史郎と亜紀⑬
「ご馳走様でした、とってもおいしかったです……食器は私が洗います」
「ありがとう亜紀ちゃん、けど気にしないでいいから遊んでおいで」
「で、でも……夕食まで頂いちゃって……何かしないと申し訳ないですよぉ」
「ふふふ、最近の亜紀ちゃんは本当にしっかりした良い子ねぇ……史郎も少しは見習いなさいよ」
「う、うるせえお袋……いいから行こうぜ亜紀……」
困ったように俺と俺のお袋の顔を交互に視線を投げかける亜紀。
その手を取って、さっさとこの場を後にしようとする。
(これ以上余計なことを言われたらたまったもんじゃない……)
最近亜紀は母親が夜勤に出ることも多くなったこともあり、俺の家に泊まりに来る回数が増えていた。
当然そうなると自然と俺の家族と接する機会も増えていくが、前と違って色々としっかりしだした亜紀はむしろ好感を抱かれている。
そして前以上に俺と親しくしているところも見られているわけで、そのためかこうして夕食を誘ったりと余計なお世話を焼いてくるようになったのだ。
「う、うん分かった……じゃあ失礼しますねおば様」
「どうせならお義母さんって呼んでくれてもいいのよ亜紀ちゃん」
「だ、だから余計なこと言うなお袋っ!!」
「あらぁ、亜紀ちゃんは良く泊まりに来るから私の子供みたいに思ってるだけだけどぉ……どうして史郎がムキになるのかしらぁ?」
「ぐっ!? う、うるさいんだよっ!! ほ、ほら行こう亜紀っ!!」
「ふぇぇっ!? あ、う、うんっ!!」
恥ずかしさをごまかそうとお袋に怒鳴りつつ、亜紀の手をひいて強引に俺の部屋まで避難する。
「わ、悪かったな亜紀……お袋が変なこと言って……」
「う、ううんっ!! 全然気にしてない……というか嬉しかったし……えへへ、私お義母さんに認めてもらえたのかなぁ~」
「い、いや亜紀……き、気が早くないか?」
「そうかなぁ……私ここの所毎日史郎と結婚したいなぁって考えてるけど……史郎はさぁ……わ、私とけ、結婚……とか考えたこと……ある?」
当たり前のように俺との結婚を考えていると言ったかと思うと、今度は恐る恐るという感じでこちらを上目遣いで見つめつつ尋ねてくる亜紀。
はっきり言って可愛すぎる。
こんな子にここまで想われて、結婚まで想像しない男子が居るだろうか。
「そ、そんなの…………俺も毎日考えてるよ」
だから俺も恥ずかしさを堪えて、正直に答えることにした。
(むしろ夢にまで見てるし……結婚式からその夜までばっちりと……)
「え、えへへ……そっかぁ……よかったぁ、私だけじゃなかったんだねぇ……」
「当たり前だろ……俺だって亜紀の事愛してるし……あ、亜紀も俺の事……愛してくれてる……よな?」
一応言葉で確認しておきたくて尋ねると、亜紀は照れくさそうに顔を背けながらもはっきりと頷いてくれた。
「う、うん……わ、私も史郎のこと……あ、愛してるよ……大好き……」
「そ、そうかっ!! よ、よかったぁ……」
「な、なにそれぇ~……ま、まさか私に嫌われてるとか思ってたのぉ?」
「いやそうじゃないけど……やっぱり言葉でちゃんと聞いたら安心してさ……」
「あぁ……そうだよねぇ、幼馴染で仲が良いから色々わかってるし伝わってると思うけど……こういうことはちゃんと口にしとかないと不安だし、変にすれ違っちゃったら大変だもんね……」
意味深に言いながら頷く亜紀を見て、俺もまた頷き返す。
実際に俺たちはそれで互いに間違った気の使い方をして、色々と取り返しのつかない事態に陥りかけていた気がする。
お陰で今では本音で話すことの……想いを口にすることの大切さをはっきりと認識できるようになった。
(そうだよな……やっぱり細かいことでも……当たり前になってることでも……ちゃんと口にするべきだよなぁ……)
何度となく思ったことを再度実感した俺は、だからこそ今のこの関係もはっきりさせたくて亜紀へと向き合った。
「なあ亜紀……少しだけ良いかな?」
「えっ? な、なぁに史郎?」
俺の真面目な様子にちょっと面食らった様子を見せながらも、しっかりと俺を正面から見返してくれる亜紀。
そんな愛おしい幼馴染を……想い人を恋人だと呼べるよう俺は改めて宣言することにした。
「今更だけどはっきりさせておきたくて……俺たちの関係について……だから聞いてくれ……」
「……うん、わかった聞くよ……聞かせて」
「ああ……俺は亜紀を愛してるっ!! 一人の女性として愛してるっ!! だから……俺と付き合ってくれっ!! 恋人になってほしいっ!!」
「っ!?」
まっすぐ亜紀の目を見つめて想いを口にする。
すると亜紀は顔中真っ赤に染めながらも、視線をそらすこともなく力強い眼差しで俺を見返してくれた。
「は、はい……不束ものですがどうかよろしくお願いします……」
そして肯定の返事をしてくれて、俺は何やら妙に疲れてへたり込みそうになってしまった。
「そ、そうか……よ、よかったぁ……」
「あ、当たり前だよ……わ、私だって史郎を愛してるもん……」
