14.夜……この世界の○事情
食事が終わって薬草茶を飲んでいるところだ。普通の家じゃお茶なんか飲まないんだけど、薬師をしている姉さんだからこそなんだ。そこんとこ間違っちゃいけない。
「今日はシンはそっちで寝な。お礼参りが来ると思うからあたしは今日は休ませて貰うから」
??? ――っ! なに? 今日はなしなの! この若い血潮をどうすれば! あれ? お礼参りってなに? 俺の感覚だと来ちゃダメなやつなんだけど。
さっさと姉さんが自分の部屋に引き揚げてしまった。扉に縋りついて涙を流したよ。渋々自分の部屋に戻って寝る事にしたら、夜中にカタンと音がして扉が開いた。
真っ暗闇の中だけど俺には夜目がある。見えたところでは女の人が一人、二人、三人! 俺の部屋に入って来た!
ここで俺も合点が行ったよ。いくら鈍くても夜中に薄物一枚の女に人が入出してくれば何か分かるってものだ。姉さんが言っていたのはこの事かっ!
ここでこの世界では、産めよ増やせよ地に満ちよが一般的な神様の教えになるくらいに常識です。特に処女性とか身持ちの固さとか倫理的なタブーはそんなに広まってません。
なので、一夫多妻とか多夫一妻とか多夫多妻なんかまである。一般的には一夫多妻だけどね。なぜかと言うと男が少ない。と言うより少なくなっちゃうんだ。
男は当然危険な仕事が多い。さらに脅威となる魔物までいるんだ。そりゃ死んじゃうよ。さらに残った男も多数と対決するためお疲れ気味です。
支配階級的にも人口の増加は収入の増加に即、繋がるので推奨しています。土地は余ってるしいくらでも開墾してってな状態なんだよ。
女手が多いことも子育てを容易にしてるんだ。10年も経てば戦力が増えるしその家は安泰になって行くんだ。
暮らし向きが向上した家にはまた女達も集まってくる。また増えるの好循環。問題になるのは大黒柱、足る男が死んじゃった場合、ある程度奥さん達だけでもやっていけるけど跡取りが居ないと好循環が途絶えちゃうんだ。
そこで、産めよ増やせよ地に満ちよ! 残った奥様方がとる手段が次代の跡取り及び労働力を余所からでも増やす事。
すると安泰な家でも同じで、増えればもっと安泰になってくる訳だよ。そんな環境でタブーなんか育たない。旦那はお疲れ、奥様は余ってるんだもの。
唯一凄く安泰な家は、その優秀な血筋を残そうとする場合くらいだ。その場合は、凄く身持ちが固くなる。貴族とかね。凋落してくると優秀な血筋を入れようとしたりもするけどね。
まあ、この世界で凄く成功してるのが王家、次いで貴族家、商家なんかかな。商家なんかは結構潰れちゃったりすることも多いけど、外に行くことが多いからね。
初めての狩りでアタックボアを狩ってくる俺は優秀な血筋と取られたかも。またはお礼参りだから薪を拾って来たからかな?
逆の夜這いが成立する背景がこんな感じ。俺異種族だよ? と思わなくもないが、どうやら若い子たちが来てるみたい。好奇心旺盛だね。
ええーと。現実逃避してる場合じゃない。既に3人とも洋服が滑り落ちてる。獲物は俺! うん、まあ、俺も若いから。ウェルカムだよ。
そんなことがありましたとさ。翌日はいつの間にやら俺一人。いつの間に帰ったのか、夢だったのか。まあ、いいや。朝はそのまま姉さんの所に行こう。ちゃんちゃん。
「今日は弓の修理のために材料を探さないといけないんだけど、シーナの木がある処知ってる?」
「ん~ん。流石に使わない木の在り処までは知らないね~」
「そっか。じゃあ頑張って探してみるよ。茸か薬草なんか要る?」
「キリュウ、ムカ、ダダ、サロメの皮なんかはそろそろ補充してもいいかな?」
「了解。採ってくるよ」
朝から水汲みと薪拾いを熟して、出発する。まずは最初に見つけた場所に行ってみる。その周辺なら芽吹いている木があるかもしれないからな。
薬草とサロメの木はあるんだけどシーナの木は無い。早々都合良くは無いか。もう少し捜索範囲を広げてみよう。
村から2刻くらい離れた処、かなり深く森に入っちゃった。エルフの足で2刻だからね。森の中でも平地と変わらないように走れる俺だから2刻はかなり奥深いところだ。
お陰で茸や木の実、珍しい薬草なんかも多数見つけてる。その分危険度も跳ね上がってるけどな! お陰でやっと見つけたシーナの木。
良い枝ぶりだ。良さそうな所を数本採っておこう。また壊れてここまで来るのは大変だからね。結構重い。腕くらいの太さの枝だから3本も持てば結構な重量だよ。
シーナの木を探してかなり奥まで来ちゃったから、もう帰らないと暗くなる。周囲を警戒しながら急ぎ足で戻る途中、嫌な物を見つけちゃった。
かなり大きな木にある傷跡。これってブラウンベアの縄張りの印。マーキングだよね。と言う事はこの辺に居るってことじゃないですかっ! やだ~。そんなのに見つかったら大変だ。
戻ったら村長に相談しないといけない。戻れたらだけど。どうか見つかりませんように! 見つかっちゃいけない獣、ナンバーワン、ブラウンベアが近くにいると思うと足が震える。