第7話 冒険者ギルドの定番依頼
冒険者ギルドで簡単な依頼を受けてみることにした山波
できることと言えば薬草の採取くらいだ。
村を出て薬草のある林のそばで薬草採取をする。そこで出会った新たな魔物とは
起きたとき昨日のような気怠さはなかった。はやりベッドがいいからだろうか?
寝る時間が早いので、朝起きる時間も必然的に早くなる。
顔を洗って歯を磨き、朝食を準備する。既製品の卵焼きに納豆、海苔に昨日の肉を薄く焼いて、昨日のみそ汁を温めなおす。
余ったご飯を昼食用に肉を具におにぎりにしてラップに包む。ついでにツナ缶とペットボトルの水もバッグに入れておく。依頼を受けた場合の昼食用だ。
片づけなどを済ませて、着替えて冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドはまだ朝の8時前なのに既に10名以上の人がいた。
簡単な依頼の掲示板を眺めながら単独で出来そうな依頼を探していたのだが、初心者定番の薬草の採集が掲示板に存在していない。
どうしようかと考えていたら、後ろから声を掛けられた。
「ゴロウさんおはようございます」
昨日の冒険者の女性のスミレンだ。その後ろにジョルジュもいる。
「ああ、おはよう」
「依頼を探しているのですか?」
「初めて立ち寄った村だし、簡単な薬草採取の依頼でもあれば受けようかなと思って探しているのですが……」
「そうですか、でも、薬草採取の依頼は掲示板にはないですよ」
「?? なぜ?」
「それは、常時受け付けの依頼なので、依頼を受けなくても、他の依頼のついでに薬草を持って来れば、それで依頼達成になるものなので、わざわざ掲示板には載らないんですよ」
たしかに、薬草採取を依頼として受けるのではなく、他の依頼のついでに一定量採取してくればそれで依頼達成とした方が効率がいい。態々、薬草採取だけの依頼を受けるなんて二度手間である。
「そういう理由か。でも、薬草の姿かたちを知らない人はどうするんだい」
「冒険者は最初に登録するときに、初心者ガイド本をもらえ、ちょっとした講習を受けるんですよ。その時にもらったガイド本で覚えるんです」
「なるほど、私は冒険者登録をしたわけではないので、そこまでの仕組みは知らなかったな、ちなみにそのガイド本はもらうことができるのだろうか?」
「冒険者登録していない人は銀貨1枚で売ってくれます。ゴロウさんは特Sですのでどうなんでしょう」「うむ、それじゃ受付の人に聞いてみる。スミレンさんありがとう、助かった」
「いえいえ、それで、王都の件ですが……」
「あ、どこか空いているテーブルで待っていてほしい、本を受け取ったら予定を決めましょう」
「わかりました」
昨日の受付の人のところに向かい、ガイド本について確認してみることにした。
「アークトゥルスさん。おはようございます」
「ゴロウさん、おはようございます。今日はいったい?」
「薬草採取の依頼を受けようと思ったのですが、初心者冒険者向けのガイド本があるとスミレンさんに聞いたのですが、その本を売ってもらえないかと思いまして」
「はい、あ、え~。ゴロウさんは特Sですので、このガイド本は差し上げます、それで薬草採取されるのですか?」
「一番簡単な定番依頼だと思って。昨日、受けてほしいみたいなこと言っていたので、体験してみようかなと」
「あ、ありがとうございます。こちらがガイド本です。お気をつけて」
受付の後ろの棚から取ったガイド本を渡してきた。
それを受け取りスミレンたちのいるテーブルに向かった。
空いている席に座って、
「おまたせしました。昨日の件ですが依頼について承知しました。今日は午前中に簡単な依頼を体験してみて、午後出発しようと思っていますが、いかがでしょう?」
「そうですか、まったく問題ありません。宿を引き払って出発の準備をするだけですのでいつでも行けます」
「よかった、私はこれからガイド本を読んで薬草を取りにいくので、2人は出発の準備をしておいて貰えればと。一応午後出発ということにしたいので、14時にギルドで待ち合わせということで」
「わかりました、でも、薬草採取大丈夫ですか?」
「さっきパラパラとガイド本を読んだところ、昨日、草原で見かけたような気がするので問題はないとおもいます」
「そうですか、スレイプバッファローには気をつけてください」
「採取が終わったら薬草の依頼達成のついでに2人に護衛をしてもらうことを、受付に言えばいいかな?」
「はい、それで問題ありません。あとは受付で手続きをやってくれます」
「わかりました。それじゃよろしくお願いします」
ゴロウはそういって、スミレンとジョルジュと握手をしたのち、ギルドを後にした。
昨日の草原までやってきたが、スレイプバッファローはいなかった。
ガイド本を参考にしながら、草原を歩き回っていると奥の方に似た草が生えていた。ヨモギに似た形状なので他の草とは違い存在感がある。他の草はツンツンしているので余計に目立つ。
そこに生えている薬草の葉の部分のみ十徳ナイフで切り、袋に入れていく。
根から抜いてしまうと、薬草が生えなくなる可能性があるので、薬草の葉の部分のみ採取するようにガイド本に書かれていた。
数本の薬草から葉の部分のみを採取し、全部で30位になったのでこれで依頼達成ということになる。
最後の薬草の根元を見たら、透明の生物? のようなものがフルフル動いていた。
