★亜紀と史郎⑨
「ご、ごめんね史郎……もう少しだけ待ってて……」
「大丈夫だよ、まだ全然時間に余裕はあるから……何ならそっち行って手伝……」
「い、いいからっ!! こ、これぐらい一人でやれるからっ!! じゃ、じゃあ外で待っててねっ!!」
そう言い切ると亜紀は顔を覗かせようともせずさっさと窓を閉めてしまう。
少し物悲しさを感じてしまうが、これも成長した証なのだから仕方がない。
(あれから亜紀はどんどんしっかりしてきてる……朝も自力で起きてるし部屋も汚れてない……格好だって前みたいに隙が無くて……ちょっと残念……)
何でも俺に失望されたくないだとか刺激したくないとかで、だらしないところは一切見せないようにしているのだ。
今だって寝ぐせが治り切ってないからと、窓こそ開けて会話はしてくれたけど結局顔は見せてくれなかった。
おかげで前は頻繁にあったラッキースケベ的な目には殆ど会えなくなって……意外とショックを受けている自分に気が付いた。
(俺ってスケベだったんだなぁ……い、いやでも好きな子のそーいうところを見たくない奴が居るわけないから普通……だよな?)
尤もこんなのは些細なことだ、亜紀が頑張っているほうがずっと喜ばしいのだから。
まして努力している理由の殆どが俺の為だというのだから、文句などつけようがないのだ。
だから素直に俺は亜紀に言われた通り、外に出て彼女が出てくるのを待った。
「い、行ってきまぁすっ!! お、おはよう史郎っ!!」
果たしてそれほど待たずに出てきた亜紀は、俺を見るなり満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
それを見ているだけで他の何もかもがどうでもよくなって、俺もまた笑顔で亜紀の元へ駆け寄った。
「おはよう亜紀、今日も可愛いね」
「あうっ!? し、史郎ったらそんな毎日同じこと言わないでよっ!! は、恥ずかしいってばぁ……」
「だって本当に可愛いからな、寝ぐせもないし制服もしっかり着こなしてるし……少し前までとはまるで違うからさ」
かつての亜紀と言えば、欠伸をしながら前日に脱いだ制服をそのまま着ている感じで全体的によれよれだった。
しかし今は、顔こそ赤いが清涼感溢れる姿で俺のことをしっかりと見つめているのだ。
「だ、だって……史郎に嫌われたくないもん……」
「っ!?」
おまけにこういうことを亜紀はぽつりとつぶやくのだ、その破壊力はシャレにならない。
(髪の毛が風に靡いて凄く絵になる……いい匂いも……早めに起きてシャワーでも浴びてるんじゃないかこれ……)
だからどうしても顔を合わせるたびに褒めてしまうが、本人はそのたびに本当に恥ずかしそうにうつ向いてしまう。
しかし口元はとても緩み切っていることから、多分本気で嫌がっているわけではないのだろう。
「……そういう亜紀だってそんな言い方反則だよ……ますます好きになっちゃうだろ」
「え、えへへ……史郎ったらお顔真っ赤だよぉ……」
「亜紀だって真っ赤じゃないか……お互い様だって……そ、それよりそろそろ行こう」
「そ、そうだね……じゃ、じゃあ……い、いつもみたいに……手……」
「あ、ああ……」
そっと差し出してきた亜紀の手に、自分の手を重ねて指を絡めて握り合う。
(やっぱり亜紀の手はすべすべで、柔らかいし……それに暖かい……凄く気持ちいい……)
少しの間亜紀の手の感触を堪能する俺……毎日こうしているが全く飽きる気配はない。
亜紀もまた俺の武骨な手に想うところがあるのか、握る力を入れたり指をもぞもぞと動かしたりしながらうっとりと目を閉じている。
ずっとこうしていたい気持ちがあるがそういうわけにもいかない。
「…………い、行こうか?」
「う、うん」
何とか切り出すと、俺たちは手を握り合ったままゆっくりと……本当に時間をかけて歩調を合わせながら学校へと向かった。
遅刻する心配は全くない、そもそも亜紀が早起きするようになったのはこの時間を出来るだけ長く堪能するためなのだから。
(前は遅刻寸前で走ってばかりだったし……学校までの道のりが無駄に思えて仕方なかったけど……今は短く感じて仕方がない……)
「……」
「……」
無言で歩きながらも、自然と身体を寄せ合い肩と肩が触れ合うほどの距離に近づく。
もう俺も亜紀も顔どころか指の先まで真っ赤だ。
心臓も物凄くドキドキしてて、だけどどうしようもないぐらい心地よかった。
(ただの通学がこんなに幸せに感じるなんて……)
「ふふ……」
「どうしたの史郎?」
ついつい笑ってしまった俺を、亜紀が不思議そうに見つめてくる。
「いや、何でもないんだ……それより亜紀、テストの結果はどうだったんだ?」
「それがね、今までで一番よかったんだぁっ!! お母さんだけじゃなくて先生もびっくりしてたよっ!!」
自慢げに微笑む亜紀、あれからほぼ徹夜で勉強しただけのことはあったようだ。
(眠気なんか亜紀の顔見てたら吹っ飛んだし、おかげで俺もそれなりの点とれたし……まあよかったわ……)
「そっか……力になれてよかった」
「うん、本当にありがとう史郎……おかげで少しだけどお小遣い貰えたし……で、デート……い、いけそうだよ」
「そ、そうかっ!! じゃ、じゃあ次の休日に早速デートしようっ!!」
勢い付いて大声で叫んでしまう俺、当然通学路と言うこともあって周囲の視線を集めてしまう。
「し、史郎っ!! は、恥ずかしいよぉ……」
「す、すまん……亜紀と初デートできると思ったら嬉しすぎてつい……」
「も、もぉ……史郎ったら私のこと好きすぎるんだからぁ……えへへ、もぉ困ったさんだぁ……」
「わ、悪い……そ、それでデートだけど……」
「もちろんOKだよ、私だって史郎とデートしたいもんっ!!」
力強くはっきりと頷いてくれる亜紀。
(よ、よっしゃぁああああっ!!)
