第5話 ポルックス村の冒険者ギルド
冒険者ギルドに向かった山波
ギルドからスレイプバッファローの話を聞く。
そしてあの件もついに判明する。
二人の後を歩くこと十数分、ようやくギルドにたどり着いた。
ドアを開け、中に入る。冒険者たちの視線が一斉にこちらを、などということは無く数人の人がいるだけであった。もっとも顔見知りの二人が先に入ったので山波の事は気にもされなかったようだ。
スミレンが受付と思われる場所にいる人に声をかける。
「アークトゥルスさん、スレイプバッファローの依頼達成してきました。こちらのゴロウさんが襲われていると勘違いされた人です」
「ゴロウ・ヤマナミといいます。なにか、私がスレイプバッファローに襲われているから助けてほしいというような依頼があったようで、ご迷惑をおかけしました。特に襲われていたわけではなく、体を触らせてもらい、もふらせてもらっていました」
「私は冒険者ギルドの受付のアークトゥルスといいます。えっと。体を触って? もふらせて? スレイプバッファローですよね?」
山波はその時の状況をさらに詳しく受付の女性に説明した。
「ええ!そんな話信じられるわけないじゃないですか!」
「と言われても……。う~ん。あっ、そうですね」
スマホを取り出し、スレイプバッファローと自撮りした写真をアークトゥルスに見せる。
「こ、こんな馬鹿な事って」
受付嬢のアークトゥルスが呆然としていた。二人の冒険者にも同じものを見せたところ、同様に唖然としていた。
「迷惑をおかけしたことは本当に申し訳ないですが、あの牛。えっとスレイプバッファローですか? からは襲われていたわけではありませんので、納得してもらえるといいのですが」
「ええ、この絵ですか? を見る限り襲われてはいませんね。でもあの気性の荒いスレイプバッファローがどうしてこんな……」
写真を見た受付嬢のアークトゥルスは納得がいかない様子だ。
「それで、これで一応依頼達成で構わないか?」
ジョルジュがアークトゥルスに話しかけた。本来のジョルジュの口調だろう。
「はい、依頼達成となります。ご苦労様でした」
とアーティクルスが銀貨数枚をジョルジュに渡していた。
「ありがとよ。ゴロウさんそれじゃな」
それを受け取った二人の冒険者はほっとした顔つきになって、山波に挨拶したのちテーブルに向かって歩き出した。
席に向かって行く二人を見ていたが、山波は牛の事が気になっていた。
「あの牛ってそんなに凶暴なのですか?」
「ええ、一定の距離内に近寄らなければ何もしてこないのですが、ある距離以内に近寄ると、逃げ出すか、突進してきます。逃げ出すのは子供で、大人はほぼ突進してきます。それ以前に人が近づくとまず遠くに去って行くので一定の距離に近づくことが困難ですけど」
「あのスレイプバッファローですか、私にはそんなに凶暴とは思えないのですが? 人間が襲い掛かって反撃しているだけとかではないんですか?」
「確かに、それはありますが、人を見ると襲って来るのは確かですし、現に何名かは襲われています」
「なんか私の場合、逆に守られていたというか、添い寝されていたというか……」
「不思議なこともあるものですね」
山波としては納得しがたい説明ではある。しかしこちらの世界に来てひと月も経過していない山波にしてみると、納得するしかない。何しろこの世界に於いて山波は部外者であるのだから。
「ところで、冒険者ギルドってどんなギルドなのですか?」
山波としては地球での異世界小説などでは定番中の定番の存在である冒険者ギルドであるものの、やはり確認はしておきたい。もっとも講習で大体の事は聞いているのではあるが。
「冒険者ギルドは、言ってみれば依頼を受けた仕事を何でもやる、何でも屋ですね。その中でも主に3っつの依頼が多いです」
「3っつですか?」
「はい、1つは採集。薬草や鉱石、魔物の部位などの採取・採集ですね。2つ目は護衛。村や町を行き来する人を山賊や盗賊から護衛します。3っつ目は討伐です。魔物と言われる生物の特に危険な生物を間引きしたり、討伐します。スレイプバッファローもその対象です」
(あの牛優しかったと思うのだけれどな)
「冒険者は誰でも仕事としてやっていける仕事ですか?」
「そうですねぇ。例え採採取であっても、魔物や野生動物から襲われる可能性がありますのである程度自身を守ることができないと命にかかわりますので、誰でも出来るかというと難しいでしょう。」
「なるほど。ところで、採取で魔物の部位ってありますけど、討伐とは違うのですか?」