一瞬、腰が引けたが、よくよく見るとクラゲのように見える。が透明ではない。限りなく透明に近いが半透明。少し緑がかっているそれは、海鮮居酒屋などにある薄青緑のガラスの丸い浮き玉の色に近い。
なんだろうと、手を近づけたらススーと遠ざかって行った。ガイド本で確認したら、スライムという記述があった。魔物であるが人を襲うことはほとんどない。と書かれている。
「おお、これがかの有名なスライムかぁ」
「スライムさん、オイデオイデ」
とついつい変な声を掛けながら地面に手のひらを上にしてクイクイやってみたら、こちらに寄ってきて手のひらに乗っかった。
手を持ち上げスライムを顔の近くに持ってきて観察してみた。
サイズは手のひらよりやや小ぶりなので10cm位だろうか。肉まんを透明にしたような感じで、フルフル動くのが面白い。やはりやや青緑がかってみえる。
「面白いな」
なんだか可愛いのでお持ち帰りしたかったが、魔物を村に入れるとどうなるかわからないのでやめておく。かわりに自撮りを含めた写真撮影だけして地面に戻してあげた。
ススーと動きながら手のひらから移動したスライムは草の間に消えていった。
手のひらに粘着物が付くようなこともなかった。
こちらに来て早くもスライムまで見てしまった。なんだか楽しくなってきた。
しかし、なんだか、旅行というより動物記いや魔物記になっている。まあ、記というほどでもないが。
顔を上げて村に帰ろうかと振り向いたら、昨日のスレイプバッファローが真後ろに立っていた。
ふたたびびっくりして声を出しそうになったものの声は出なかった。襲ってくる様子もなくこちらを見ている。
胸を押えて
「おいおい、老体をいじめないでくれ、心臓が止まるかと思ったよ」
言葉がわかるがわからないものの、ついつい冗談をいれて語りかけてしまった。
「昨日のお前か?」
声を掛けると「ばみゅん」と鳴いた。
(ちくしょう。面白すぎる)
一旦鳴いてからゆっくりと歩いてきた。襲うとかそういうのではなく、そのまま山波の胸辺りを押すながら歩き出した。
「ちょ、ちょっと何をするんだ」
山波の訴えを無視してずんずん押し歩く。
「ストップ、止まれ、一旦停止!!」
少しパニックになってしまった山波は牛に声をかけた。
牛は一旦止まったものの、今度は右腕を噛んで引っ張っていく。
噛まれている部分は痛く無ないもの、贖いきれない力で引っ張られていく。
「ちょっとまった、付いてきてほしいのか?」
咄嗟に牛に話しかけた。牛は再度止まり、その通りとでも言うように「ばみゅん」と鳴いた。
「わかった、付いていくから押したり噛んだりしないでくれ」
牛の意図が分からないが、ままその後ろを付いて行くことにした。
暫く後ろを歩くと、草原と森の切れ目部分に到着した。牛はさらに歩き森の中に入って行った。
森の入口から1分も歩いていないところで牛は止まりこちらを見た。そして、その視線を目の前に移した。
山波が牛の目線を追って牛の前を見たら、犬のような動物がその先で倒れているのを見て取った。
あわてて走り寄りその犬をみた。大きさは大型犬よりやや大きい。いや十分に大きい。虎とかライオン位あるかもしれない。体毛は汚れているものの、やや赤みかかった銀色だ。目は閉じていたが、お腹が上下しているので息はあるようだった。獣医師でも何でもないのでそれをどうすればよいのか分からなかったがとりあえずバッグの中に入れていたペットボトルの封を開けてその口にあてがった。
犬は水をがふがふと飲んでいたがやがて眼を薄く開きこちらを見た。
それでも飲むのを止めず、いつしかペットボトルの水は口からこぼれながらも全て飲み干されてしまった。
「大丈夫か?」
水が無くなったペットボトルを回収し、犬に手を出そうとしたら、『がるるる』と唸りを上げたので素早く手を引っ込める。野生動物とペットの境界線のない人間の悪い癖である。
すると牛が鼻を犬に押し当て突っつき始めた。犬はそれによって唸るのをやめた。牛が犬に唸るなと叱ったような気がする。
犬を見てみると大きさのわりにやや痩せているかなと感じたが怪我などはしていないようだ。
犬に人の食べ物をそのまま与えて良いのか気にはなったものの、バッグからおにぎりを取り出し、ラップを解いて、大きな木の葉の上におにぎりを2個置き、犬の前に差し出した。手を出した時、一瞬唸るようなしぐさを見せたものの、おにぎりの臭いを嗅いだあと、一瞬こっちを見て食べ始めた。
余ったご飯で2個しか作れなったが2個とも犬は食べきった。
ついでにツナ缶の蓋を開けてこちらも大きな木の葉の上にあけて犬の前に出した。
犬はフンフンと臭いを嗅いだもののフンッと顔をそむけ食べようとはしなかった。と、牛が山波の横から顔をぬぅうっとだして長い舌で葉の上のツナ缶を一気に食べてしまった。
「ありゃりゃ」
まあ、動物だって好き嫌いはあるのだろう。しかし、スレイプバッファローがツナ缶を食べるとは知らなかった。まあ、もっとも、6本足の牛自体初めてなのだが。
山波は立ち上がり、スレイプバッファローの首筋をなでながら、スマホで犬の写真を撮影していく。
そして、
「もう、犬も大丈夫そうなので村に戻るよ」
と牛に話しかけ、手を振って2頭を後にして村に向かって歩き始めた。
一瞬犬が唸ったような気がしたが、これ以上世話をしても何もできないので無視することにし裏門へ向かった。