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史郎と亜紀⑧

「なんだ、亜紀ってゲームそんな好きじゃなかったんだな」

「うん、幼稚園ぐらいの時は好きだったけど今はそんなに……」

「そっか……ごめんな、それなのに何度も付き合わせて……辛かっただろ……」


 俺の部屋へ移動した俺たちはベッドと床に敷いた布団に別れて横になると、いつもは窓越しでしているように眠くなるまでのおしゃべりを始めていた。

 尤も普段は取り留めのないどうでもいい話題だが、今はお互いのことをもっと知りたいという思いから隠していたことの告白会のようになってしまっている。


(確かに言われてみれば亜紀がゲームの勝敗でムキになったりしたことないもんなぁ……はぁ……本当に俺は馬鹿だなぁ……)


 好きな子にチヤホヤもてはやされるのが気持ち良くて全く気付けなかった自分が恥ずかしい。


「い、いや辛かったってわけじゃないの……史郎がさ、得意げに笑顔でゲームしてるところ見てるのは好きだったから……」

「うぅ……だ、だけどすまん……自慢げに何度も同じゲームやったりやらせたりしたもんな俺……」

「あ、あはは……で、デスガーヤだっけ? 全く知らないゲームなのにそれのレベルが四桁言ったとかダメージが億行ったぁとか逐一自慢されるのはきつかったかなぁ……」

「ほ、本当にすまん……いや亜紀に褒められるのが嬉しくてつい……いやマジでごめん……」

「まあ私もさぁ……あの……お母さんみたいになりたくなかったからって変に持ち上げてたところあるし……それにさっきも言ったけど史郎が楽しそうにしてるのを見るのは嫌じゃなかったから黙ってたところもあるし……お互い様だね」


 しかし亜紀はそう言って俺に微笑んでくれるのだ。

 愛想を付かされててもおかしくないのに……心の底からありがたいと思う。


(いや本当に今気づけて……こうして本音で会話してよかったわ……)


 鈍い俺のことだ、今回のことがなければいつまでも気づかないで亜紀に興味がないゲームを付き合わせ続けていただろう。

 そうなれば恐らく亜紀自身も気づかないうちに少しずつストレスが溜まって行って……いつかは最悪の形で爆発していたかもしれない。


「じゃ、じゃあ……次からは亜紀のしたい事してくれていいから……というより亜紀の好きな事って何なんだ?」

「えぇ~、史郎はそんなことも知らないのぉ~?」

「うぅ……す、すまん……いや本当に駄目な奴だな俺……亜紀のこと好きなのに何もわからないで……」


 これで何でも知っているつもりで、上手く距離感を調整していたつもりだったのだ。

 余りにも愚かな自分に自己嫌悪さえ感じてしまう。


「う、嘘だからねっ!! 今の冗談だからっ!! むしろ私が勝手に気遣って……気遣わなきゃって思い込んでて表に出さなかっただけだから……はぁ……これも変だよねぇ……史郎のこと見下してるみたいで……私って本当にお馬鹿だったんだなぁ……ごめんね史郎……」

「い、いや見下されて当然だと思うぞ俺……好きな子のことなんも知らないのにこの距離感がベストだと思い込んで、果ては保護者気取りで偉そうにあれやれこれやれって……馬鹿なのは俺の方だって……」

「ち、違うよっ!! 史郎はこうして一歩踏み込んでくれたし、隠してたことだってえ、エッチな……なんて言えるわけないし……細かく注意してたのも私を想ってのことだって今ならわかるし……やっぱりお馬鹿なのは私の方だよぉ……」