「ええ、採取対象の魔物や野生動物はほとんど人に危害を加えません。人が近づけば逃げるような。ただ、討伐は人を襲う魔物や野生動物が対象になります」
「狩猟をする人はいないのですか?」
「狩猟は小型から中型の野生動物に限られますね。魔物は狩猟では倒せないですし、野生動物も大型の物は無理ですね」
熊や猪が街中に出てくれば討伐しなければならないであろう。日本などでは殺すことはほとんどないがこの世界は必ずしも日本の考え方、地球の考え方とは違う考え方がある。
「ところでゴロウさんはここら辺では見かねないですね。旅をしているとお聞きしましたが、もし、よろしければ冒険者ギルドに加入してみませんか?」
「え、私ですか? 私は年齢もいっていますので、体力的に難しいかなと」
「そうですかぁ。加入だけしていただいても構わないのですけど」
アークトゥルスはがっかりしたような顔をする。村で冒険者登録すると、村のギルドの評価が上がるので、1人でも多く加入させようとする。
山波は討伐などは出来ないが、採取くらいならできるかと考えていた。
「た、たとえば加入いただくと、冒険者証が貰えますので、それが身分証明になりますよ。いろいろ融通も効くようになります。たとえば部位などの買い取りは優先され割増しされます」
「身分証なら持っていますよ」
首から下げていた身分証を服の中からアークトゥルスに見えるように取り出した。
「ほら、この村に入るときもこれで入れました」
「そうですよね旅をしている方なら身分しょ、え、えええ!!」
「うわっ!?」
アークトゥルスが受付から身を乗り出したので、山波は受け付け台から少し下がってしまった。
「と、特Sですって」
大きな声とともに受け付け台からさらに身を乗り出し、胸倉を掴む。
何事だと、テーブルに座っていた先ほどの冒険者も立ちあがってこちらに歩いてきた。
「あ、驚かせてしまってしまってすみません。タグにあるお名前はゴロウ・ヤマナミさんですね。先ほどお名前をお聞きしましたが。ちなみにゴロウさんはタケル・ムドウさんをご存知ですか?」
「え、タケル・ムドウですか?知りませんが」
「そうですか、エルフの私でも実際に会ったことが無いのですが、ギルドで捜索依頼が数十年前から出ているもので」
名前は日本人と思われる。しかし山波はその名前は知らなかった。
さらにタグでこんな反応される思いもよらなかった。青ドラゴンも特Sについて何やら反応していた。
(それにしてもエルフか。異世界定番のドラゴンやエルフにこんなに早く出会えるとは)
「アークトゥルスさんはエルフなんですね」
「エルフと言っても、父が人族で母がエルフのハーフですけど。それよりもゴロウさんはなんで特Sなのですか?」
「なんでと言われても……。こちらに来るときに身分証明用として渡されただけで、特に意味があるようには……」
「えっ? そ、そうなんですか。もしかして旅訪者?」
特Sの身分証明について、やはり何か意味があるのか考えるが心当たりはなく、最後の部分は小声で聞き取れていなかった。
「特Sの方は、全てのギルドで優待するように通達は受けていましたが、ギルドに勤めるようになって35年ですが初めて出会いました」
ギルドに勤めるようになって35年と言った。それだけで年齢は山波よりは上であろう。エルフであれば定番は長命ということになる。山波もそれは知っている。気になるからと単純に女性の年齢を尋ねることはしなかった。
「優待扱いって、優遇されるってことなのかな?」
「ええ、どのギルドでも同じですが、ギルド内の飲食代金は半額、部位買い取り額は3割り増し、依頼報酬は2割り増しなどです」
山波は1週間のブートキャンプで旅行を後悔していたが、この話を聞いて漸く無料キャンペーン当選を受けてよかったと思った。
「もしかして、宿の代金とかも半額になったり?」
「はい。それはギルド直営の宿に限定されます。王都などではギルド直営の宿泊施設がありますので、そちらを利用すると半額になります。この村は個人経営の宿しかありませんので通常料金です」
「なるほど、なるほど」
「あの~、もしかしてゴロウさんはとてもお強いのでしょうか?」
「私ですか? いえいえ、『強い』という基準が分かりませんが、多少警棒の扱いは学びましたが、たぶん一般の人と同じだと思いますよ。ジョルジュさんやスミレンさんよりはるかに弱いと思いますけど」
「警棒? ですか」
「ああ、これですよ」
腰にぶら下げていた警棒を取り出し、スイッチを押して伸す。
