29.治療
ポイズングリズリーを仕留めた勢いのまま、リュカとキャララが走り寄って来る。俺は無様に……芋虫さながら、もぞもぞと蠢いているしか出来なかったけど、直ぐに両肩を押さえられてしまった。
「シン! 動くんじゃない! 出血が酷い。ポイズングリズリーは既に斃した。落ち付け! キャララ、周辺の警戒を! 1頭だけとは限らないよ」
「あわわ。そうだったじゃねえの。任せて、一匹たりとも近寄らせないわ~な」
リュカはキャララにそう指示を出しながらもテキパキと俺の容体を確認している。腕、顔、脇腹そして背中と確認。さらに他に異常が無いかも確認して行く。
リュカは素早く確認すると腰にあるポーションを取り出し、特に傷の酷い脇腹と背中に振りかけ、さらにもう一本を俺の口に宛がう。急場の応急処置だ。
そこまで済んだ所でシルエラ、ミーシャ、シャーラが走り寄って来た。3人は遠方でポイズングリズリーの攻撃に間に合わないと判断した瞬間、足を止め詠唱に切り替えたのだ。
そのままポイズングリズリーを仕留めるほどの魔力を練り込んでの魔法攻撃を敢行し、また走り寄って来た次第だ。
「リュカ! 容態はどうですか!?」
「良くない! 毒も受けてる。早く解毒を! 血も流し過ぎているポーションじゃ、間に合わないかもしれない。薬師も呼んで増血作用のある薬草を煎じさせないと」
「薬師は直ぐに来る。カウルが途中で反転して薬師の元に行った。シャーラ! 添え木になる物を取って来なさい。マーシャ、お湯と包帯を探して来なさい」
広場の方からはオルタ姉さんを小脇に抱えたカウルが走り寄ってきている。オルタ姉さんは真っ青な顔をしたまま大人しくカウルに運ばれているが、その目はこちらを凝視したままだ。
だいぶ遅れて村長もこちらに近づいて来ようとしているが、安全かどうかが分からない状況では躊躇せざる負えない。
「リュカ! 腕の骨折は、どうやら粉砕骨折しているようです。治療に入りますから、大きな骨の位置を直しなさい。細かい骨は魔力で元の位置に集めますから」
「シルエラ! あたしのポーションは使い切った。お前の分を出せ。開放骨折を直す時にまた出血する。止血が最優先だ。解毒ポーションは誰が持ってる!?」
「今回は持ってきていない! ポイズングリズリーの攻撃など当たっても傷にもならないから不要と判断した。ほら、ポーションです」
「チッ! 裏目に出たな。薬師頼みだ。行くぞ、せーので直すから細かい骨を元に戻せ。直ぐにポーションを掛けるから遅れると変な風に皮膚が閉じるぞ」
「分かっています! 行きますよ。せーの! もう一度、せーの! よし。腕は取り敢えずこのまま、後はシャーラが戻ってきたら添え木を当てて固定しなさい」
「顔も確認したが、鼻も折れてるし、頬も陥没骨折か?」
「……の様ですね。これは素人じゃ手が出せない。薬師が来てからですね。カウル! 急いで来なさい!!」
「分かってるよ! これでも全力疾走だよ。さあ、着いた。薬師さん、直ぐに見てくれ」
到着と同時にオルタ姉さんを俺の前に下ろし、座らせる。オルタ姉さんはざっと俺を確認して応急処置に問題無い事を見てとる。
「応急処置は問題ないよ。そこの家に運び込んで。あたしの家だから薬は全部そこにある!」
横たわったままの俺をリュカとカウルで抱え、そっとそっと運ぶ。そこら中が傷ついている俺はちょっとした振動でも苦鳴が漏れてしまう。
比較的まともな足はまだいいが、上半身は結構な苦痛だ。腕は俺の腹の上に移動するだけでもかなりの苦痛を強いられたが、その後の移動でシルエラが押さえながら移動するのだが、揺れる度に激痛が走る。
オルタ姉さんが家の扉を開け、皆がそのまま俺を居間に運び込んだ。オルタ姉さんはそのまま薬剤庫に駆け込んで必要な薬草を集める。
「それにしてもちょっと目を離しただけで、ここまでやられるとは……」
「仕方ない。殆ど無抵抗でやられていたようだからな。それにいきなり村に侵入してくるとは考えていなかった」
「シンももう少し鍛えてあれば、逃げるくらいは出来ただろうけど殆ど一般人と変わらないままじゃどうにもできんだろう」
「ああ、薬師殿、薬剤はまだですか?」
「オルタだ。今行く。湯は集められたかい? 無いならそこの竈で沸かしておいてくれないかい?」
「了解した。ポーションはまだ必要だろうか? なんなら仲間から集めておくが……」
「ああ、頼むよ。どうにも体力が落ちてきてるから、予断を許さないね」
◇ ◇ ◇
あれから三日が経った。俺は何とか一命を取り留めたが、動けるようになったのは今日だ。シルエラ達は昨日先に街に戻ってポイズングリズリーの討伐の報告に行っている。
「シン。大丈夫かい?」
「ああ、動くとまだちょっと痛いが筋肉が衰える方が心配なんだ。この後も生きていかないとならないからね」
「ふふ。心配しなくても同胞のエルフも私もお前くらい養ってやれるさ。慌てる事は無い」
「そこも問題でね。俺としちゃあ、養ってもらう訳にはいかないんだよ。自立してるんだからさ」
「ふふ、ははっは。いつ自立したのか聞きたいけど、まあ、聞かないでおくよ。あっはっは」
「……。確かに自立したとは言い難いかもしれないけどね」
あ~あ、折角交換して貰った装備も台無しだよ。やっぱ鎧を優先するべきだったかな~。残ったのは靴のみってどうなのよ。
それにFランクの縛りも過ぎちゃったし、もう一回ルカとマカの採取からかよ。泣けてくる。
これで一旦終了です。




