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12.パンと肉

 オルタ姉さんが生地を持って出て行ってしまった。そわそわ。うん。パンを焼くのってみた事ある? 前世を含めても無い。パン屋さんで焼いているらしいけど、奥の方だから見えないんだよね。


 たまーに、焼き立てが出来ましたー、って言って女将さんがふかふか、アツアツなのを持ってきてくれるんだよね。これに当たったらラッキー!


 …………。見たいよね? 見に行っちゃう? 行ってもいいと思う? 留守番してなって言われたけど……。行ってみよう。わくわくするね。


 早速オルタ姉さんの家を出て、パン焼き竈のある方に向かう。パン焼き竈は大抵の村や町には1つはある設備だ。


 これは村人程度じゃ設置出来るような金額じゃないから領主やら代官が設置してくれるんだけど、税金を取られたりするところもあるらしいよ。


 幸いこの村は、まだ開拓前の拠点なので税金どころか補助金が出てるらしいけどね。パン焼き竈は村の中心付近、村長宅の傍に設置してある。


 それだけ重要な施設と言う事だ。これないとパンが焼けないからね。一番薪が必要な一番の人は結構嫌なんだよ。だからクジ引きで誰が一番最初に焼くか決めるんだって、知識の泉さんがそう言ってる。


 この村なら薪は豊富にあるから、取ってくる手間が嫌なだけなんだけどね。そんなに大きな村じゃないから、直ぐにパン焼き竈のある処に来た。姉さんの言う通り女衆が集まってきてる。


 俺が近づいて行くと、オルタ姉さんが直ぐに気が付いて話しかけて来た。


「どうした、シン?」


「うん。パン焼き見たこと無いから見に来た。もう始まっちゃった?」


「いや、これからだよ。今は籤を作ってるところだぞ」


「なら姉さん、一番引きなよ。薪なら俺が取ってきてやるから」


「ほう、言ったな。それなら。――おーい。一番はうちが引き受けるぞ。さあ、竈の前を空けとくれ」


 ふふ、早速姉さんが名乗りをあげちゃった。そのままズイズイと竈の前に移動して、手持ちの薪をくべ始めちゃった。


 こりゃ、いけない。直ぐに追加を集めて来なきゃ。家に取って返して背負子を持って薪を集める。背負子一杯になった処で今度は竈の処に戻る。


「オルタ姉さんお待たせ」


「ああ、そこのに置いてちょうだい。バンバンくべるからな。そら、もう一回行っておいで」


 うへぇ。人使いが荒かったな。俺はもう一度開墾地に向かって駆け出した。2回目の薪集めだ。背負子一杯にもう一度取ってくると、どうやらみんなの分も賄う事にしてあるらしい。


「(あたしだけあんたに優遇されちゃうとご近所付き合いがし辛くなるんだよ。悪かったね。でもきっとあんたにもいい事あると思うから)」


 オルタ姉さんがコッソリ俺に耳打ちをして教えてくれた。なるほど。ご近所付き合いまでは考えてなかった。気を付けよう。


 十分竈が温まるにはそれなりの時間がかかる。その間にパンを小分けにしてパン焼き皿に並べて待機しておくんだ。何やら姉さんの周りが姦しい。


 井戸端会議ならぬ竈端会議だね。こういう処で女衆達は情報交換をしてるのか。どうやら薪の節約になることへのお礼がオルタ姉さんに集中してるようだね。


「なに、かまわないよ。あのエルフの坊やの面倒を見てるんだから、そのくらい朝飯前さね」


「坊や?」


「ん? ああ、そうか。そのエルフは見た目通りの坊やなんだよ。若く見えるけど年を取ってる様なのとは違うってこと」


「へぇ~、あたし若いエルフなんて初めて見たかもしれないね。それで幾つなんだい?」


「そういや~。若いってだけで年までは聞いてなかったね。シン、幾つなんだい?」


「15だよ」


「――っえ?! 成人したてだったのかい?」


「……うーんとそうでもないよ。そろそろ16になるから」


「変わんないよ。あたしの半分くらいじゃないか?!」


「そう? そんなに違う? それで、姉さんはいくつなの?」


「女に歳聞いてどうすんのさ! と言ってももう拘るような歳でも無いか。28だよ」


「まだまだ若いじゃん」


「エルフに言われてもねぇ~。あっはっは」


 馬鹿話をしながら待っていると十分竈が温まって来たので、生地を投入する。あとは焼けるまで待機だけど、俺達は家に取って返して、肉の下処理をする事になった。


 アタックボアの後ろ脚から骨を取って、一人分―500グラム以上あるんだけど―に切り分ける。切り分けた肉の塊に塩をまんべんなく刷り込んで、軽く胡椒を振る。


 下味を付けた肉に串を刺して、湯を沸かしている竈の火で直接焙って行く。全体を強火で焦げ目が出来るくらい焼いて、一旦火から降す。


 大きな葉っぱ、カナリの葉っぱだね。に乗せる。ある程度肉が冷めたら、ハーブを数種類入れてカナリの葉っぱで包んで今度は遠火でじっくり蒸し焼きにする。


 上で沸かしていたお湯に数種類の野菜とハーブに塩を入れて、こちらも放置らしい。スープも作るみたいだね。


「よし。あとは置いておくだけだから、竈に戻るよ」


 そろそろパンも焼けた頃合いだ。竈に戻ると芳ばしいパン特有の香りが既に漂っている。オルタ姉さんがパンの焼き加減を確かめてから竈を開ける。


 一気に匂いが広がった。出て来たパンは、人の顔の大きさくらいの丸いパン。表面にバツ印が入ってるよ。なんでバツ印を入れるんだろうね?


 オルタ姉さんが自分の分を取り出して、袋に仕舞って行く。竈は大きいから一遍に何人か分が焼けるんだ。次の方達と場所を替わって、焼き立てのパンを持って家に帰る。


 後は食べるだけだ。

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