「それは違うっ!! 亜紀は亜紀なりに必死で……」

「違うからぁっ!! 凄いのは史郎の方で私なんて……」


 自分の情けなさを謝るがそのたびに、亜紀も申し訳なさそうに謝罪してくる。

 おかげでしばらくの間、お互いに謝罪し合うことが続いてしまう。


「うぅ……もぉ、史郎ったら頑固なんだからぁ……」

「あ、亜紀だってこんなにしつこく……もっと面倒くさがりだと思ってたよ……」

「うぅ……そ、それ自体は本当なの……で、でもこれからは色々頑張るよ……掃除とか……史郎を刺激しないためにもね」


 そう言って亜紀は悪戯っ子のように笑って見せた。


「だ、大丈夫だから……が、我慢できるから……今だってこうしてちゃんと抑えてるだろ?」

「それって逆に言うと抑えてなきゃいけないぐらい興奮してるってことなんじゃないのぉ?」

「……いや、まあ……好きな子がすぐ近くで寝てるから思うところはありますよ……はい……」

「もぉ、史郎って意外にえ、エッチ……なんだねぇ」

「こ、こればかりは勘弁してくれ……俺だって色々と覚えたばか……な、何でもない」


 またしても口が滑りそうになって慌てて抑えた。

 しかし既に遅かったようで、亜紀はまた顔を赤くしながら……さらに笑みを深くして俺を見つめてきた。


「い、色々って……何のことぉ?」

「な、何でもないからっ!!」

「えぇ~、隠し事はなしにしようよぉ……史郎のことなら何でも知りたいなぁ~」

「あ、亜紀……分かってて言ってるだろ?」

「えぇ~? 何のことぉ~? それよりぃ続き聞かせてよぉ続きぃ? けーべつしたりしないからぁ~」


(ぜ、絶対分かってて言ってるなこいつ……顔真っ赤なくせに嬉しそうにしちゃってさぁ……可愛いな本当……凄く可愛い……)


 今までも亜紀のことは好きだった、だけど今はもっともっと……好きになっている。


「あ、あのなぁ……そ、それより話を戻そうぜ……亜紀は何がしたいんだ?」

「あぁ~話反らそうとしてぇ~ずるいんだぁ~」

「さ、さっきから俺ばっかり告白してるだろっ!! そろそろ亜紀の番だよっ!!」

「ちぇ……あっ……じゃ、じゃぁそれを聞きたかったらぁ……こ、こっち……来て?」

「っ!?」


 亜紀が身体の上にかかっている毛布を持ち上げて、俺に入ってくるよう手招きしてくる。

 その顔は耳まで真っ赤に火照っているが、やはり笑顔のままだった。


「ど、どうしたのぉ? 史郎は我慢できるんでしょぉ? 一緒に寝て証明してみせてよぉ~」

「あ、亜紀……ほ、本当に……いいのか?」

「いいよぉ~、史郎のこと信じてるしぃ……それにちゃぁんとしたわけもあるの……だから、ね?」

「わ、わかったよ……」


 愛する女性にここまで誘われて断れる男がいるだろうか。

 少なくとも俺はもう逆らう気などおこらず、おずおずと亜紀の隣へと移動して横になった。

 元々一人用のベッドと言うこともあって、どうしても亜紀から距離を置こうとすると身体がはみ出そうになる。


(も、もう少し奥に……けどこれ以上行ったら亜紀とくっついて……っ!?)


 どうするべきか悩んでいるうちに、亜紀の方から俺にくっついてきた。

 まるで人を抱き枕にするかのように腕と脚を絡ませてきて……頭の中が真っ白になる。


「あ、あ、亜紀っ!? な、何をっ!?」

「え、えへへ……わ、私の好きなことは……こうして史郎と一緒に居ること……隣で……見てることなんだぁ……」


 まっすぐ俺を見つめてくる亜紀。

 横になったことで至近距離で見た亜紀の顔は……やっぱりとても素敵で、俺なんかにはとても釣り合わない高嶺の華に思えてしまう。


(やっぱり亜紀は……美人だなぁ……性格も可愛いし……俺には勿体ないぐらいの女の子だ……)


