優しい終わり
僕は観察していた。
世界が終わる日を。
皆がパニックになってる中、一人屋上で静かに最後の時を過ごしていた。
そんなところへ誰かが来た。
振り返ると、親友の優くんだった。
「やあ、優くん」
「やあ、聡くん」
二人で並んで、街を見下ろす。
「僕の両親さ、死んだよ。普通じゃない人たちに殺された」
「そうなんだ、大変だったね」
「ねえ、なんでそんなに平気な顔していられるの?」
「え?なんでって…」
「君の親が…あんなの作らなければこんなことにはならなかったんだよ」
「そんなの僕に言われても僕は何もできないよ」
「…そうだよね。ごめん。八つ当たりだった」
「いいよ。慣れてるから」
「僕さ、行くところがないんだ」
そう言ってなく優くんの頭を撫でて慰めるようなふりをすることくらいしか僕にはできなかった。
「世界は終わるんだね、聡くんは何かしたいことってなかったの?」
泣き止んだ優くんはそう聞いてきた。
「うーん…特にないかな。今となっては犯罪者の息子だし」
「そっか。下の方はだいぶ汚染されてきたみたいだね。」
「そうだね。そろそろ上の方にも上ってきそう」
「うん…あのさ」
「何?」
「僕、死にたくないなあ」
「…それは無理だよ」
僕の親が作ったウイルスは世界を覆い尽くしていく。
地上からだんだん上空に上ってきている。
ぼくは死体の山を眺めていた。
開発者とその息子の僕と親友の優くん以外は地上が危ないなんてこと知らなかった。
死ぬ時間が少し伸びる程度の差で、得するとか損するとかはないけど。
親友で口の堅い優くんには今日携帯でメールを送って知らせた。
それから多分、僕の住んでるマンションの屋上にいるだろうと推測して、優くんは来たのだろう。
「どうして」
「え?」
「どうして、最後の時を僕と過ごしたいなんて思ったの?」
「それは君が僕の親友だからだよ」
単純な答えだった。
それでも嬉しかった。
「…そっか」
「…眠くなってきた」
「眠るように死ぬように設計されたウイルスだからね。やさしいウイルスでしょ?」
「確かに……やさしい…ね…」
「おやすみ」
「…うん」
優くんが眠りにつく。
僕も眠くなってきた。
もう目覚めることはないんだな。
そう思うと少しだけ怖くなった。