表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/29

15.ピットラビット

 くっそ。こんなに深くまで入るんじゃなかった。ブラウンベアの痕跡を見つけてから急ぎ足で戻っている途中だ。


 いつブラウンベアが現れるか気が気じゃない。いつもよりもっと気配を消して、音も立てずに帰路を急いでるんだけど、アタックボアでさえもう一度出会ったら勝てないのにと思ってしまう。


 やっぱり辺境の最前線だよ。おっかない獣が直ぐ近くに居るな。……そうか。ブラウンベアが近くに居るからウルフ系の獣が居ないのかも。


 あいつら縄張りが被るから、ウルフの方が弾き出されたのか。う~~、おっかねぇよ~。いつ現れるんだよ。いやいや、現れちゃいけないんだけど。


 日本で羆が居るから気を付けてって言われた時より怖いな。地球の熊はよほど飢えてなかったら人間をあまり襲わないどころか逆に逃げてくもんな。


 たまに運の悪い人が、仔連れとか出会い頭とかで襲われるくらいだものな。蚊の方がよっぽどおっかねえよ。マラリアとかテング熱とかあっさりかかるから。


 もうダメ現実逃避もここまで。気が逸れないよ。木の上に避難するか? いやいや、熊って木登り名人だった。逃げ場がなくなるだけだよ。


 走って逃げるしかないか。いやいや、熊ってスプリンターだよ。おい! 熊最強じゃね! どうしろって言うんだよ。神頼みか! もうそれしか残って無いのか!


 ――っあ! 獲物発見! こんな時にピットラビットだよ。美味いらしいな。食った事無いけど。え~と、弓は壊れてるから無理か。


 ああ、くそ! 獲りたいな~、毛皮も高級なんだよな~。槍投げてみようかな? 当たったら儲け物だし、このまま見逃すよりはいいよな?


 おお、もう1羽出て来た。2羽だよ。でも槍は一本だよ。ならば射線が重なる位置に移動して、ゆっくりゆっくり慌てるなよ俺。


 ここかな? ここなら2羽、同時に狙える。ダメでも1羽は取れるだろう。深呼吸だ、慌てるな。エルフ特性を信じるんだ。森はエルフのテリトリー。森に居るエルフは最強だ。


 あの1羽がもう一跳ねしたら、行く! 決めた。迷わない。数分刻にもよる対峙だった。警戒感丸出しだったピットラビットだが、息を潜めた俺に気付く事は無かった。


 ビュッとひと思いに投げた。射線は重なってる。動くなよ。投げた瞬間にピットラビットは動きを止めてピンと耳を立て警戒した。


 それが仇となってしまったのです、はい。1羽目は腹を貫通して2羽目は足だったけど、槍と仲間の死体で身動きの取れない状態だったので素早く飛び出した俺に止めを刺されることになった。


 やった、やったよ。姉さん。また獲ったよ。俺って天才じゃないだろうか。こんなにうまくいくなんて思わなかったな。ふふ、どうよ、オレ様最強伝説か!?


 ちょっとだけ俺が有頂天になっていたその時、物凄い咆哮が聞こえて来た。ブラウンベアだ! 忘れてた。近くに居るのに、俺ってばダメじゃん。


 それも凄く近くだよ。獲物を獲る時に気配を殺し切れて無かったから感づかれた? 動くな! まだバレてない……と思う。どうしたらいい?


 獲物に夢中で周囲の警戒を怠るってどうよ? どこが最強伝説なんだよ。もうお終いか。ここまでなんか。俺が生き延びられた時間って1週間くらいじゃん。


 待て待て、まだ終わった訳じゃない。早鐘を打つように俺の心臓がバクバク言ってるけど、落ちつけ落ち着け。


 ……熊の嗅覚って犬より優れてたんじゃなかったっけ? ――っ嫌な事思い出した。このままここに居て大丈夫か? そうだ風の向きは……一応風下かな?


 咆哮が聞こえたのがあっちだったから、多分匂わないと思うけどピットラビット狩っちゃってるんだよな。血の匂いとかしてると思う。


 その時バキャっとかまたしても凄い音が聞こえて来た。これってマーキングしてる音? 派手じゃないかな? 


 もう汗がダラダラ止まらない。近くに居るんだよ。風の向きが変わったら一発で見つかる自信ある。早くどっか行け、気付くな気付くな。


 どの位時間が経ったんだろう。マーキングの音が聞こえてから、藪をガサガサしている音が聞こえて、それが徐々に遠くに行ったのを聞いていた。


 風の向きが変わることも無く何とかやり過ごせた見たい。ホゥと溜息が出た。


「は……はは。……助かった。生きてる!」


 手元を見たらピットラビットの血抜きが終わって、既に固まりかけていた。俺は急いで立ち上がると、一目散に逃げ始めた。


 もうこんな幸運は二度とない。直ぐにでも逃げ出さなきゃやられる! そう思っても足が震えて上手く走れない。


 それでも徐々に速度を上げて逃げ切った。村が見えて来た時は物凄く安堵したよ。生きて戻ったのを実感したね。


「そうだ。直ぐに村長に相談しとかないと。ブラウンベアが居たんじゃ開拓どころじゃないだろう」


 俺は直ぐに村長の家に向かった。もう暗くなっているから樵の仕事は終わってる。村長宅で今までの事を話して対策を立てるように進言した。


「そうか。良く知らせてくれたな。しかし……どう対策する? 相手はブラウンベアだぞ。男衆で囲んで袋叩きにすれば斃せるかもしれんが、こちらの被害も尋常じゃないだろう」


「でも、不意打ち喰らったら、それこそ村ごと壊滅してもおかしくないだろ?」


「ああ、そうだ。とにかく明日一番で代官様に連絡を入れる。領兵が出動してくれればいいが、そうじゃなかったら開拓もここまでかもしれん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