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2.村に入れて

 大分時間を無駄にしちまった。やっとこさ着いた村の前でしみじみと思う。ゲームのフィールド上で間違っても途中のエンカウントモンスターが面倒くさい程度で直ぐに戻れる。


 現実は何時間もかけて行ったり来たりしなければならないから大変だ。時間経過まであるのだから、既に辺りは夕方になろうかという時間である。


 時間的にヤバいこともあってマラソン気分で走ってきたからまだ夕方では無い程度。村の入り口、粗末な木造の柵がかろうじてあり、木の門も存在する。


 まだ開いているその門の前、僕が門に近づくとその脇に立っていた守衛さん(?)が槍を構えて僕を威嚇するように立ち塞がる。


「え~と。こんにちは。村に入りたいんですけど、税金は要らないですよね?」


「ああ、いらねえ。けど怪しい奴は入れらんねえ。おめえさ何処から来た? 何しさきただ?」


「えーとですね。ちょっと記憶が曖昧なんですけど、馬車に便乗させて貰ったみたいなのですが、これが失敗で後ろからポカリ、気付いたら身包み剥がされて馬車からポイです」


 未だ胡散げにこちらを見ている守衛さん。そりゃそうだよ。嘘だもの。じゃあ、なんて言えばいいのさ。


「ですから無一文では街にも入れず、こうして村の方にご厄介になりに来た次第です」


「そっただ理由じゃ、村さ入れらんね。どっか行ってけろ」


 ええ~。予想外だよ。まさか断られるとは思ってもみなかったよ。普通ここは親切に大変な目にお会いになったねぇ~とか、かわいそうにねぇ~とか言うとこじゃね!


 そうじゃなきゃイベント発生しないじゃんか! どうやってこの落ち着けるんだよ。……あ、これってゲームじゃないから落ち要らないや。


 えっ? と言う事はマジで断られてるの? 僕どうなる? 野宿ってこと? これ以上進展なかったら僕ここでバッドエンドじゃん!


「ちょ、ちょっと、お願いしますよ。本当に困ってるんです。馬小屋でも良いですから泊めて下さい」


「馬鹿コクでねぇ。馬さに悪さされてみろ。こちとら死活問題でねか」


 えぇぇ~~。そ、そっか。馬は労働力の要なのか。家族同様な扱いなんだっけ。失敗した~。


「あ、そうですよね。じゃあ、軒先でも良いですからほんと、獣避けさえあればいいんでお願いします」


「だめだ~。お目ぇさが悪さしねぇって言う保証がなんもねぇ。村にメリットがなんもねぇ。デメリットばかりだ~」


 くっ。正論だ。この守衛さん手ごわい! 俺程度の知恵じゃ上手く言い包めるなんて無理。土下座か土下座しかないか!?


「そこをなんとか! お願いします。お願いします。この通りです」


 僕はこの後の事を考えて、必死になって頼み込んだ。まだ土下座は早い。最終手段だから、この後の展開次第だと思う。ここは泣き落としで凌ぎたい。


「そっただことさしても、ダメなもんはダメさ。おらは村を守んなきゃなんねぇ。……困っただ。どうすんべ……」


 何度断られようとこっちも必死だ。ひたすら拝み倒す。するとだんだん態度が軟化してきた。こちらは妥協案なんてなんにも無い。どうにか向こうから妥協案を出してくれるのを待つ。


「んだら、おらでは分かんねぇだ。村長に聞いてみるだ」


 よし。一歩前進。槍を突き付けられながら村に入る事が出来た。そのまま守衛に指示されるままにやや大きめのアバラ屋の前で止まる。


 守衛さんがそのアバラ屋に向かって、声をかけると中から壮年の男が現れた。どうやらこの男が村長らしい。うーむ。僕の感覚だと村長ってのは老人無いし初老くらいなんだけど、大分若い。


「ウォルト。すまねぇけんど、こいつがどうしても村に入れろとかなわねぇだ。どうしたらええかな?」


 守衛さんはさっき僕が付いた嘘をそのまま繰り返して村長に伝えた。


「エルフか。……厄介だな。お前村に入ってどうする気だ」


 僕の考えでは、街に入るための1000リュームをここで稼ぎたい。この程度の金額なら木端仕事で何とかなるのではないかと思っている。


「ええとですね。最終的には街に行って冒険者か行商登録でもしないと二進も三進もいかないと思うんです。元手も無いので行商もきついかもです。ですから、少々稼がせて貰ったら街に行きます」


「お前さんのその細っこい腕で木が切れるとも思えねえがどうやって稼ぎなさるね?」


「見ての通りエルフなので木を切るのは気にいらないです。なので薬草なんかの採取か野鳥なんかの狩猟では稼げませんか?」


「ふむ。薬草なら薬師のオルタ、肉なら俺のところで一括して引き取る事は出来る。それにしても素手で獲れるのかね?」


「材料なら森に幾らでもありますよ。今晩さえ凌げれば、明日は森に入れるので。薬師の方をご紹介頂ければ、必要な薬草を探しに行きます」


「……仕方ないな。エルフ伯や獣候の件もある――か。うちの納屋を貸そう。あとは勝手にやってくれ」


 何やら聞き慣れない言葉もあったが、渋々ながら村長の了解を得た。いきなり死亡を回避できた。思わず安堵のため息が出ちゃった。


「ありがとうございます。すいませんが水を一杯戴けませんか?」


 朝から何も摂取していないのだ。喉はカラカラだしお腹も減っている。食料は分けて貰えそうにないけど水くらいなら分けてもらえるだろう。


「共同井戸なら使っても構わないが、エルフはそのまま飲んでも大丈夫なのかね? 我々人間は沸かしてからじゃないと飲めんのだがな」


 なんだって! ここで重要情報。知識の泉カモーン。なになに。生水は基本飲めません。沸かしてから飲みましょう。ガッデム! 地球でも水をそのまま飲める国って4カ国くらいしかないんだった。


「……沸かした水を分けてもらう訳にはいかないですよ……ね?」


「ああ、みんな薪も水も自分で汲んだりしているんだ。使用許可を出しているんだからそこまで面倒は見れん。ここは開拓村、それもただの拠点村だぞ。そんな余裕ある訳ないだろう」

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