★史郎と亜紀⑭
「亜紀ぃ~……何か忘れてないですかぁ~?」
「えぇ~、そんなことないと思うけどなぁ?」
不思議そうに小首をかしげながら、携帯電話を取り出しメモ帳を確認し始める亜紀。
どうやら忘れ物などしないように自分なりに考えて、大事な行事や予定などを書き記すようにしているらしい。
おかげで最近は面倒ごとが大幅に減った……尤も何をするにしても俺の部屋に来て一緒にやろうとするから亜紀に関わる頻度はまるで変わっていないのだが。
(けど昨日は先に帰って一人で準備してたみたいだし……き、期待して良いんだよなっ!?)
ドキドキワクワクしながら、亜紀が携帯電話でメモ帳から日付までを確認し終わるのを待つ。
しかし亜紀は顔を上げると、首を横に振るのだった。
「別に何もないみたいだけど……何かあったっけ?」
「あ、亜紀さぁん……意地悪言わないでくれよぉ……」
「えぇ~? 何のことぉ~?」
「日付見れば一発でしょぉ……俺すっごく期待してるんだから……」
「ああ、バレンタインのことだったの……もぉびっくりさせないでよぉ……」
どうやら亜紀は本当に忘れ物でもしたと思っていたらしく、心底安堵したようにため息をついた。
「わ、悪い……」
「全く史郎ったらぁ……別に甘い物好きじゃなかったよねぇ?」
「い、いや嫌いってわけでも無いし……亜紀の愛情篭った本命チョコは食べたくてたまらないんですぅ」
「へぇ~、私が本命チョコ渡すって分かっ……決めつけちゃってるんだぁ~」
悪戯っ子のように笑いながら少しだけ言い直した亜紀だが、その様からははっきりと用意してあると伝わってきた。
「そ、そりゃあ……亜紀は俺の最高の彼女だからな……くれないはずないだろ」
「はぅっ!? し、史郎恥ずかしい……も、もちろん用意してあるけどさぁ……そーいう言い方ずるいよぉ……」
「じゃあ世界一魅力的で素敵な恋人だ……愛してるよ亜紀」
「あぅっ!? あ、朝っぱらから通学路でそんな嬉しいこと言わないでよぉ……き、キスしたくなっちゃうよぉ……」
「っ!? あ、亜紀こそそ、そんな魅力的なこと言うなよっ!! お、俺だって亜紀と……したいし……」
足を止めて顔を見合わせる俺たち、潤んだ瞳でこちらを見つめる亜紀が小さく頷きかけてくる。
それだけで俺はもう亜紀のことしか目に入らなくなる……何もかも忘れて愛おしい恋人に顔を近づけていく。
「史郎に霧島さん、おはようっ!!」
「……おはよう亮、クタバレ」
「……おはよう嵐野君、さようなら」
「ちょぉっ!? な、なんだよいきなりぃっ!?」
俺たちに冷たい目で睨みつけられて、亮が露骨に情けない声を上げた。
(物凄く良いところだったのによぉ……いやある意味助かったけど……)
流石に道端でキスなどしては、間違いなく噂になってしまう。
尤も俺にとっては亜紀という彼女が居ることが知れ渡ってもむしろ誇らしいぐらいだ。
だけど亜紀の方は冴えない俺なんかが彼氏だと噂になったら色々大変かもしれない。
(まあ最近は亜紀のお陰で女子に免疫ついたから普通に話したり、困ってる子には手を貸したりしてるけど……それでもあんまり評判良くないだろうしなぁ……)
「だってこの時間に嵐野君に会うとは思わなかったし……いつもは遅刻寸前なのにどうして今日に限ってこんな時間に登校してるのかなぁ?」
