平日の夜⑧
「……ホッチキスの位置が何だってんだよ……くそ……」
どうして書類を止めるホッチキスの角度だか位置が違うだけで何時間も叱られなければいけないのだろうか。
単純に上司の虫の居所が悪かっただけなのだろうが理不尽にもほどがある。
(何であんな奴のストレス解消で怒鳴られなきゃいけないんだよ……畜生……)
毎日サービス残業を繰り返し、精神的にも追い詰められている。
『まもなく二番線に電車が参ります、黄色い線の内側でおまちください……』
電子音の放送が聞こえる。
横を向けば電車がホームに入ってくる。
(その前に飛び降りれば楽になるかな……ニュースになればあいつらも少しは思い知るかなぁ……)
あと一歩二歩と踏み出せばもう会社に行かなくていいのだ。
あいつらと顔を合わせなくていいのだ。
ならいっその事……この一瞬だけ勇気を出せばそれで全てが終われる。
『おじさーん、お小遣いちょうだーいっ!!』
昨日の直美の言葉が蘇った。
(どうせ死ぬなら貯金全額あげてから……そのほうが良いよな……)
俺は今日も直美の顔を思い浮かべて最後の一線を堪えた。
時間が遅すぎてスカスカな電車に揺られ、改札を降りてふらふらと自宅に向かう。
時刻は既に十二時になろうとしている。
「ただいま……はぁ……」
気力は零だ、夕食を食べようとも思わずに部屋へと向かった。
そしてベッドに倒れ込む。
「きゃぁっ!?」
「うおっ!?」
何か妙に柔らかい感触がしたかと思うと布団が持ち上がり、中から俺のTシャツを着た直美が出てきた。
ぶかぶかすぎて襟首から右肩が露出しているが、だらしないというより色っぽく見えるのがずるい。
「あぁ……もぉ、せっかく気持ちよく寝てたのにぃ……ふぁぁ……」
「あのねぇ、ここは俺のベッドなんだけどぉ……」
「いいじゃん、気にしない気にしない……ほらぁ隣開いてるよ?」
「だから俺の……はぁ、もういいです……」
もう問答する気にもならず、直美がバフバフと叩いていた場所に寝っ転がる。
「抱き枕ゲットぉ~……じゃあお休みぃ~」
「あの……直美ちゃん……」
「はふぅ……ふぅ……ぐぅ……すぅ……」
左側から抱き着いたままさっさと眠ってしまった直美。
もちろん胸が当たりまくりだ、おまけに横を見れば直美の顔がドアップで移る。
化粧が落ちたすっぴんで目を閉じる顔は……変貌する前の幼馴染によく似ていた。
(この子はあいつとは違う……けど、やっぱり……思い出しちゃうなぁ……)
未だに癒えないトラウマが蘇りそうで、俺は慌てて身体を動かし視線をそらした。
(あれ……なんか左手に……この感触って……ちょ、まさかっ!?)
そっと右手で毛布を持ち上げて中を覗き込む。
俺の左手はちょうど直美の下着の辺りにあった。
(な、何でズボン穿かないで寝てるんだよっ!?)
さっきまで感じていた嫌な気持は全て吹き飛んでしまった。
今はただドキドキが止まらない。
俺はガチガチに硬くなりながら一晩を過ごすのだった。
(くぅぅ……ゆ、指が色々と触れて……り、理性が飛びそ……)
「うぅん……ばっきぃん……んぅ……」
「っ!?」