それだけで訳の分からない喜びが湧き上がってきて、またしても叫びたい衝動にかられたが何とか抑えた。
「あ、ありがとう亜紀……すっごく嬉しいよ俺……」
「私もすごく楽しみ……今日から眠れないかも……」
「気が早くないか……まあ俺も最近眠れてないけど……」
「そーなんだぁ……そ、それって私のことを思ってドキドキしちゃってるとかぁ?」
上目遣いで、少しだけ悪戯っ子のように見つめてくる亜紀に俺は……
→①素直に答えることにした。
②本音を告げることにした。
「そ、そうだよ……亜紀のこと考えてるとワクワクと言うかドキドキと言うか……興奮して眠れないんだ」
「もぉ、史郎ったら本当に私にメロメロなんだねぇ……それなら声かけてくれていいんだよ?」
「そんな事したら余計に眠れなくなりそうなんだが……それに亜紀まで巻き込んだら悪いだろ?」
「ふふ、大丈夫だよ……それに私も、夜中史郎のこと考えてるから、むしろまた前みたいに一緒に寝たいなぁって思ってるんだからね」
「そ、そうなのかっ!? じゃ、じゃあまた泊まりに来るかっ!!」
またしても大声を出してしまい、周囲の注目を集めてしまう。
しかも今度は内容が内容だったので……どうにも誤解しているような視線を向けられてしまった。
そのため亜紀は、今度こそ少し怒ったように……それでも口元には消しきれない笑みを浮かべたまま俺に怒鳴るのだった。
「し、史郎の馬鹿ぁっ!! こ、こんなところでそーいう言い方しないでよぉっ!!」
「ご、ごめん亜紀っ!!」
「ま、全くぅ……」
「……け、けどここじゃなきゃしても……誘っても良いんだよな?」
「…………知らないもん」
亜紀好感度+1
*****
「あ、ありがとう亜紀……すっごく嬉しいよ俺……」
「私もすごく楽しみ……今日から眠れないかも……」
「気が早くないか……まあ俺も最近眠れてないけど……」
「そーなんだぁ……そ、それって私のことを思ってドキドキしちゃってるとかぁ?」
上目遣いで、少しだけ悪戯っ子のように見つめてくる亜紀に俺は……
①素直に答えることにした。
→②本音を告げることにした。
「あ、ああ……亜紀のこと考えてたらドキドキと言うかムラムラ……な、何でもないっ!!」
ついつい口が滑ってしまい、慌てて抑えたが後の祭りだ。
亜紀は一瞬目を見開いたかと思うと、露骨に呆れたようなまなざしを向けてきた。
「史郎はさぁ……意外にスケベなんだねぇ……」
「うぅ……す、すまん……だけど本当に好きだから……色々将来のこととか想像してたらそう言う妄想につながっちゃうんだよ……」
「そ、そう言う妄想って……なんでそうなるのよぉっ!?」
「だ、だから結婚してキスしてって……そ、それからって考えたらその……すみません」
何だか申し訳なくて頭を下げる俺、すると亜紀はため息をついて見せた。
「まあ史郎のことは信じてるし……そ、そういう妄想されてもい、嫌じゃないけど……何度も言うけどまだ駄目だからね?」
「わ、わかってるよ……亜紀がその気になるまで待つから……」
「そうだよ、全く……だけど結婚の妄想からそんなことまで考えるなんて……どこまで私たちって似……な、何でも無いっ!?」
「えっ!? あ、亜紀今なんてっ!?」
「な、何でも無いっ!! そ、そんなこと良いから早く学校行くよっ!!」
自分の発言を恥じるように亜紀は首を振ったかと思うと、俺の手を強く引いて学校に向かって駆け出していくのだった。
「あ、亜紀っ!? ちょ、ちょっと引っ張らないでっ!?」
「い、いいのっ!! とにかく学校行くのぉっ!!」
亜紀好感度+5
【読者の皆様にお願いがあります】
この作品を読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。
ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。
作者は単純なのでとても喜びます。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をチェックすればできます。
よろしくお願いいたします。