「き、霧島さんっ!? め、めっちゃくちゃ不機嫌そうですけど何かあったんすか? 史郎お前なんかしたのかっ!?」
(何もできなかったんだよお前のせいでよぉ……)
「気にすんな……それよりマジで何でお前今日に限ってこんな……今日だから、か?」
「お、おうよっ!! バレンタインっつったらゲームで言えば確実にイベント発生日だからなっ!! そりゃあ早めに来て何か起こるのを期待するってもんよっ!!」
堂々と胸を張る亮を、俺は同情とも非難とも判別がつかない眼差しで見つめるのだった。
*****
亜紀好感度50未満
「き、霧島さん本当にありがとうっ!! お、おらこの感激一生忘れねーだよっ!!」
「あはは、嵐野君たら大げさだよぉ……コンビニで売ってる数十円のチョコだよそれ?」
「そ、それでも俺みたいな人間には十分すぎるっすっ!! なあ史郎っ!!」
「……そーだな」
スキップせんばかりの勢いで喜んでいる亮を俺は結構本気で睨みつけていた。
(義理とはいえ俺より先にチョコを貰いやがってぇ……ぐぅぅ……)
結局一個も貰えなかった亮があんまりにも落ち込んでいたので、同情した亜紀が近くのコンビニで急遽買ってきてプレゼントしたのだ。
「焼かない焼かない……史郎にはちゃんとしたの用意してあるから……」
「うぅ……わ、わかってるけどぉ……」
「な、なんか言ったかっ!?」
「いや何でもねーよ……いいからもう今日は帰れよ」
冷たく言い放ってやるが、有頂天の亮は全く気にした様子もなくはしゃぎ続けていた。
「わかってるってっ!! お前らの邪魔なんかしねーよっ!! いやマジでありがとう霧島さんっ!! ホワイトデーにはたくさんお返しするからさぁっ!!」
「はいはい、期待しないで待ってるから……じゃあばいばい嵐野君」
「ほらさっさと去れ去れ」
亜紀に手を振られて、俺に追い払われながらも亮は足取り軽く帰って行った。
「全くあいつはぁ……」
「もぉ史郎ったら意外に嫉妬深いんだからぁ……えへへ、ちょっと嬉しいけ……っ!?」
「何だ、どうしたんだ亜紀……なぁっ!?」
急に固まった亜紀の視線を追っていくと、遠くのほうで足を止めた亮の姿が映った。
しかも隣には小学生ぐらいの女の子が立っていて、その子からチョコっぽい何かを手渡されている最中だった。
(……詐欺かな?)
「……嵐野君、詐欺に引っかかってないあれ?」
「……まあ十中八九詐欺だろうなぁ」
尤もこれ以上あいつに関わって時間を使う気にはなれない。
何より幸せそうにしているのに邪魔をする必要もない……俺たちはそっと亮に背を向けて帰宅するのだった。
「……はい史郎……私の本命チョコ」
「おお……は、ハートで……手作りかこれ?」
「う、うん……だから美味しいかわからないけど……一生懸命作ったから……ね」
「ありがとう亜紀っ!! 愛してるよっ!!」
「私も史郎のこと大好きだから……んっ」
亜紀好感度+10
*****
亜紀好感度50以上
「お、お邪魔します……」
「いらっしゃい、今日は私の家誰も帰ってこないから遠慮しないでいいからねぇ」
「お、おう……それでチョコは……」
「今持ってくるよ……ちょっと待っててねぇ」
ぱたぱたと台所へかけていった亜紀がすぐに手に袋を持って戻ってきた。
透明な袋は中が透けて見えていて、そこに小さい一口サイズの丸いチョコが無数に入っているのがわかる。
(え……あ、あれなのか?)