「ま、まあ分かってたけどやっぱりこういうのはちゃんとしとかないとな……」
「それもそうだね……ふふ、確かに今まで他の誰かに聞かれても何となく恋人って言いづらかったけど、これからは堂々と言えるもんねぇ……やっぱり史郎は凄いなぁ……私ももっともっと頑張るから……史郎の彼女に相応しい女の子になれるよう頑張るからね」
そう言って笑顔を見せてくれる亜紀は本当に可愛くて、こんな子が俺の彼女なのだと思うと胸の奥から喜びが湧き上がってくる。
「亜紀はもうとっくに俺には勿体ないぐらい魅力的な女の子だよ……こっちこそ亜紀に相応しい男になれるよう頑張るからさ……」
「そんなことないよぉ、史郎こそ私には素敵すぎる彼氏だよぉ……いつだってリードしてくれて、本当にしてほしいこと言ってほしいことを何でもしてくれて……頼りがいのある本当に格好いい男の子だよ」
「いや俺は俺のしたいことをしてるだけだし……」
「へぇ~、じゃあそれが私のしてほしいことと同じってことなんだ……ふふ、凄く相性良いんだね私たちって」
嬉しそうに呟いた亜紀がそっと俺に寄り添うようにくっついてくる。
その両肩を優しく抱き留めてあげると、亜紀は少しだけ潤ませた瞳で俺の顔を見上げてきた。
(な、なんかすごく……妖艶と言うか魅力的と言うか……やっぱり美人だし……うぅ、胸が痛いぐらいドキドキしてくる……)
俺の腕の中に納まった亜紀の顔を至近距離から眺めていると、どんどんと心臓が高鳴ってくる。
もうとても止まっていられなくて、俺は気持ちを吐き出すように口を動かした。
「あ、亜紀……俺……今物凄く興奮してて……」
「史郎……私も凄くドキドキしてる……」
「そ、そうか…………亜紀、俺……このままだと……亜紀ともっと……深く……」
自分でも何を言いたいのかわからず、上手く言葉が出てこない。
だけど亜紀はそんな俺を真剣な表情で見つめたまま、コクリと頷いてくれた。
「いいよ、史郎……好きな事して……いいよ……」
「あ、亜紀……ほ、本当に……いいのか……」
「うん、だって……史郎だもん……大好きな彼氏だもん……私そんな史郎の……か、彼女……だもん……」
「そ、そうか……わ、悪い……い、いやありがとう亜紀……愛してる……」
「私も愛してる……大好き……」
愛を呟きながらお互いに見つめ合うと、自然な動作でそっと……唇を重ね合わせた。
(ふぁ、ファーストキス……亜紀とキスしてる俺……っ!?)
生まれて初めて感じる感触に、頭の中が真っ白になる。
柔らかいことと亜紀の匂い、それだけしかわからないがそれだけで十分すぎるほどの快感を覚えた。
だからこの感触をいつまでも堪能しようと、俺は自然と瞼を閉じると時を忘れて亜紀とキスし続けた。
「……ん……ふぅ」
「……はぁはぁ」
どれだけし続けたか、呼吸が苦しくなって名残を惜しみながら唇を離した俺たちは改めてお互いを見つめ合った。
潤んだ瞳で俺を見つめる亜紀はとてつもなく……魅力的だった。
「亜紀……愛してる」
「うん……わかってる……私も愛してるから……」
再度愛を呟き合うと、俺は亜紀の身体を抱き寄せたまま近くにある自分のベッドへと誘導する。
「亜紀、俺……」
「史郎、私……」
「史郎っ!! 亜紀ちゃんっ!! お風呂湧いたわよっ!!」
「「っ!?」」
ドアがノックされて、お袋が大声を上げながら部屋に入ってきた。
咄嗟に身体を離すと、そんな俺たちに呆れた視線を投げかけてくるお袋。
「はいはい、今更隠さなくていいから……あんな大声で告白大会してたら丸聞こえだからね」
「なぁっ!? き、聞いてんじゃねぇよお袋っ!!」
「聞こえるような声出しといてよく言うわ……亜紀ちゃん、こんな駄目息子だけど仲良くしてやってね」
「は、はい……うぅ……大声出して済みませぇん……」
「いいのいいの……それよりさっさとお風呂済ませちゃいなさい、そしたらもうおばさんは邪魔しないから」
「う、うっせぇっ!! 分かったからあっち行けよっ!!」
色んな感情を叩きつけるように怒鳴りつけてやるが、お袋は全く気にした様子もなく平然と立ち去って行った。
「はぁ……な、なんかごめんな亜紀……」
「う、ううんいいの……いいんだけど……はぅ……」
何やら妙に疲れてしまって、俺たちは床に崩れ落ちてしまうのであった。。
「と、とにかくお風呂入ろっか……史郎から入る?」
「いや亜紀からでいいよ……そ、それでその後は……」
「きょ、今日はもう……というかやっぱり家に誰もいないときにしようよ……と、途中で見られたら……恥ずかしいもん……」
「わ、わかった……じゃ、じゃあ続きはその時ってことで……」
「う、うん……ご、ごめんね史郎……」
(ま、まあ仕方ないよなぁ……ああ、せっかく物凄くいい雰囲気だったのにぃいいいっ!! お袋の馬鹿ぁああああっ!!)
亜紀好感度+30
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