確かに自信はあったがここまでとは思わなかったから流石の俺もちょっとビビってるぜ……それでどうする史郎? 再販するか?」
「そりゃあデータはあるから再販しようとすりゃあ出来るだろうけど……売り出す場所があるのか?」
「それこそ霧島さんがやってるみたいにネット販売でもいいし、幾つかのお店からは声もかかってるからなぁ」
「ま、マジかよ……」
亮が幾つかのメールを開いて見せると、確かにどこかで聞いたような名前のお店からうちで売り出さないかとお誘いが掛かっていた。
「すごいすごいっ!! これはもう二人で会社作っちゃったらっ!?」
「そいつはいいっ!! どうせなら霧島さんも含めて三人でやろうぜっ!!」
「おおっ!! いいねぇっ!! じゃあ私コスプレ衣装で接客担当するぅっ!!」
「お、おいおい……幾ら何でも盛り上がり過ぎだろ……」
言葉ではそう言いながらも、俺も内心まんざらでもなかった。
どうせ学校はレベルが低いところだから、よほど怠けない限り卒業できないことはない。
ならばいっそのこと、この時期は皆で青春を満喫すべく遊びつくしても良いような気がするのだ。
(楽しいことをしてお金も入る……何ならこれを上手く貯めて結婚資金にすれば高校卒業と同時に亜紀と結婚できるんじゃないか?)
学業と両立して働けること、何よりこうしてお金を稼いでいる事実を証明すれば早すぎる結婚も認められるはずだ。
「だって絶対楽しいよっ!! やろうよ史郎っ!!」
「そうだぜっ!! 俺たちならできるってっ!! やってやろうぜ史郎っ!!」
とても嬉しそうに笑いかける趣味の合う親友と恋人、そんな二人の魅力的な提案を断れるわけがなかった。
「仕方ない……やってやるよっ!!」
俺もまた心の底からの笑顔を浮かべると、力強く頷き返してやるのだった。
(まあまだ俺たち若いし失敗しても取り戻せる……よぉしどうせなら思いっきり楽しんでやるっ!!)
「よぉしっ!! 実はもう考えてあるゲームシステムがあってな、他にも色々あるがまずはこれを三日以内に最低限動かせる形に仕上げてくれ史郎っ!!」
「よぉしぃっ!! 実はもう新しい衣装とそれが映える仕草考えてあるんだぁ、他の衣装も作りたいから三日以内に違和感なく動かせるよう仕上げてね史郎っ!!」
「ちょ、ちょっと待てぇっ!! さらっと無茶ぶりするんじゃねぇえええっ!!」
「だいじょーぶぃっ!! 史郎ならきっとやれるよっ!!」
(か、勘弁してくれよぉおおおおおおおっ!!)
Cエンド
*****
フラグ無し
隣に住んでいる亜紀はとっても臆病だった。
初めて会った時から、ずっと俺の後ろに隠れるようについて歩いていた。
だからずっと面倒を見なければと思っていた。
「それでね史郎、明日はあの子達とお出かけするから……」
「了解、ゆっくり遊んでおいで」
「うんっ!! 史郎も羽根を伸ばしていいからっ!!」
そんな亜紀が今ではにこにこと俺抜きの予定を話している。
もう面倒を見なくても立派に一人で何でもできるようになったのだ。
少しだけ寂しいけれど、どこか誇らしい気持ちになる。
「だけど夕食までには帰ってきてよ、私もそれまでには帰るからさ」
「言われなくても帰ってくるよ……亜紀の手料理を食べたいからね」
窓越しに笑いかけると亜紀もまた嬉しそうに微笑んで見せてくれる。
(本当に立派になったなぁ……)
昔の亜紀はとても困った子だった。
すぐに忘れ物をするし勉強はおろか自分の身の回りのことすらろくにしなかった。
だから同じ学校に通っている俺がフォローしなければと思っていた。
「えへへ……史郎は私の手料理そんなに食べたいんだぁ?」
「ああ、とってもおいしいから……これは内緒だけどもううちの母親のご飯よりずっと美味しいからな」
そんな亜紀が今では何でも自分から進んでするようになって、俺のお世話まで任されるほどになった。
もう俺がフォローするどころの話ではなくて、少しだけ情けないけれどとても嬉しい思いに満たされている。
「だって私史郎の好物も好きな味付けも知ってるもん……史郎の為だけに作ったご飯なんだから美味しいに決まってるでしょ?」
「ふふ、それだけ愛情が籠ってるんだもんなぁ……美味しいに決まってるか」
「当たり前だよぉ……だって私史郎のことが大好きだもん……愛してるの史郎」
嬉しそうに微笑んだかと思うと、窓枠から上半身を伸ばして目を閉じる亜紀。
そこに居るのは保護しなければいけない手のかかる少女ではなくて、俺と対等に向き合い支え合ってくれる愛おしい彼女だった。
そんな世界で一番素敵な恋人に向かって、俺も身体を乗り出させるとそっと唇を重ね合わせるのだった。
「んっ……はぁ……史郎大好き……ずっと隣に居てね」
「ああ……俺はずっとそばにいるよ、だから亜紀も俺から離れないでくれ」
「うん、わかってる……私もずっと史郎と一緒に居たい……だから、もう一回……ね?」
「もう一回……と言わず、何度でもするよ……愛する亜紀……んっ」
俺たちは互いの愛情と絆を確認するかのように、いつまでも飽きることなく口づけを交わし続けるのだった。
(俺の隣に住んでいる亜紀は……とっても愛おしい俺の彼女だ)
フラグ無しエンド
この後、番外編を1~2話ほど投下してからIFルート②に入ります。