数こそ多いがハート形でもなく、小さくまるで市販品のようなチョコに俺は失望を隠し切れない。
「えへへ、お待たせ史郎……」
「こ、これが……その……本命チョコ、なのか?」
「うん、そうだよ……史郎ちょっとがっかりしてる?」
「い、いや……ど、どんなのだって亜紀の愛情が籠ってればそれで十分だから……うん……」
「ふふ、それなら絶対に満足してもらえると思うよ……」
俺の取ってつけたような言葉に、しかし亜紀はむしろ自慢げに胸を張ってみせる。
そしてその中の一つを手に取ると、俺をまっすぐ見つめて……何故か顔を火照らせながら訪ねてきた。
「そ、それで……今、食べちゃう?」
「そ、そうだね……せっかく亜紀が作ってくれたんだから今全部食べちゃうよ……」
「ぜ、全部かぁ……ほ、本当にいいのかなぁ?」
もじもじしながら俺を意味ありげに見つめる亜紀。
「それってどういうこと?」
「それはねぇ……これは食べ方が特殊でぇ……というかお皿というか……だからつまり……あーんっ」
「っ!?」
そして亜紀は口を開いて見せ、自らの舌の上にチョコを乗せて俺に軽く頷きかけてくる。
その顔はもう耳まで真っ赤になっていて、だけど決して顔をそらそうとはしなかった。
「こ、これって……こ、このまま食べていいってことっ!?」
「んっ」
俺の質問に口を開いたまま、再度頷いてくれる亜紀。
(つ、つまり口移しで食べさせてくれるってことかっ!?)
ごくりと生唾を飲み込みながら亜紀を見つめるが、口の中でチョコがだんだん溶けていくのが分かった。
「い、いいんだな?」
「んぅ」
しつこくもう一度許可を取ると、俺は今度こそ覚悟を決めてゆっくりと顔を近づけて……唇を重ね合わせた。
そして舌を伸ばして亜紀の口内に忍び込ませると、溶けたチョコを舐めとり始める。
まず亜紀の舌の上に残った分を綺麗にしようと、何度もこすり合わせる。
「んんぅ……んふぅ……んっ」
「んぅ……」
(あ、亜紀の舌が……こ、擦れて……あぁ……き、気持ちいいっ!!)
唾液を絡めて亜紀の舌のざらつきを存分に堪能する。
更にその後も口内にチョコが残っていないか確認するために、あちこちを舐めて回る。
「んぅ……ふぅ……んふぅ……」
息が荒くなる亜紀が、肌を火照らせながら何かを堪えるように身悶えし始める。
その様が余りにも妖艶で、またもどかしくて……俺は自然と亜紀の身体を抱きかかえて動けないようにしていた。
亜紀もまた強く俺にしがみ付いてきて、互いの体温と激しい鼓動が感じ取れるほど密着し続けた。
「んぅ……んぅ……はぁ……はぁ……」
「ぷはぁ……はぁ……はぁ……」
ようやくチョコの味がしなくなって唇を離した時には、お互い顔が真っ赤でしかも汗までかくほど興奮してしまっていた。
「はぁ……はぁ……し、史郎……ど、どうだったチョコ……?」
「さ、最高だよ亜紀……こんな美味しいチョコ……いや食べ物は生まれて初めて食べたよ」
「えへへ、そうでしょ……だって愛情が籠ってるもん……それで、まだ……食べるの?」
そう言って亜紀はチョコが無数に入った袋を持ち上げて見せた。
(そのためにこんなに多く作ってくれたのか……あとこれだけ……キスして良いんだ……)
潤んだ瞳で、どこか期待を込めて俺を見つめる亜紀に向かいはっきりと頷いて見せた。
「ああ……まだまだ食べれるよ……食べ足りないよ亜紀……」
「うん……じゃあ好きなだけ……食べて、ね?」
そして亜紀が再度チョコを口に含ませたところで、俺はすかさず唇を押し付けてその味を堪能するのだった。
「んぅ……ふぅ……んん……し、史郎……す、好き……愛してる……んぅっ!!」
「ふぅ……んふぅ……あ、亜紀……大好きだ……愛してるぞ……んっ!!」
亜紀好感度+30
*****
亜紀好感度100以上
「わ、わかった史郎? 私が良いよって言ったら部屋に入ってきてね?」
「わ、わかったよ……」
学校から帰るなり亜紀の家に連れ込まれた俺は、言われるままに亜紀の部屋の前で待ち続けた。
(な、なんか大がかりだなぁ……そんなに凄いチョコをくれるのか?)