この警棒はチタン製で衝撃に強く、しかも軽い。自分の身を守る分には十分なものである。手元のスイッチを押すと先端から30cmの間にある程度の衝撃を受けるとスタンガン以上の電圧と少量の電流が流れる特殊なものだ。野生のヒグマでも倒すことができる。死ぬことはないので熊を守りながら自分も守れるということで、農業関係者や登山者などにひそかな人気がある。
また、一度充電すれば1時間はスタンガン機能が使用可能である。
その代り購入時に身分証明が必要な代物である。
「ふわぁ、なんですかこれは軽いのに堅いですね、でもこれじゃ魔物は倒せませんね」
「あくまで護身用なのでね、ここに来る途中に出会ったドラゴンなんか戦いたくないですよ」
「えっ! えぇぇぇ。ドラゴンに遭ったのですか! よく無事でしたね」
「ああ、なんか私が持っていた酒を欲しいと言ったので渡したら、金貨1枚と鱗1枚もらいましたよ」
「うろこですか?」
「これです」
無造作にバッグから鱗を取り出し、アークトゥルスに手渡した。山波はこのとき石の事は忘れていた。
「本当に、ドラゴンの鱗ですね。しかも青ドラゴンですか。確かに青ドラゴンならいきなり襲ってきたりはしませんね。しかも本当にお酒が好きだったとは」
「まあ、折角もらっても鱗なんか何に使えばいいのか全く知らないのでねぇ」
「えっ、青ドラゴンの鱗で、これだけ美麗なものでしたら、金貨500枚は下りませんよ。もちろん冒険者ギルドで買取できますが、ここでは資金が無いので残念ながら買取は難しいです。ですが、王都なら必ず買い取ってくれますよ」
「き、金貨500枚!!」
と大げさに驚いている。
「でも、なさけないことに、それがどのくらいの価値なのか分からないですが」
「金貨1枚が銀貨100枚ですから、宿だとえ~と」
単純に地球の1年で換算すると68年ぐらい寝泊まりできるということになる。
「大雑把に68年ぐらい泊まれるって事ですかね」
「そ、そうです。そうなんです」
山波が宿泊した宿1泊8000円位になる。銀貨1枚4000円と考えると、金貨1枚は40万円になる。
物価を地球、しかも日本と同じに考えても実際には意味がない。なぜなら外貨を両替できないし、こちらの金貨1枚に歴史的価値や美術的価値はない為、金の含有量の価値にしかならなからである。
金貨などの貨幣は、此方で使い切る方が無難である。
「アークトゥルスさんどうもありがとうございます。もしかしたら簡単な依頼とか受けてみるかもしれません」
「その時はぜひよろしくお願いします。あ、冒険者ギルドも含めてゴロウさんのお持ちのタグはすべてのギルドで有効ですので、ギルド登録しなくても依頼や優遇を受けられますので安心してください」
「そうですか、便利でいいですね」
幾つか疑問はあるものの、お互いに挨拶をして、冒険者ギルドから出た山波であった。
時計は13時を過ぎていた。どこかで食事をしたいところだ。
ぶらぶら中央通りを歩いていた山波はどこからか漂ういい匂の後を追っていた。たどり着いた先にはフォークとナイフの看板がある店であった。
中にはお客はおらず、全ての席が空いている。
空いている窓際の席に座ると、時間的に昼時は過ぎたので心配だったが、店員が注文を取りに来た。
店員の人はエプロンのようなものをしてはいるものの、特に専用の服ではないようだ。
肉っぽいものを食べたかった山波は、店員に聞いたところ、スマイルバッファローのステーキ定食を薦めてきたのでそれを頼んだ。
スマイルバッファローは4本足の野生の牛だが、畜産として飼育している人もおり、肉や牛乳、加工品(チーズ、バター等)などに利用され、それらが流通していた。
暫くすると、ジュージューと音を出しながら厚めのステーキが自己主張しながら鉄板の上に乗っているメインがテーブルに置かれ。その後、パン、野菜のスープ、サラダ、飲み物が出てきた。
異世界も人が生活している以上、それなりの食生活があるとはわかっていたが、思った以上に肉肉しくておいしかった。サラダには先ほど畑で見た幹キャベツに似ているものも入っていた。
脂身(霜降り)の多い和牛にはこの肉肉しさを求めることは難しいだろう。
食事を終え、食事処を出て中央通りを歩きながら先ほどの冒険者ギルド内でのやり取りを思い出す。
(それにしてもタケル・ムドウか。いったいどんな人なのだろうか?探しているって言っていたな悪さして指名手配になっているとかだろうか?)
校正
畜産として飼育している物もおり->畜産として飼育している人もおり