「あ、後ね……これはさっきからだけど……し、史郎と抱き合ってるのが凄く幸せだった……これが多分私の一番好きな事だよ」

「……亜紀」


 そんな素敵な子が俺への好意をはっきりと示してくれて、俺は本当に喜びを感じてしまう。

 だからその想いに応えようと、俺は亜紀の頭の下に腕を回して……優しく身体を抱きかかえた。

 当然お互いに抱き合うことで身体が密着したが、俺は性欲よりも安らぎを感じていた。


「あっ……えへへ、腕枕されちゃった……凄く逞しい……やっぱり男の子なんだねぇ……」

「亜紀は細くて折れちゃいそうだ……やっぱり女の子なんだな……」

「当たり前だよぉ……これでもちゃんとスタイルとか体重には気を付けてるんだからぁ……」

「その割にはお菓子とかよく食べてるよな……本当に大丈夫なのかぁ?」

「し、史郎の馬鹿ぁ~……もう知らないっ!!」


 俺の腕の中で膨れる亜紀……前はこうなると機嫌を取ろうと必死になっていた。

 だけど今はその姿すら愛おしい。


「ふふ……亜紀……愛してる……俺、もっともっと亜紀に相応しい男になれるよう頑張るから……」

「そ、そーいうのずるいんだからねぇ……そんなこと言われたら何でも許しちゃうじゃん……私も史郎のこと大好き……うん、私ももっと史郎に相応しい女の子になれるよう頑張る……」

「いや亜紀はもう十分魅了的だから……これ以上素敵になられたら困るんだが……」

「も、もぉ……し、史郎って意外にそう言う恥ずかしいこと言えちゃうんだねぇ……しかも意外と格好良いし……ずるい……」

「そんなことないと思うけど……格好だってあれだし……そうだ、今度の休みは洋服でも買いに行こうか?」


 亜紀はともかく俺は今まで見た目だとか気にしたことはなかった。

 しかしこんな可愛い子の隣に立つためには、周りから変なことを言われないためにも少しは良い格好したほうがいいだろう。


「そ、それって……で、デート……ってこと?」

「……亜紀が嫌じゃなきゃデートってことで」

「い、嫌なわけないよぉ……で、でも私デートする服がないから先に買いに……ああ、でもお小遣いが……」

「亜紀の洋服代なら俺が出すよ……だからデートしよう……したいんだ」


 言いながら頭の中でお小遣いの計算をしてみたが、女物の洋服の値段がよくわからない。


(まあゲーム代を節約すれば何とか……すまんな亮、今度のゲームは付き合ってやれないかもしれん……)


「あぅ……わ、私も史郎とデートしたいけど奢りは……や、やっぱりお小遣いが出るまで……あっ!! そ、そうだ史郎っ!! 今から勉強教えてよっ!!」

「えぇっ!?」


 急に布団を跳ね除けて起き上がる亜紀。


「お母さんね、私が色々と怠けてるから最近お小遣いくれないんだ……け、けど今回テストで平均点を超えた教科があればまたくれるって言ってたから……」

「そ、そうだったのか……け、けど今から勉強って言っても……」

「い、一教科だけでいいからっ!! それだけ平均点超えれば……私も史郎とデートしたいし……そのための洋服は自分で買いたいの……だ、だからお願いっ!!」


 頭を下げて我儘を言う亜紀。

 だけど今回の我儘はいつもとは違って、怠けるためのものではなくしっかりとした理由あってのものだ。

 おまけにそれが俺とのデートの為ともなれば、断る必要など何もなかった。


(むしろ俺の為ってだけであんなに嫌がってた勉強をやる気になってくれるなんて……)


 それだけで嬉しくて、俺も起き上がると笑顔で亜紀に頷きかけるのだった。


「わかったよ……俺も亜紀に付き合うよ」

「ありがとう史郎っ!! よぉし、平均点取って史郎とデートするぞぉっ!!」

「その意気だ、じゃあ何の教科を……亜紀が一番得意な教科ってなんだ?」

「今のところ一番高得点取ってるのは保健体い……な、何でもいいよぉっ!?」

「そ、そうか……じゃ、じゃあ保健体育以外だな……」

「う、うん…………そ、そっちの勉強は……も、もう少し心の準備……な、何でも無い始めよぉっ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうしよう。亜紀がとても可愛い
[良い点] 更新お疲れ様です! 79話との対比が光りますね。 [一言] >(いや本当に今気づけて……こうして本音で会話してよかったわ……) >(どんなに仲が良くても別の人生を生きてるんだ……ちゃん…
2021/02/14 12:13 退会済み
管理
[一言] その時歴史が動いた感が凄い! ifルートなんですけれども!
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