何やら期待半分不安半分な心境に、さらに誰も帰ってこない家に恋人と二人きりという状況が混じってドキドキが収まらない。
お陰でどうにもじっとしていられず、身体を動かして興奮を抑えようとするが中々上手く行かない。
「い、良いよ……入って……」
「お、おうっ!!」
だから許可が出ると同時に部屋へと飛び込んだ俺を、何故かベッドで布団をかぶっている亜紀が意味ありげに見つめてきていた。
「お、お待たせ……そ、それでそのちょ、チョコだけど……わ、私の机にあるでしょ……?」
「つ、机って……ええと、この……チョコホイップか?」
机の上にはかなり大きい三角形の袋に詰め込まれたチョコホイップが置かれていた。
(こ、これを舐めろってのか……こ、これは流石に……何考えてんだ亜紀は?)
流石に理解できず亜紀へ視線を向けると、当の本人は顔を真っ赤にして少し何か考え込んでいるようだった。
しかしすぐに吹っ切ったようで軽く頭を振ると、俺のほうをまっすぐ見つめて口を開いた。
「わ、私なりに史郎への愛情を示そうと思って考えてね……そ、それでこ、これぐらいしなきゃ駄目かなぁって思ってその……ひ、引かないでほしいんだけど……」
「あ……だ、大丈夫っ!! 亜紀の愛情が籠ってれば俺は何でも平気だからっ!! じゃ、じゃあ早速舐め……じゃなくて頂くから……」
「ち、違うのっ!! そ、そのまま食べるんじゃなくて…………そ、その盛り付けてから……」
「そ、そうかこれで終わりじゃないんだな……そ、それで何に盛り付ければ……?」
部屋の中を見回すが、それっぽい物はおろか食材すら見当たらなかった。
「そ、それはね……つ、つまりね…………こ、こういうことなのっ!!」
「っ!?」
亜紀は叫ぶと同時に、バサッと布団を遠くへ放り投げた。
そして現れた亜紀の姿は……一糸まとわぬ裸体だった。
反射的に胸や股間へと視線が向いてしまうが、それをわかっていながらも亜紀は一切隠そうとするどころかむしろ腕を背中に回して背中を軽く反らせて見せつけてくる。
「だ、だからその……わ、私の身体の好きなところにそれを塗って……な、舐めとるなり食べるなり好きにして……その……あぅぅ……」
言っていて自分でもとんでもないことをしていると自覚してしまったのだろう。
恥ずかしそうにうつむいてしまい、言葉尻も弱くなっていく。
「……し、史郎……な、何か言ってよぉ……そ、その……やっぱり普通にしたほうが……っ!?」
「……亜紀ぃいいっ!!」
「し、史郎っ!?」
亜紀が前言撤回しようと身体を隠そうとしたのを見た途端、俺の身体は弾かれたように動き出した。
よく見れば汚れても良いようにビニールが敷かれているベッドに縋りつくと、俺自身の上着も汚れないように脱ぎ捨てる。
そしてまっすぐ亜紀の顔を見つめて、一度だけ舌なめずりして見せた。
「こんな美味しそうなご馳走、頂かないわけないだろっ!! 食べさせてもらうぞ亜紀っ!!」
「う、うん……えへへ、よかったぁ史郎に引かれちゃったかと思ったよぉ」
「引くわけないだろっ!! だけど本当に良いんだな亜紀っ!?」
「良いよ……史郎にならどこを舐められても……好きなだけ召し上がってね?」
嬉しそうに呟いた亜紀を見て、まず俺はその唇にチョコホイップを塗ると舐めとる振りをして口づけするのだった。
「んぅ……はぁ……し、史郎……大好き」
「ああ、俺も愛してるぞ亜紀……ここも、そこも……全部愛してるぞ……っ」
「はぁん……んぅ……し、史郎そ、そこはそんなに激しく舐めちゃ……あんっ……」
亜紀好感度+50
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