7.オルタ姉さんと
「シン、そっちは終わったのかい?」
「うん。水汲みは僕がやるよ。桶借りてくね。この甕一杯で良いのかな?」
「ああ、助かるよ。じゃあ、湯を沸かしちまおう。こっちは飲用だから混ぜないでおくれよ」
「了解。ちょっと行って来るね」
天秤棒に桶を付けて、共同井戸に向かう。釣瓶を引いて2つの桶一杯まで水を汲む。これを2往復して甕が一杯になる。天秤棒の扱いは結構難しい。
でもエルフになってからバランス感覚が良くなったのか苦労しなかった。この辺は恩恵に預かってると思う。素のままだったらこれも終わってたかもしれないね。あと薪も集めて来よう。
背負子があるのでそいつを借りて、薪を集めては薪置き場に積んで行く。これはちょっと時間が掛った。結構減っていたんだ。
10往復もすればそれなりに溜って来たので、今日のところは勘弁してやる。泊めて貰うんだからこのくらいは当たり前だ。
体力だけは上がっているから何とかなっているけど、ほんと不味い状況だ。井戸で汗を流してから戻ってくると、オルタ姉さんが湯を沸かし終わって夕食作りをしていた。
「こっちは終わったよ。薪は明日以降も集めておくから、あそこ一杯で大丈夫なの?」
「ああ、悪いね。そうだね、あそこ一杯で一冬保つね。ちょいと待ってな。夕飯はすぐ出来るから」
言われた通り、椅子に腰かけて待つ。オルタ姉さんの家はやや大きめだが、そのほとんどが薬師の工房だ。居住スペース自体は限られている。
居間兼台所、寝室の他に小さいけどもう一部屋あるんだ。僕を寝泊まりさせてくれる処はそこだと思う。この世界の住居は、土間に椅子やベッドを直置きなんだ。
あ、いや、この村がそうなだけで街は床があるかもしれない。ここは仮の開拓村で本当の拠点場所までの道を作っている最中なんだった。
直ぐに取り壊せて移動できる形態なのかもしれない。オルタ姉さんが料理をしているのを眺めながらそんな事を思っていた。
「さあ、出来たよ。たんとお食べ」
「いいの? 薬の手伝いだけじゃ足が出ちゃうんじゃない?」
「構わないよ。あたしはそこそこ暮らしていけてるからね。あたしが生活に困って出て行く事になったらそれこそ村が困るからね。優遇されてるのさ村唯一の薬師としてね」
本当は村にいるより街にいた方が薬師としては安定するらしい。旦那さんと二人でこの開拓事業に参加したのは、故人である旦那さんの意向だったそうだ。
旦那さんは元は猟師で元々いた場所の獲物が薄くなったことで生活が苦しくなった。そこで新天地を目指したんだけど最初の年であっさり流行り病で亡くなったんだって。
旦那さんが無くなったことでここに居る意味はオルタ姉さんには無くなったんだけど、薬師が姉さんしかいなかった事で村長に頼まれたらしい。
「そうだ、シンの使っているそのナイフ、ウォルトに借りてるんだって?」
「うん。野鳥一羽が報酬だよ。でも僕が報酬を支払えるとは村長も思っていないかもね」
「ふーん。でもそんなちゃちいナイフじゃ困るだろう。これを使いな。死んだ亭主の形見なんだけど結構いいナイフだろ?」
「え? そんな大事な物使えないよ」
僕がフルフルと首と手を振って遠慮をしていると。姉さんが屈託なく笑ってナイフを押し付けてくる。
「構やしないさ。持ってたって役に立たないんだ。使った方が何ぼかましだろうよ。まあ、他の物は大抵売っちまったんだけどね」
そう言ってからからと笑う。どんな顔をしていいか僕には分からなかった。大ぶりのナイフは使い込んであり、良く手入れがしてあった。
「そんな情けない顔をおしで無いよ。亭主が死んでもう大分経つから、ちょうどいい機会さ。あたしだってサッサと別の亭主を探したって良かったんだけど流行り病だったからね。薬師としては忸怩たる想いってのが有ったんだよ」
それからは二人で会話をしながら食事をした。食事も終わって、薬草茶を飲んだら寝るまでの間薬作りだ。傷薬用の薬草を薬研で細かくして練りものにする。
「ふーん。僕が知ってるのは消炎効果のある薬草も混ぜるんだ。その後煎じてから練りものにしていたね」
「……それはエルフの薬かい? 理に適ってるね。あたしゃ別々に作っていたよ。でも同時に使うものだから混ぜてもいいのか……。それを煎じるのは薬効成分だけ抽出してるのか」
えーと、そんなに言われても、知識の泉がそう言ってるんであって僕じゃないんだよね。不味かったかな? 薬作りも一段落してもう寝ようかってなった。
「じゃあ、シンはそっちを使いな。あんたも若いから夜這いでもする根性があるなら大歓迎だからね」
なんてことをおっしゃりながら僕の股間をぐっと握るのは勘弁して下さい。ナイーブな少年の心は傷つき易いのです。
あっははと笑いながら自室へと消えて行った。僕も自分にあてがわれた部屋に入った。もちろん僕は先程の事を考えているさ。そう言う年頃だもの。前世では捨てられてない。まあこれは当然と言えば当然だな。
だけどこれはチャンスなのか? ちょっとしたジョークなのではと言う疑いが頭を過ぎってしょうがない。行くべきか行かざるべきか。
僕は部屋の中でウロウロと歩き回り悩みに悩んでいる。姉さんなら美人だしぜひお願いしたい。だけど……いいのかな~。
いつまでもグルグルと部屋の中を歩き回っていると、バン! 突然部屋の扉が開いたかと思うとオルタ姉さんが仁王立ちで立っていた。
「いつまでウダウダ歩き回ってんだい! サッサと来るなら来な!」
そう言ったかと思うと僕の腕を掴んで自分の部屋に引き摺って行った。まあ、その後の事は多くを語るまい。僕は若い血潮を存分に姉さんにぶちまけて、姐さんもその貪欲な欲望で飲みこんで行った。
そして僕は大人の階段を上ったのさ。




