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起死回生の嫉妬

掲載日:2019/08/27

 

 潮の香りと血の臭いが漂うなか荒い呼吸を繰り返し、一度体を落ち着かせようと一気に空気を吸い込んだ。ゆっくりと細く長く息を吐き出して、俺は敵に強い眼差しを向ける。


「ナニモンだ、テメェ」


「ふふ、名乗るほどの者でもないさ」


 随分と落ち着いた呼吸だ。何合打ち合おうと、一向に突破口が見えない。剣技では、確実に負けている。


「いつからだ」


 黒のコートに身を包んだヤツが、わざとらしく首を傾げた。


「いつから俺たちを狙っていた!?」


 周りには生き絶えた仲間たちがいる。全員、俺の大切な子分だ。荒々しくも優しくあり、俺は子分を助け、子分は俺を助けてきた。

 なのに、こいつは!

 着岸したときには、もう仲間が一人殺されていた。

 10秒後には二人が殺された。

 1分後には、俺の首を狙っていた。


「最初からだよ。そう、最初からいたさ。君の船にね」


「そんなわけねぇ! あの船に隠れられるところなんてねぇんだ!」


「本当に――そう思うのかい?」


 話していても埒があかない。

 気合いを入れ直し、刃こぼれしてしまった刀を構えた。強い踏み込みで、瞬時にヤツの胴に斬りかかる。


「甘いね」


 一言、ヤツはそう言った。

 甲高い音が響く。片手で持っている、もはやクズ鉄と呼んでもいいほど使われすぎた刀で弾かれた。左手が離れ、右手で刀を捉える。

 ガラ空きになった胸に、ヤツが踏み込んだ。


「ぐっ、くそ、がぁ!!」


 自然と右手から刀が離れ、左手より早く、ヤツの刀の軌道に手刀で反撃する。

 右手が斬り落とされ、鮮血をぶちまけた。

 熱い。痛い。吹き飛んだ右手を見て、左手が疼く。

 左手より遠かった右手が、防御に間に合う道理はなかった。


 まるで嫉妬のようだ。

 燃え盛る炎が、左手に宿っている。


 すぐ下にあった刀を拾う。

 奇跡的にそれは綺麗で、流線が美しかった。

 右手は添えるだけ。メインは左手。刀を片手で振るなら――



 ヤツの間合いに入る。

 すべてがスローになった。この感覚、久しぶりだ。ゾーンに入っている。


「――いけるッ!!」


 ヤツの反撃の刀の軌跡が見えた。

 斬り結ぶより、回避を選ぶ。次の一手で、こいつを殺す……!


 後ろに回り込んで、俺は刀を水平に構えた。やけにゆったりとした動作で、介錯するように。

 ヤツの首を斬った。

 抵抗がなかった。

 それだけ、うまく刀が入ったのだ。


「……くそっ」


 もっと早くに倒せていれば。

 船に乗り込む前に、気付いていれば。



 こんなにも仲間を、失わなかった。


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