起死回生の嫉妬
潮の香りと血の臭いが漂うなか荒い呼吸を繰り返し、一度体を落ち着かせようと一気に空気を吸い込んだ。ゆっくりと細く長く息を吐き出して、俺は敵に強い眼差しを向ける。
「ナニモンだ、テメェ」
「ふふ、名乗るほどの者でもないさ」
随分と落ち着いた呼吸だ。何合打ち合おうと、一向に突破口が見えない。剣技では、確実に負けている。
「いつからだ」
黒のコートに身を包んだヤツが、わざとらしく首を傾げた。
「いつから俺たちを狙っていた!?」
周りには生き絶えた仲間たちがいる。全員、俺の大切な子分だ。荒々しくも優しくあり、俺は子分を助け、子分は俺を助けてきた。
なのに、こいつは!
着岸したときには、もう仲間が一人殺されていた。
10秒後には二人が殺された。
1分後には、俺の首を狙っていた。
「最初からだよ。そう、最初からいたさ。君の船にね」
「そんなわけねぇ! あの船に隠れられるところなんてねぇんだ!」
「本当に――そう思うのかい?」
話していても埒があかない。
気合いを入れ直し、刃こぼれしてしまった刀を構えた。強い踏み込みで、瞬時にヤツの胴に斬りかかる。
「甘いね」
一言、ヤツはそう言った。
甲高い音が響く。片手で持っている、もはやクズ鉄と呼んでもいいほど使われすぎた刀で弾かれた。左手が離れ、右手で刀を捉える。
ガラ空きになった胸に、ヤツが踏み込んだ。
「ぐっ、くそ、がぁ!!」
自然と右手から刀が離れ、左手より早く、ヤツの刀の軌道に手刀で反撃する。
右手が斬り落とされ、鮮血をぶちまけた。
熱い。痛い。吹き飛んだ右手を見て、左手が疼く。
左手より遠かった右手が、防御に間に合う道理はなかった。
まるで嫉妬のようだ。
燃え盛る炎が、左手に宿っている。
すぐ下にあった刀を拾う。
奇跡的にそれは綺麗で、流線が美しかった。
右手は添えるだけ。メインは左手。刀を片手で振るなら――
ヤツの間合いに入る。
すべてがスローになった。この感覚、久しぶりだ。ゾーンに入っている。
「――いけるッ!!」
ヤツの反撃の刀の軌跡が見えた。
斬り結ぶより、回避を選ぶ。次の一手で、こいつを殺す……!
後ろに回り込んで、俺は刀を水平に構えた。やけにゆったりとした動作で、介錯するように。
ヤツの首を斬った。
抵抗がなかった。
それだけ、うまく刀が入ったのだ。
「……くそっ」
もっと早くに倒せていれば。
船に乗り込む前に、気付いていれば。
こんなにも仲間を、失わなかった。




